赤マント 第39話
京都
翌日。
翼はバスに揺られていた。
隣には葵衣、後ろには茜と拓実がいた。
離れた場所に大樹が座っていた。
翼は外を見ながら物思いに耽っていた。
翼たちは京都に来ていた。
あの日、優太が居なくなったあの日に来ていた場所、俊介たちが修学旅行に来ていた場所。
修学旅行に参加できなかった翼にとって、今回京都に来るのは初めてだった。
しかし、翼たちの目的は観光ではない。
優太が亡くなったあの湖に行くためである。
あそこにいるであろう『赤マント』を止める。
それが翼たちの目的である。
翼「(説得、か……。本当に上手くいくだろうか)」
自分で提案をしておいてあれだが、翼は不安だった。
玲穏の兄、隼人の場合はそれほど危険はなかった。
隼人の目的は玲穏を守り見守ること。
殺意があったわけではなかった。
玲穏の気持ちが変わったことで隼人は安心して成仏した。
しかし、今回は違う。
優太には明らかな殺意がある。
俺たち同級生に対する殺意が。
そして、彼はまだ目的を達成していない。
そんな彼が拓実の説得に応じてくれるだろうか?
翼「(もし説得できなかった時は、戦うしかないのか。この4人で)」
翼はそうならないことを願うばかりだった。
バスに揺られること30分。
翼たちは目的の場所に到着した。
バス停から湖までは少し歩かなければならない。
空には少し雲がかかっていた。
翼「……行こう」
翼たちは湖に向かって歩きだした。
ガサガサ。
翼たちは誰一人言葉を交わさなかった。
緊張からか、それとも疲れからか。
元気が取り柄の葵衣でさえ無言だった。
彼らは早く湖に着きたかった。
この空気感が窮屈に感じられた。
翼「……着いた」
翼たちは目的の湖に到着した。
その湖は大きく、まるで吸い込まれてしまうようなほどの存在感があった。
秋「……それで、何処に『赤マント』がいるの?」
翼「……何処だろう」
翼たちは途方にくれた。
?「お前さんたち、そこで何しとる?」
翼「!?」
後ろから聞こえた声に翼たちは驚いた。
振り返ると、白い髭を貯えた老人が立っていた。
翼「あ、あの、 僕たちは……」
老「お前さんたちも『赤マント』とかいうのを見に来たんか?」
翼「え!?」
老「だったら悪いことは言わん。今すぐ帰った方がええ」
翼「あ、あの。『赤マント』のことご存知なんですか?」
老「……数ヵ月ほど前から『赤マントが出る』言うてバカな若モンたちがここに良く来るようになった。酷い時は火まで焚いて夜通しするモンまでおったわい」
翼「……それで、『赤マント』は出たんですか?」
老「実際に見たやつはおらん。……じゃが、ワシは1回だけ見たことがある」
翼「!?」
老「あれは人間じゃねぇ。質の悪いあやかしの類いじゃ。ワシは長いことここに住んどるから分かる。あれに関わったら録なことにならん」
翼「……」
老「お前さんたちも諦めて帰った方がええ。ここは暗くなると危ないからの」
老人はそう言うと去っていった。
須「……本当かね? あのじいさんの話」
白「嘘をつくような人には見えなかったけど……」
秋「……何か嫌な予感しかしないんだけど」
上「どうする? 翼」
翼「……もう少し待ってみよう」
翼たちはここで少し待つことにした。
空は相変わらず雲がかかったままだった。
時を同じくして……。
俊介は姫愛と共に、葵衣が住んでいた商店街付近で聞き込みを行っていた。
卯「……」
姫「中々見つからないね」
卯「事件が起きてから結構経つからな。あの放火事件以降引っ越した人も多いらしいし」
俊介は手帳を閉じた。
捜査は暗礁に乗り上げていた。
卯「ん?」
しばらく歩いていると、俊介はお店を発見した。
卯「写真屋か」
そこは見るからに長いこと営んでいそうな写真屋だった。
外には結婚写真や昔の商店街の風景写真が飾られていた。
卯「聞いてみるか……」
俊介たちは店の中に入った。
卯「すいません」
?「はい?」
中にいたのは初老の男性だった。
俊介は事情を説明し、放火事件当時の写真が残っていないか聞いた。
男「その写真だったら多分父の部屋にあると思います」
卯「本当ですか!?」
男「はい。ちょ、ちょっと待っててください。直ぐ探して来ますんで」
男性はそう言うと慌てて奥に引っ込んだ。
男「その頃は親父が経営してたんですが、2年前に体調を崩しましてね。今は病院に入院してるんです。あ、これですね」
男性が取り出した写真には、確かに放火事件の時の日付が残されていた。
男「この時のことは父も良く覚えていたみたいで。『無我夢中で写真を撮った』って言ってました。それから直ぐに小久貫家の人間がやったんじゃないかってことになって、住人たちが毎晩のように小久貫家に抗議に行ったんです。けど相手にもされず、いつの頃からか抗議もしなくなって。そんな時に坪井議員が工事反対を申し出てくれまして」
卯「坪井庄吉……」
男「今この商店街が存続できているのは彼のお陰です」
卯「……」
姫「俊介、これ……」
卯「ん?」
姫「この人、小久貫君じゃない?」
卯「え……」
姫愛が指を差した場所を見る。
フードを被っていて分かりづらいが、それは確かに小久貫一真だった。
卯「何であいつが……」
男「そういえば、小久貫大臣の息子さん、良くこの商店街にやって来てたみたいです」
卯「え!?」
男「父の話によると良く悪さしてたみたいで、住民たちは彼のこと腫れ物扱いしてたみたいです」
卯「……他の写真も見てみよう」
俊介と姫愛は写真を隅々まで調べた。
