赤マント 第29話

魔の手

その日の夜。

?「雪嶋先生? 今日はもう終わりですか?」

姫「あ、はい」

?「今からちょっと飲みに行くんですけど、先生もいかがですか?」

姫「すいません。ちょっと用事があるので、今日は失礼します」

姫愛はそう言うと去っていった。


?「だから言ったじゃないですか。無理だって」

?「う~ん。今日こそは行ってくれるかと思ったんだけどなぁ」

?「あの子、七咲先生がいる時じゃないと飲みに来ないんですから」

?「……あの2人って付き合ってるんですか?」

?「いやぁ、あれは違いますね。雪嶋先生、たまに誰かと連絡取ってるみたいですけど、その時の表情がスゴい嬉しそうでしたから、その連絡取ってる人が恋人か何かでしょう」

?「良いなぁ。私も恋人欲しいなぁ」

?「けどねぇ。ああも付き合いが悪いとねぇ」

?「七咲先生意外と話してる時の先生、何か愛想笑いっていうのが丸分かりですからね」

?「私、前に彼女のクラスの生徒に相談されたことがあるんです。『雪嶋先生と話してる時に愛想笑いばかりされて心が傷付きました。どうしたら先生は笑ってくれるんですか?』って。私何て答えたら良いか迷っちゃって……」

?「うわぁ……。キツいなぁそれは」

?「あれで良く教師なんてやってますよね?」

?「本当ですよねぇ」

?「何で彼女みたいな人が先生になったんですかねぇ……」


姫「ただいま~……」

 家に帰ってきた姫愛は、靴を脱ぎ捨て鞄を投げると、そのままソファに倒れ込んだ。

姫「ふぅ……」

姫愛はため息をついた。

姫愛は携帯を開いた。

姫「俊介……」

俊介からの連絡は無かった。

 あの週刊誌が出てから、俊介に連絡が着かなくなった。

何度連絡をしても返事が来ることはなかった。

姫「……」

姫愛は不安だった。

俊介に何かあったのではないかと。

姫「ハァ……」

姫愛は先程より大きなため息をついた。

姫「お風呂入ろ……」

 姫愛はスーツの上着を脱いでソファの上に置いた。


ジャー……。

 姫愛はシャワーを浴びながら10年前のことを考えていた。

 10年前、優太がいなくなってから俊介との関係は変わってしまったような気がする。

話していても、何処か2人とも距離があった。

まるで壁があるように。

 けど、高校1年の時、俊介が告白してくれた時に2人の関係は昔に戻った。

 姫愛はその後、1年遅れで大学に入り猛勉強をして教員の資格を取った。

 姫愛が教師になったのは優太のことが関係していた。

 一度、優太の母親が学校の門の前で泣きながら訴えていたことがあった。

 母親は優太が失踪したことの説明を学校側に求め、一真たちに謝罪を求めた。

 優しい息子だったこと、教師を目指していたことを必死に訴えていた。

姫愛はその光景が頭から離れなかった。

優太の夢や希望を奪ってしまった。

 だからせめて、彼の代わりに夢を叶えてあげたい。

そう思った。

姫「……自分勝手だよなぁ。私って」

姫愛は湯船から上がった。


 姫愛はお風呂から出ると、バスタオルを体に巻いた。

 鏡の前に立つと、曇っていた鏡はさらに見えなくなった。

姫愛は手で鏡を拭いた。

赤「……」

姫愛の後ろには赤マントが立っていた。

姫「きゃあ!?」

 姫愛は驚いて体に巻いていたタオルを落としてしまった。

姫「きゃっ!?」

姫愛は足元のタオルで足を滑らせた。

ガンッ。

姫「うっ……」

姫愛は壁に頭をぶつけた。

姫愛はそこで意識を失った。


赤「……」

 赤マントの目の前には、倒れて気を失っている姫愛がいた。

髪は濡れ、顔は仄かに赤かった。

完全に生まれたままの姿で気を失っていた。

赤「……」

 赤マントは姫愛を殺そうとはせず、そのまま去っていった。

翼「ハァ……ハァ……」

病院に着いた翼は急いで中に入った。

翼「すいません!! 雪嶋姫愛の病室は何処ですか!?」

看「彼女の病室なら、301号室になります」

翼「ありがとうございます!!」

翼は急いで病室へ向かった。

翼「病院内は走らないでください!!」

 後ろから看護師の声がしたが、翼の耳には届いていなかった。

 翼はエレベーターに乗り込むと3階のボタンを押した。

翼「姫愛……」


『姫愛が怪我をした』

 俊介から突然連絡が来たのは、帰りがてらに夕食の食材を買いにスーパーに来ているときだった。

 俊介は慌てているようで、『とにかく来てくれ』と病院の名前だけを言って電話を切った。

 翼は買い物を途中で切り上げ、会計を済ませると急いで病院へ向かった。

 翼の頭の中で『赤マント』の姿が浮かんでいた。

 もしかしたら『赤マント』に襲われたのではないか。

翼はそんな気がしていた。


 エレベーターを出た翼は急いで病室へ向かった。

 そこには、病室の外の椅子に座っている俊介がいた。

翼「俊介!!」

卯「翼……」

翼「姫愛は!?」

卯「頭を打ったみたいでな。軽い脳震盪だって。脳に異常も無かったから、1日入院すれば大丈夫らしい」

翼「そうか……」

翼は胸を撫で下ろした。

卯「部屋の隣にいつも余り物の料理とかを分けてくれるお節介おばさんがいるらしいんだけど、その人がたまたま姫愛の部屋を訪ねたらしいんだ。玄関ドアが開いていたから不振に思って声をかけてが返事がなくて、何かあったんじゃないかと上がり込んだら、洗面所で倒れてる姫愛を発見したらしい」

翼「なぁ、俊介。まさかとは思うけどそれって……」

卯「さっき目を覚ました姫愛から話を聞いた。『赤マント』が現れたって。あいつ、気絶した姫愛が死んだと勘違いしてそのまま立ち去ったみたいだ」

翼「……」

卯「……姫愛に会っていくだろ?」

翼「うん。……でもその前に、俊介に聞きたいことがあるんだ」

卯「……」

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