赤マント 第31話
対峙
2日後、大樹は人気のない公園で人を待っていた。
近くの茂みでは翼が身を隠してその様子を伺っていた。
大樹は時計を見た。
須「そろそろか……」
1人の女性が大樹に近付いてきた。
秋「……一体何の用?」
須「……」
大樹が呼んだのは茜だった。
翼から茜を説得するようお願いされた大樹は、渋々それを了承した。
本当は必要以上に彼女に関わりたくはないが、萌のことを調べてもらうことをお願いした手前、わがままをいうわけにはいかなかった。
電話を受けた翌日、大樹は昼過ぎに茜に電話をした。
電話に出た時の茜の不機嫌そうな声は印象的だった。
大樹は「お前ばっかり情報を聞くのは不公平だ。俺にもお前の情報聞かせろ」と半ば強引に会う約束を取り付けた。
後で文句を言われるのは覚悟の上だったが、ああいう言い方でもしないと深く追求されて面倒だと思ったからだ。
大樹は直ぐ様、翼に「OK」の返事を出した。
須「(すっげぇ不機嫌な顔……)用件は昨日言った通りだ」
秋「何であなたが私の情報聞きたがるのよ?」
須「前に言ったろ? 一真だけが幸せそうに生きてるのが許せないんだよ。あいつにも罪を償って貰わないと気が済まない」
秋「……けど、貴方が知らないような情報なんてないわよ? 貴方たちグループの情報しか持ってないんだから。私より貴方の方が詳しいんじゃない?」
須「……確かに、俺はあいつらといた。けど特別親しかったわけじゃない。あいつらの家に行ったことなんてないしな。……それに、俺は黒瀬の遺体が見つかったことなんて知らなかったよ」
秋「!? どうしてそれを……」
須「お前だけじゃないんだよ。色々と調べてんのは」
秋「……」
茜は大樹を睨んだ。
秋「……良いわ。何が知りたいの?」
翼「……」
翼は大樹と茜の言葉に聞き耳を立てた。
須「先ず、お前は何で10年前のことを調べることにしたんだ?」
秋「1年前、私の知り合いがある殺人事件について教えてくれたの。出版社ってそれなりにネットワークがあるから。殺害された人が私が通っていた中学校の教師をしていたから、もしかしたら知り合いじゃないかって」
須「その人って……」
秋「そう、滝藤先生。私は直ぐに黒瀬君の失踪が関係してるんじゃないかって思ったわ。だって、私の中ではあの黒瀬君の失踪はずっと忘れられないものになっていたんだもの」
須「どういうことだ?」
秋「私、今でも黒瀬君の母親の姿が頭から離れないの。いじめの事実を認めない学校、罪にも問われない加害者たち。そんな理不尽が黒瀬君の母親みたいな人を追い込んでいく。私はそんな人たちを救いたい。世の中の理不尽をひとつでも無くしたい。だから私は記者になった。こうやって真実を伝えられるのは記者という仕事が1番だと思ったから」
須「……けど、どうやって黒瀬の遺体が見つかったことを知ったんだ?」
秋「滝藤先生の身辺を調べていたらたまたま知ったの。湖の近くで死体が見つかったって。それで調べてみたら黒瀬くんだってことが分かった。それで黒瀬君のことを調べて、彼のお兄さんに辿り着いたの」
須「それで会いに行ったんだな」
秋「話を聞く前に追い返されちゃったけどね。けど、私はそれで決意したの。黒瀬君のために、そして同じ被害者を出さないために、小久貫たちに必ず殺人の罪を認めさせるって」
須「……」
翼「(やっぱり、秋元は小久貫たちが黒瀬を殺したと思ってるんだ)」
翼は無意識に拳を握っていた。
須「それで? 証拠は掴めたのか?」
秋「いいえ。けど、絶対証拠を掴んでみせるわ。その為に記事を出すのを待ってもらってるんだから」
須「……お前、思ったより大したことないな」
秋「え?」
須「俺が何で黒瀬のことや滝藤のこと知ってたと思う?」
秋「……」
須「聞いたんだよ。七咲翼からな」
秋「七咲君から?」
須「卯野崎や雪嶋のために色々調べたんだってさ。まぁ、他にも理由があるみたいだけど」
秋「貴方は彼の言葉を信じたのね。人嫌いな貴方が」
須「お前よりは信用できるよ。あいつは自分のために嘘を付く人間じゃねぇし自分の損得で動く人間でもないしな」
秋「……随分な過大評価ね。彼が全く嘘をついてないって言い切れるの? 彼だって一応いじめ事件の加害者なのよ?」
須「は?」
秋「彼もあの日、小久貫君や卯野崎君たちと一緒に黒瀬君を殺したかもしれない。そう言ってるのよ」
須「……ハァ」
大樹は頭を押さえて大きな溜め息をついた。
須「……お前、本当に大したことないな」
秋「……どういう意味よ」
大樹は持ってきた鞄から写真を取り出した。
須「昔のクラスメイトに片っ端から借りてきたんだ」
それは修学旅行の写真だった。
誰から借りたものか分かるように、付箋が貼られ名前が書かれていた。
秋「この写真が何なのよ?」
須「この写真のどこにも写ってないんだよ。七咲の姿が」
秋「え?」
茜は写真をパラパラと見た。
写真には翼の姿は無かった。
秋「たまたま写ってないだけでしょ? 彼、影薄かったし。それが一体……」
須「いるわけねぇよ」
秋「え?」
須「あの修学旅行の日。七咲はいなかったんだからな」
大樹は茜の目を見てそう言い放った。
翼にはその姿が頼もしく思えた。
