赤マント 第18話
思念
翼「あの、渡辺さん」
渡「は、はい」
あれから暫くして、翼たちは家を出た。
外は既に日が落ち始めていた。
泣き疲れたのか玲穏は寝てしまっている。
翼は助手席に座っている緋梨に聞いてみることにした。
翼「『赤マント』って一体何が目的で出てきてるんでしょうか?」
渡「……」
翼「僕も少し『赤マント』について勉強しました。けど、今回の『赤マント』は俺の知っている『赤マント』とは違う。殺されてるのは大人だし、どうやら『赤マント』は「赤いマントが良いか、青いマントが良いか」という問いかけをすることなく人を殺しているみたいですし……。まるで別物だ」
渡「……音無さんに聞きました。お友達が事件に関わってるって」
翼「……」
渡「都市伝説に出てくる幽霊って、大体事件や事故が起きたことで生まれることが多いんです。元は存在しなかった者が、人の妄想や恐怖によって本当に存在が生まれてしまう。そして、そういった人の思念で生まれた存在は、国や人の考え方によって簡単に姿形が変わってしまうんです」
翼「……」
渡「えっと、簡単にいうと『赤マント』は誰かの強いイメージによって生み出されたもので、それがネットとかで話題になったことで、人々の思念が強まってより具体的な姿になったんじゃないかと……」
翼「誰かの強いイメージ……」
翼は拓実のことを思い浮かべていた。
彼の殺意が『赤マント』となって姿を現したのだろうか。
翼「(けど、何で拓実が……。そもそも何で拓実は井上と揉めてたんだ? 姫愛が言ってた10年前のことって一体……)」
翼は必死に考えていた。
ぐぅ~……。
ふと、隣から腹が鳴る音がした。
翼「……」
緋梨は顔を赤くしながら腹を押さえた。
渡「……ごめんなさい。お昼から何も食べてなくて」
翼「フフフッ。何か買ってから帰りましょうか」
渡「……ありがとうございます」
緋梨はさらに顔を赤くした。
翼はそんな緋梨を横目に微笑んだ。
翼は一先ず、手軽に食べられるお店を探すことにした。
食事を終えた翼たちは、現在玲穏の家の前にいた。
音「ありがとう2人とも。私のわがままに付き合ってくれて」
翼「別にいいよ。俺も気になってたから」
渡「私もです」
翼「それより良いのか? 俺がお母さんに今日あったことを話した方が良いんじゃないか?」
音「……大丈夫。私も覚悟決めないと。お母さんと一緒に前に進みたいもん」
翼「……そうか」
音「じゃあ、先生。……また明日」
翼「……あぁ」
翼は車を発進させた。
バックミラー越しに見える玲穏の姿は、少し逞しく見えた。
翼「渡辺さん、家って何処ですか? 送りますよ」
渡「あ、いえ。近くの駅に送っていただければ大丈夫ですので……」
翼「そうですか……。(気まずい……)」
翼は緊張していた。
あまり女性と2人きりになるということがない翼にとって、女性との接し方は良く分からなかった。
翼「(姫愛とは上手く話せるんだけどなぁ……。というか、姫愛以外の女子と喋ったことあんまりなかったな)」
それから暫く2人は無言だった。
渡「ありがとうございました」
翼「いえ……」
結局、2人は何も喋らぬまま駅に着いてしまった。
渡「それじゃ……」
翼「あ、はい……」
緋梨は車を降りて駅に歩いていった。
翼「……ふぅ」
翼は息を吐いた。
翼「やっぱり女性は苦手だ……」
コンコン。
翼「ん?」
駅に向かったはずの緋梨が戻ってきた。
翼「どうかしました?」
渡「あ、あの……。まだ『赤マント』のことお調べになりますか?」
渡「あ、はい。そのつもりですけど……」
渡「あ、もし良かったら、次の調査の時にまた呼んでいただいてよろしいですか?」
翼「え?」
渡「あ、いえっ!! 『赤マント』のことが気になると言いますか、興味があると言いますか……。私、この変な趣味が人の役に立つなら何だってしたいんです。あんまり周りに同じ趣味を持った方がいないので。……ダメでしょうか?」
翼「……分かりました。よろしくお願いします」
渡「ありがとうございます!!」
緋梨は笑顔で言った。
翼「じゃあ……電話番号かメールアドレス教えてもらって良いですか?」
渡「あ、はい」
翼と緋梨はアドレスを交換した。
翼「……それじゃあ、予定が決まったら連絡します」
渡「……はい。それじゃあ」
翼は車を発進させた。
緋梨は走り去る翼の車を見えなくなるまで見つめていた。
暴走
一方その頃。
卯「……」
俊介はとある場所に来ていた。
車の中で息を潜め、外にいる人物を監視していた。
俊介の目線の先には笠井繁がいた。
繁は辺りを見渡しソワソワしていた。
何度も携帯を確認している。
卯「……」
俊介は時間を確認した。
繁がここに来てから1時間が経とうとしていた。
卯「……来た」
来たのは大樹だった。
笠「遅いぞ!!」
須「いや、時間通りに来たはずなんだけど……」
笠「普通先に来とくもんだろ!!」
須「いつ来たんだよ」
笠「……1時間くらい前」
須「はえぇよ。俺だって仕事あんだよ」
卯「(まぁ、須藤にとっちゃ完全ないちゃもんだよな…)」
須「……それより、これ」
大樹は封筒を取り出した。
俊介は大樹よりも先に封筒の中身を見ていた。
『会って話したいことがある。来なかったら店の中で暴れてやる』
手紙にはそう書かれていた。
須「なんだよ、話したいことって」
笠「最近テレビで見たよ。仕事、儲かってるらしいじゃないか」
須「……だったら何だよ」
笠「お前のファンとかが知ったら驚くだろうな。お前が昔はいじめっ子だったって知ったら。店の従業員は知ってるのか?」
須「……何が言いたい?」
笠「……金、貸してくれよ」
須「……」
笠「今金が無いんだよ。仕事もクビになって、ママに世話になってばっかりなんだ。暫く仕事しなくても生活出来るくらいの金で良いんだ」
卯「(あいつ……)」
笠「断るって言うんなら、お前の過去全部バラしてやる。俺にはバレて困ることなんて何もない。けどお前には失うものがたくさんあるはずだ」
須「……ハァ」
大樹はため息をついた。
須「お前、やっぱりバカだな」
笠「はぁ?」
須「いつもいつもバカな発言しては一真たちに笑われてただろ。あの頃から何も変わってない」
大樹はゆっくりと繁に近付いていく。
繁はそんな大樹を恐れているのか、ゆっくりと後ずさる。
須「その場の流れに任せて何も考えずに行動する。結果痛い目に遭って一真に泣きついてばかり。それがお前だ」
笠「う、うるさい!! 良いから早く……」
ガッ。
大樹は繁の胸ぐらを掴んだ。
笠「ヒッ!?」
繁は小さな悲鳴をあげた。
須「バラしたきゃバラせば良い。事件が起きてから、俺には覚悟が出来てんだ。今さら何言われたって自業自得さ」
笠「っ!?」
須「ただお前はだうだろうな。お前は引き籠ってるから何ともないだろうが母親はどうだ?」
笠「えっ……」
須「自分の息子がいじめで人を死なせてたなんて知れたら、会社にいられなくなるだろうな。ネットで晒されて、働けなくなるだろうさ」
笠「ぐっ!?」
須「人脅すんなら、それくらいの覚悟決めろよ」
大樹はそう言うと手を離した。
卯「……」
俊介は車から降り2人の元へ向かった。
須 「……」
笠「?」
卯「こんなところで何やってた?」
須「……別に」
卯 「……」
2人は睨みあった。
笠「お、おい!! あんた一体誰だ!?」
卯「……」
俊介は芝生に隠していた携帯を手に取った。
須「それで会話を聞いてたわけか。悪趣味なやつだ」
卯「……お前の言う通りだ。俺にとって翼や姫愛はとても大事な存在だ。そんな2人に危険が迫ってるなら、俺は何としてでも2人を守る。その為なら形振り構ってられない」
須「……」
俊介はそう言うと去っていった。
笠「何なんだ? あいつ」
須「卯野崎俊介だよ」
笠「卯野崎、ってあの卯野崎か!?」
須「あいつ今刑事してるんだってさ」
笠「え……」
須「ハァ……。めんどくさいやつばっかりだな……」
大樹は繁に声をかけることなく去っていった。
繁はその場に呆然と立ち尽くしていた。
