赤マント 第33話
岩原萌
翌日、翼と大樹は都内にある病院に来ていた。
須「ここだよな? 岩原がいる場所って」
翼「美濃部の話だと……」
2人は病院を見上げながら佇んでいた。
昨日の夜、浩一から連絡を受けた翼たちはこの病院に向かうように言われた。
なぜ彼女が病院にいるのか、その理由は教えてくれなかった。
須「……とりあえず行くか」
翼「うん」
2人は病院の中へ入った。
2人は「岩原萌の友達」と言って病室の場所を教えてもらった。
目的の病室に辿り着くと、名札には確かに『岩原萌』と書かれていた。
須「……」
コンコン。
大樹はドアをノックした。
萌「は~い」
中から間延びした声が聞こえた。
大樹はゆっくりとドアを開いた。
萌「待ってたよ須藤君。七咲君も久しぶり」
須「岩原……」
病室にいたのは、岩原萌で間違いなかった。
久しぶりに見た彼女の姿は、翼には天使のように見えた。
それほどまでに彼女は可愛らしかった。
翼「久しぶり。岩原さん」
萌「いや~、驚いちゃったよ。夜になっていきなり美濃部君が病室にやってくるんだもん。一瞬ストーカーかと思っちゃった。それで私のことを探してるって聞いて。2人が来ることは美濃部君から聞いてたんだ」
翼「スゴいな、美濃部……」
須「あぁ、後で礼を言っとかないとな」
萌「ごめんね、須藤君。心配かけちゃって」
須「別に良い。こうして姿を見られたからな。ただ、理由は話してくれると助かる 」
萌「うん」
萌は棚の引き出しから数枚の手紙を取り出した。
萌「『赤マント』の事件が起こる3ヶ月前くらいから、手紙が事務所に送られるようになったの。それがこれ」
萌は手紙を大樹に渡した。
手紙には、『君を愛してる』『僕はいつも君を見ている』『僕には君しかいない』などの言葉が延々と書かれていた。
翼「これって……」
須「ストーカー……」
萌「他にも盗撮写真や花束が家に贈られたり……。最初は事務所の人達が上手く対応してくれてたんだけど、段々手紙の内容がエスカレートしてきて……」
翼「……」
萌「でも『赤マント』の事件が起きてから手紙が来なくなったの。そしたら逆に怖くなっちゃって……」
須「体調崩して入院か……」
萌「うん。入院したって言っちゃうと手紙が再開するかもしれないと思って。一時的に失踪ってことにしたの。けど、同級生が次々に亡くなって、私も危ないんじゃないかってマネージャーさんが心配して、一部の人には理由を話すことにしたの」
須「なるほどな……」
萌「本当にごめんね?」
須「謝るなら妹とあいつにしてやってくれ」
萌「……うん。そうだね。元気になったら連絡する」
須「あぁ」
翼「(……あいつ?)」
翼は大樹の言葉が引っ掛かった。
大樹はそんな翼の視線に気付いた。
須「……岩原、ちょっと席外すわ」
萌「?」
須「……七咲、ちょっと」
翼「え?」
大樹はそう言うと部屋を出た。
翼も困惑しつつ後を付いていった。
萌「あの2人、いつの間に仲良くなったんだろう?」
萌は2人の背中を見送りながらそんなことを考えていた。
須「ほら、コーヒー」
翼「ありがとう」
翼は今、大樹に連れられ病院の休憩室に来ていた。
大樹は缶コーヒーの蓋を開けると口を付けた。
須「……お前、俺が言った『あいつ』っていうのに引っ掛かってるだろ?」
翼「あ、いや……」
須「いいよ。隠さなくて。お前意外と分かりやすいからな」
翼「……」
須「……他のやつには絶対言うなよ?」
翼「……分かった」
翼は頷いた。
大樹は手に持った缶コーヒーを置いて椅子に座った。
須「俺が付き合ってる女、岩原の友達なんだ」
翼「友達って、芸能関係の人?」
須「あぁ。今アイドルをしてる。岩原が俺の店の広告してるって言ったろ? 実は彼女の他にも数人候補がいてな。そのうちの1人」
翼「……」
須「最初は岩原も兼ねて喋ってるだけだったんだが、いつの間にか2人きりで食事する機会が増えてな。それでお互い気が合ってって感じ。まぁ、CMは結局岩原に決まったけど、プライベートでは気兼ねなく付き合えてるよ」
翼「関係を知ってるのは?」
須「岩原とお互いのマネージャー、後あっちの社長さんかな」
翼「……」
須「俺のいじめのことを知った上で俺と付き合ってくれてる。……本当、俺には勿体ないくらい良い女だよ」
翼「……そっか。でも、どうしてそれを俺に?」
須「特に理由なんてねぇよ。ただ他のやつより口が堅そうだって思っただけだ。……それに、お前のお陰で黒瀬の兄ちゃんにも謝ることが出来たからな。その礼みたいなもんだ」
大樹は目を逸らしながらそう言った。
翼「……」
翼はそんな大樹を見て微笑んだ。
萌「2人とも遅いよ~」
須「わりぃ」
数分後、2人は萌のいる病室に戻ってきた。
目の前には、腕を組みわざとらしく頬を膨らませて座っている萌がいた。
萌「2人して何の話してたの?」
須「彼女のことを話しただけだ」
萌「そうなんだ。七咲君はそれを聞いてどう思った?」
翼「え? あ、いや、正直驚いた。……けど、きっとその彼女は幸せなんだろうなぁって」
萌「ん?」
翼「友達にも彼氏にも大切にされて心配されて。きっとこれからも幸せなんだろうなぁって」
萌「おぉ~」
萌は小さく拍手をした。
萌「だって」
萌はニヤニヤしながら大樹に話を振った。
須「……聞こえてるよ」
大樹は少し恥ずかしそうに目を逸らした。
翼「岩原はもうしばらくこっちに入院してるの?」
萌「うん。せめてストーカーが捕まるまではここにいようかなぁって思ってるよ。けど、あんまり期待できないかなぁ」
翼「……直接的な被害がないと警察は手を出せないんだよね」
萌「うん。それに、私も一応『赤マント』事件の容疑者の1人みたいだし」
翼「同級生だからね。岩原は黒瀬と関わりあったの?」
萌「ううん。全然。けど、彼のお兄さんとはちょっと面識があるよ。黒瀬君のこと聞きに来たから。何も話せなかったけど。会ったのはその1回きり」
翼「そう……」
萌「早く事件解決すると良いなぁ。私も力になれることがあったら協力するからね」
翼「ありがとう。でもその前に体調良くすることを優先して。須藤の妹も、彼女も、たくさんのファンの人が君を待ってるんだから」
萌「……うん!!」
須「(……コイツ、こういうことを平然と言えるからスゲェな)」
大樹は心の中でそう思った。
須「なぁ、岩原ちょっと良いか?」
萌「どうしたの?」
須「さっきのストーカーから送られたっていう手紙、見してくんねぇ?」
萌「あ、うん」
萌は再び引き出しから手紙を取り出した。
萌「はい」
大樹は手紙を受け取ると数枚を確認した。
翼「須藤?」
須「……俺、この手紙送ったやつ、知ってるかも」
萌「え!?」
大樹の言葉に2人は驚いた。
翼「どういうこと!?」
大樹は内ポケットから手紙を取り出した。
翼「?」
須「お前にも見せとこうと思って持ってきてたんだ」
大樹は手紙を翼に渡した。
翼「『会って話したいことがある。来なかったら店の中で暴れてやる』……これは?」
須「笠井が俺に送ってきた脅迫状」
大樹は手紙を指差した。
須「……この2つ、文字が似てないか?」
