おもちゃ箱 第14話
接触
翌日、雪永家にはたくさんのマスコミが駆けつけていた。
昨日の新聞記事から、瞬く間に美琴のことが知れ渡ってしまい、こうしてマスコミがやって来たのだった。
しかし、雪永家には誰もいなかった。
それはそうだ。
2人は今、深堂家に住んでいるのだから。
奏「……うわぁ、たくさんいるなぁ」
奏は物陰に隠れて雪永家を見ていた。
記事のことが気になった奏は、美琴に住所を聞き、講義終わりにこうやって様子を見にやって来たのだった。
奏「(これゃ家が特定されるのも時間の問題だな……)」
これだけマスコミに情報が伝わるのが早いのならば、深堂家にマスコミが来るのは間違いないだろう。
奏は急いで家に戻った。
奏「ただいま~」
奏が家に帰ると、部屋は暗かった。
奏はゆっくりと2階の階段を上がった。
コンコン。
ドアをノックしてしばらく待つが、誰も出てこない。
奏「……失礼しま~す」
奏はゆっくりとドアを開ける。
そこには、ベッドに横になっている美琴の姿があった。
奏「やっぱり寝てたか……」
最近、奏の部屋で美琴を寝かせることになった。
「ソファーで寝るよりベッドで寝た方が落ち着くだろう」と奏が提案したのだ。
奏はソファーで寝ている。
バイトがなく奏が早く帰ってくるとき、美琴は大体寝ている。
奏は静かにドアを閉め2階を降りた。
奏は1人で新作コーヒーを考えていた。
奏「ちっちゃい子供でも飲めるようなコーヒーとかあるのかな……」
か「ただいま~」
玄関からかなえの声が聞こえた。
ガチャ。
か「奏、ただいま」
彩「ただいま帰りました……」
かなえに続いて、彩月が入ってきた。
奏「姉ちゃん、彩月さん、お帰り」
か「念のため一緒に帰ってきた。どこでマスコミの人が来るか分からないから」
かなえには、雪永家にマスコミが来ていたことはLINEで既に伝えてあった。
かなえはそれを見たため、彩月と一緒に帰ってきたのだろう。
彩「すいません。ご迷惑お掛けしてしまって……」
か「いいえ、気にしないでください。何も悪いことしてないんですから。普通にしていれば良いんです」
奏「(普通に、ねぇ……)」
奏は美琴のことを考えていた。
美琴は人と関わるのを怖がっている。
そんな美琴がマスコミに詰め寄られた時、普通でいられるとは思えない。
奏「(大丈夫かなぁ……)」
彩「美琴、お帰り」
気付くと、美琴が眠い目を擦りながら2階から降りてきていた。
ふと、奏は美琴と目が合った。
奏は美琴に向かって微笑んだ。
美琴は不思議そうに首を傾げた。
奏は美琴を絶対に守ろうと胸に誓った。
次の日、奏は講義を終えてバイトに向かうところだった。
?「君が深堂奏君かな?」
奏「え?」
奏が振り返ると、そこには1人の男が立っていた。
安「僕は週刊日本で記者をやっている、安藤満というものです」
安藤はそう言って名刺を差し出してきた。
奏「週刊日本?」
安「実は『おもちゃ箱事件』について聞きたいんだけど」
奏「『おもちゃ箱事件?』」
奏には聞き覚えがなかった。
安「またまた。自宅に送られてきたでしょ? 変な箱が」
奏「……あ」
安「やっぱり心当たりあるじゃないですか」
奏「……そんな風に呼ばれているなんて知りませんでした」
安「ネット上じゃそう呼ばれてるんですよ。ついでに言うと名付け親は僕です」
安藤そう言って笑っていた。
奏「……どうして僕が事件に巻き込まれてること知ってるんですか?」
安「あら? 否定しないんだ」
奏「なんか確証がありそうな気がしたんで。否定しても無駄かなぁって」
安「(……以外と冷静だな。)人の口に戸は立てられぬってね。案外すぐに見つかったよ」
奏「……そうですか(……焦るな。冷静に対応しろ)」
安「それで、どんな感じだった?」
奏「新聞とかに書かれてる通りですよ。それ以外には特に」
安「でも、君は女性を助けることができた」
奏「偶々ですよ。上手くいくとは思ってなかった」
安「……偶々ねぇ」
奏「もう良いですか。バイト行かないといけないので」
そう言って奏はその場を去ろうとした。
安「あ、君の家にいる雪永美琴さんにも話を聞きたいんだけど」
奏の足が止まった。
奏「雪永美琴? 誰ですかそれ?」
安「君が助けた女の子だよ。君の家にいるだろ?」
奏「なんのことですか?」
安「彼女の母親が君のお姉さんと一緒に朝、車に乗り込むのを見たんだけどなぁ」
奏「(この人、うちを盗撮してんのか!?)……だとしても、彼女の娘さんは家にいません。どっかの病院にでも入院してるんじゃないですか?」
安「そうかなぁ」
奏「……では失礼します」
奏は足早にその場を離れた。
安藤はそんな奏の背中をじっと見つめていた。
奏はコーヒーを作りながら、先程の安藤という記者のことを考えていた。
あの男はヤバイ。
奏は直感だがそう感じていた。
事件のことを語っているときのあの人の眼はスゴいものだった。
まるでその光景を思い出しているかのように、遠くを見つめていた。
事件を目撃したことがあるのだろうか。
奏「(とにかく、あの男には注意しないと)」
店「深堂君、大丈夫かい?」
奏「え?」
店「今日ずっとなにかを考えているようだったから」
奏「あ、すいません……」
店「ハハッ。気にすることはないよ。それでも仕事はちゃんとやってくれてるんだから」
店長はそう言って笑った。
店「なにか悩みがあったらいつでも相談に乗るよ」
奏「……ありがとうございます」
奏は頭を下げた。
神「深堂君、ちょっといい?」
奏「桂子さん。どうかしたんですか?」
神「実はちょっとお願いがあるんだけど……」
奏「?」
桂子はそう言うと、鞄からクッキーを取り出した。
しかし、そのクッキーはいつもと違っていた。
神「深堂君を見てたら私も新しいクッキー作りたくなっちゃって。良かったら味の感想を聞かせてほしいなぁ」
奏はクッキーを口に入れた。
奏「!! 美味しい!!」
神「本当!? 良かったぁ」
奏「いや、本当美味しいです。これ店長に食べさせたら驚きますよ」
神「そうかなぁ」
奏「はい。絶対に驚きます」
神「ハハッ。じゃあ後で食べさせてみるね」
奏「はい。あっ、すいません。今日はこれで失礼します。お疲れ様でした」
神「お疲れ様~」
奏は急ぎ足でカフェを出た。
奏「ただいま~」
奏がリビングのドアを開けると、かなえと秀明、そして美琴と彩月が座っていた。
日「奏君、お帰り」
か「奏……」
彩「……」
美「……」
奏「……どうかしたの?」
か「……実は彩月さんの仕事場に迎えに行ったんだけど、そこに記者の人たちがやって来て色々と聞かれちゃったの。まぁ、なにも話してないんだけど。それで困って秀明に相談してたの」
机の上には、週刊日本の週刊誌が置かれていた。
奏「……その記事」
日「あぁ。この記事が原因で事件が広まったんだ」
か「『おもちゃ箱事件』なんて……。事件を面白がってるとしか思えないわ!!」
かなえは相当怒っているようだった。
奏「……あ」
奏は何かに気付いたように週刊誌を持ち上げた。
日「どうかしたのか?」
奏「この記事を書いた人の名前、『安藤満』。この人今日会ったよ」
か「えっ!?」
日「それ本当か?」
奏「えぇ。事件のことについて聞かれました。あとその人、美琴ちゃんがここにいること知ってるみたいでした」
彩「!?」
か「そんな、どうして!?」
奏「なんか張り込んでうちを監視してたみたい。なんとか誤魔化したけど、明日には多分記事が出ると思う」
か「秀明、なんとかできないの?」
日「俺もこの男に会ったよ。記事を売れさせるためには手段を選ばないような男だ。素直に話を聞くとは思えない。警察が差し止めたところで、別のところにネタを持っていくだけだ」
奏「……日下さん」
日「ん?」
奏「あの安藤って人、事件となんか関係があるんですか?」
日「どうしてだい?」
奏「何て言うか、すごい興奮してるように見えたんです。事件について語ってるとき。まるでなにかを知ってるような。そんな感じがしたんです」
日「……この前、5件目の事件が起きたことは知ってる?」
か「えぇ、ニュースで見たわ」
日「その被害者の女性と、安藤は付き合ってたんだ」
か「え?」
日「爆弾は安藤の家に送られ、彼は釣り糸のトラップにかかり彼女を死なせてしまった。だが、彼はショックを受けるどころか、それを利用して記事を書いた」
奏「……」
日「彼はその場で現場写真を撮り、警察が帰ったあと急いで本社へ向かい記事を書いて出版した。彼と話をしたとき、彼は『彼女とは体の関係で愛情なんて無かった』そう言ってた」
か「そんな……」
彩「ひどい……」
周りには思い空気が流れた。
奏「姉ちゃん」
か「何?」
奏「美琴ちゃんと彩月さんを別のところに移した方がいいと思う。ここに居たんじゃ、マスコミの格好の的だ」
か「……そうね。ここにいるよりは安全ね。どこかホテルを取って、2人には暫くそこにいてもらいましょう」
ガタッ。
彩「美琴?」
美琴はリビングにあるメモを取ると、スラスラと何かを書き始めた。
そして、奏の前に来るとスッとメモを差し出した。
奏「?」
奏はメモを受け取った。
美『私、ここにいます。何処にも行きたくありません』
か「!!」
彩「美琴!?」
奏「……」
美『他のところにいるより、ここにいる方がずっと安全です。それに、私まだ奏さんやかなえさんと一緒にいたいです』
彩「美琴、何言ってるの!? 皆貴方のことを思って……」
美琴は彩月の肩を掴んでそう言った。
美琴の目は真剣そのものだった。
彩「……」
美琴の目を見て、彩月は何も言えなかった。
奏「……姉ちゃん」
か「……しょうがないわね。ただし、外には絶対出ないこと。もし出るときは誰かと一緒に行くこと。分かった?」
美琴はゆっくり頷いた。
そんな美琴を、彩月と奏は心配そうな目で見ていた。
か「奏」
かなえは奏に声をかけた。
奏「しっかりしなさい。美琴ちゃんあんたのこと頼りにしてるんだから」
奏「そんな、俺なんて……」
奏「美琴ちゃん。あんたの話を聞いてるとき、すごい和やかな顔してる。他の人よりは信頼してるんだと思う」
奏「……」
か「私だって頼りにしてるんだよ?」
奏「姉ちゃん……」
か「だから、私たちで2人をしっかり支えてあげよう?」
奏「……うん」
2人は彩月と美琴を支えることを心に誓った。
