おもちゃ箱 第32話
いざ、鹿児島へ
翌日、奏は重雄のもとを訪れていた。
昨日の雅晴との会話を伝えるためだ。
電話でもよかったのだが、かなえから亜依子についての情報が降りてくるまで何も手だてが見つからなかったので、どうせならと直接伝えに来たのだ。
尾「なるほど。じゃあ今のところ、奴が犯人の可能性はゼロじゃないってことだな」
奏「はい」
尾「しかし、女のために犯罪とはな。昔のあいつからは考えられない話だ」
奏「と言うと?」
尾「高校の時のあいつは、友達はたくさんいたが、女っ気が全くなかったらしい。初と言うかなんというか」
奏「そうだったんですか」
尾「夢を諦めて工場で働かなくいけなくなったアイツにとって、嶋野亜依子という女は太陽みたいなもんだったんだろうな。今までの自分を変えてしまうくらいに」
奏「……」
尾「これだけでも十分記事になりそうだな」
重雄はそう言ってニヤついていた。
奏「それは止めておいた方が良いと思います。いい忘れてたんですけど、亜依子さん今は弁護士をされてるんです。訴えられたら大変です。それに、さっき言ったように篠塚さんはまだ犯人の可能性が消えたわけではないんです。そんな記事出したらかっこうの的です」
尾「……お前さん、本当はそれを言うために来たんだな?」
奏「……すいません。殺された安藤さんも似たような感じだったので。まぁ、あの人の場合は犯人に利用されたのもあるんですが。出来れば、これ以上犯人を刺激したくないんです。今はあのサイズ感の爆弾で済んでますけど、いつ大きな爆弾になるか分からないし、デパートやお店に送ってくる可能性だってあります。そうなれば犠牲者の数が増えるばかりですから」
尾「……それもそうだな。そうなったら記者としての名が廃っちまう。とりあえず、今は記事にするのは止めておこう」
奏「はい」
奏は胸を撫で下ろした。
尾「ところで、篠塚の故郷ってどこか知ってるか?」
奏「確か、鹿児島だったと……」
尾「あぁ。俺の故郷でもある。実は明後日、篠塚の生まれ故郷に行って色々と話を聞いてこようかと思ってる。あの若い女記者さんも連れてな」
奏「そうなんですか」
尾「そこでだ」
奏「?」
尾「あんたにも取材に着いてきてもらう」
奏「え!?」
尾「正直、若い女と2人きりで取材はめんどくせぇ」
奏「えぇ~……(長いこと記者してた人が何言ってるんだ)」
尾「それに、お前さんも一刻でも早く事件を終わらせたいんだろ? だったら行動できるときにしといた方がいい」
奏「……尾野寺さん」
尾「で、どうする? 無理にとは言わねぇ」
奏「……すいません。よろしくお願いします」
尾「よし、明後日ここに集合だ。遅れないようにな」
奏「はい」
その夜、奏とかなえ、そして雪永親子は食事を終え、奏が入れたコーヒーを飲みながら談話していた。
か「へぇ~。それじゃあ、明後日鹿児島に行くんだ」
奏「うん。2泊3日の予定なんだけど」
か「でも大丈夫? 大学の単位」
奏「大丈夫。出席日数はギリギリ足りてるし、レポートさえ出せば大体は単位取れるから」
か「それに、あっちには綺麗な女の人がたくさんいるんだよ? ちゃんと喋れる?」
かなえはニヤニヤしながらそう言った。
奏「取材に着いていくだけだからそんなに喋ることはないと思うけど。それに……」
か「それに?」
奏「なんか最近、女子と話すのに恐怖心を抱かなくなってる気がする」
か「え?」
奏「大学にいるときも視線とか気にならないし、隣に座ってきても前よりかは緊張しないし」
か「ふ~ん。……何でだろうねぇ」
かなえはそう言いながらチラッと美琴を見た。
目が合った美琴はキョトンとした顔をしていた。
かなえには分かっていた。
美琴との出会いが、奏の女性恐怖症を克服させたのだと。
かなえはそれが嬉しくて堪らなかった。
か「奏、お土産よろしくね」
奏「だから旅行じゃないって」
