おもちゃ箱 第33話
2日後、奏はタクシーの中で眠っていた。
重雄宅で絵里加たちと合流し、そのまま鹿児島行きの新幹線に乗り込み、約8時間の長旅を続けた奏は現在タクシーに乗っていた。
本当はもう少し早くに出発するべきだったのだが、重雄がカメラやメモなどをどこに置いたか忘れてしまい、それを探すのに手間取ってしまった。
鹿児島に着いたときには夜遅くを迎えており、向かうのは朝早くということになった。
タクシーでじっくり寝た奏はその夜中々寝付けず、泊まっている宿の窓際で1人外を眺めていた。
絵里加は別の部屋で、同室の重雄は既に床に就いていた。
鹿児島の夜は静かで、東京とはまた違った雰囲気があった。
奏はふと昔のことを思い出していた。
中学生の頃の苦い記憶。
出来れば思い出したくはない記憶。
奏「(何で急に思い出したんだろう……)」
奏は記憶を振り払うように桜島を見つめていた。
翌日、奏たちは宿を出て、タクシーに乗り込んだ。
1時間車に揺られ、ようやく目的の場所にたどり着いた。
尾「……やっと着いたな」
絵「長かったですね」
奏「……」
篠塚雅晴が育った場所。
周りを見るとビルはなく、人通りも少ない。
たくさんの畑と、ちらほらと工場が建ち並んでいる。
絵「尾野寺さんもここら辺に住んでたんですか?」
尾「あぁ。高校卒業してから家族で引っ越しちまったけどな。さて、先ずは篠塚の家に行くぞ」
絵「はい」
奏「……」
絵「……ここ、ですよね」
篠「あぁ」
奏「……何もない」
かつて雅晴が住んでいたアパートは更地になっていた。
重雄は近くを歩いていたお婆さんに声をかけた。
尾「すいません」
婆「あぁ?」
尾「ここに建っていたアパートのことなんですが……」
お婆「あぁ~。8年くれ前にここら辺一帯取り壊されちまったんじゃぁ。再開発とかでぇ。ただ、途中でそん話が無うなっちまって、今じゃこうして更地になっちまったんじゃぁ」
尾「そうですか。ここに住んでいた住人の方って今どうしてるか分かりますか?」
お婆「んにゃぁ、全員都会ん方行ってん聞いたばっ、それ以上は分かんねぇなぁ」
尾「ありがとうございます」
お婆さんはゆっくりとした足取りで歩いていった。
尾「ここじゃ情報なしか。次は篠塚が勤めてた工場だな」
奏たちは次に雅晴が勤め、彼の父親が社長をしていた工場に来ていた。
そこは既に倒産しており、散々とした雰囲気を醸し出していた。
鍵がかかっていなかったので中に入ってみると、そこは機械などがそのままに埃を被った状態で置かれていた。
壁にはヒビが入り、窓が割れていた。
絵「近所の人の話によると、篠塚さんが事件を起こした後、工場の経営が傾いたそうです。さらに亜依子さんが家を出てしまったことで工場長さんも心労が祟って、入退院を繰り返していたそうです。跡継ぎもいなかったため、あっという間に工場は潰れてしまったみたいです」
尾「亜依子の母親は?」
絵「小さい頃に病気で亡くなったそうです」
尾「男手ひとつで育てた娘が犯罪者の男と付き合って家出か。そりゃ体も壊すな」
奏「……篠塚さんのお母さんは」
絵「今は老人ホームに入院しているそうです」
尾「よし、母親の方は俺があたる。お前らは篠塚の同級生を当たってくれ」
奏「同級生?」
尾「篠塚の同級生だった夫婦が旅館を経営してるんだ。既に話は通してある。また来た道を戻ることになっちまうが」
絵「最初にそっちに行った方が良かったんじゃ……」
尾「時間が取れなかったんだよ。旅館経営は忙しいからな」
奏たちはこうして、1時間かけた道を戻ることになった。
