おもちゃ箱 第46話
敵地
<秀明 side>
ガチャガチャ。
日「……鍵がかかってる。家にいないのか?」
?「日下さん。ベランダの窓が開いてました」
日「……完全に誘われてるな」
時東聖陽の自宅に到着した俺は、部下たちと共に自宅周りを固めていた。
開いているという窓に近づいた俺は、ゆっくりと部屋の中を確認した。
電気は点いておらず、中に誰もいないことを物語っていた。
日「皆、油断するな」
俺は部下にそう指示すると、先頭をきって部屋に侵入した。
握っている拳銃に自然と力が入る。
俺は数人の部下と1階を見て周り、残りの部下には2階を捜索させた。
トイレ、風呂場、天井……。
様々な場所を調べたが、かなえは見つからなかった。
日「クソッ。何処にいるんだ……」
奏君の推理によれば、「爆弾を作ったり、女性を連れ去るなら、確実に誰もこないそれなりに広い場所が必要。そんな場所は今は中々見つからない。自宅なら、それが出来るはずだ」
そして「自宅に監禁しているなら、地下室みたいな場所が存在しているはず」ということらしい。
俺もその考えに賛成だった。
もし連れ去った女性が騒ぎだしたりした場合、倉庫などでは見つかってしまう可能性がある。比較的近場で、容易に事を起こせる場所を考えると、自宅と考えるのが一番妥当だった。
必ずここにいるはずだ。
そう考えていた。
日「ん?」
俺はある違和感に気付いた。
それはキッチンの近くの壁だ。
冷蔵庫と台所の間にスペースの空いた壁があった。
違和感というのは、そこだけ周りの壁と壁紙の模様が少し違うように見えたからだ。
目を凝らしてみなければ気付かないような小さな違和感だった。
俺は壁を触りながらじっくりと観察した。
すると、うっすらと壁紙の境目があった。
比べると、やはり模様が違っていた。
俺は壁紙を剥がそうと壁に爪を立てた。
だが、しっかりと張り付いていてうまく剥がれない。
何回かしてようやく壁紙が少しめくれた。
日「よしっ」
俺は壁紙を一気に剥がした。
すると、白い壁が姿を現した。
俺は軽く壁を押した。
ガコッ。
壁が開いた。
さらに押すと、隙間から風が吹き抜けた。
地下だ。
下を見ると、暗闇に向かって階段が続いていた。
日「……」
俺は部下を手招きで呼ぶと、ゆっくりと階段を下り始めた。
ライターの火を付け、足元を照らした。
先の見えない暗闇。
吹き抜ける風。
心臓が波打つのが分かった。
日「(ここにかなえが……)」
しばらく歩くと、ほんのりと明かりが見えてきた。
ほんの1、2分のはずが、とても長く感じられた。
明かりがどんどんと大きくなっていく。
階段を下り終わると、そこには部屋が広がっていた。
いや、部屋というよりもホラー映画でよく見る解剖室のような場所だった。
灰色の壁、天井からぶら下がる小さなペンダントライト、ほのかに香る薬品の匂い。
全てが不気味に思えた。
日「かなえ、どこだ……」
部屋の中を見回すが、かなえの姿は見当たらなかった。
ふと、俺の目にあるものが映った。
それは大きな木箱だった。
今まで聖陽が犯行に使っていたのと同じものだった。
日「(まさか……)」
俺は木箱に駆け寄った。
ドクン……ドクン……。
心臓が波打つ。
俺は恐る恐る木箱を開けた。
ギィー……。
日「……かなえ」
そこにはかなえが眠っていた。
服は全て脱がされ裸の状態だった。
俺は震える手でかなえの首筋に触れる。
トクン……トクン……。
日「生き……てる……」
俺は安心し、その場にへたり込んだ。
日「かなえ、かなえ!!」
俺はかなえに声をかけ肩を揺する。
しかし、かなえは目を覚まさない。
俺は部屋を見渡した。
すると、机の上に小瓶を見つけた。
俺は小瓶を手に取った。
日「ジエチルエーテル……」
確か麻酔薬だったはずだ。
かなえの手を確認すると注射痕があった。
箱の中には爆弾もなく、散弾銃の仕掛けもなかった。
日「どういうことだ。俺たちが来るのを知って慌てて逃げたのか?」
カチッ。
『おもちゃのチャチャチャ、おもちゃのチャチャチャ、チャチャチャおもちゃのチャチャチャ……』
日「!!」
いきなりどこかから音楽が聴こえてきた。
辺りを見回すと、プレーヤーが置かれていた。
どうやら時間になると鳴るように設定されていたようだ。
『そらにきらきらおほしさま、みんなスヤスヤねむるころ、おもちゃははこをとびだして、おどるおもちゃのチャチャチャ……』
日「慌てて逃げたんじゃないのか。だとしたら何のためにかなえを……」
『おもちゃのチャチャチャ、おもちゃのチャチャチャ、チャチャチャ、おもちゃのチャチャチャ……』
俺は眠るかなえを抱き上げ、地下室を出た。
<秀明 side end>
奏「そうですか。姉ちゃん無事だったんですね。良かった……」
奏は秀明からかなえのこと、聖陽がいなかったことを聞いた。
かなえは現在、病院で大事を取って入院しているようだ。
安心したと同時に焦っていた。
今取り逃がせば、また新たな被害者が出るかもしれない。
早く捕まえなければ。
日『けど、何故時東はかなえを誘拐したんだろうか』
奏「……多分、どこかに身を隠すための時間稼ぎとして、姉ちゃんを利用したんだと思います。犯人だと気付かれてるって知ってたんだ。でもどうして……」
日『時東は心理学の教授だ。そして君やかなえのことを教えてたんだろ? 多分君たちの考えは手に取るように分かったんじゃないかな』
奏「……」
日『今、捜査員が総動員で時東の行きそうな場所を捜索してる。多分すぐに見つかるとは思うんだが……』
奏「……日下さん、少しお願いがあるんですけど」
黒「どうだった?」
奏「姉ちゃん見つかったって。眠らされてただけみたいだけど、一応入院させるって」
黒「はぁ~、良かったぁ」
絵「本当、良かった……」
雪「……」
秀平と絵里加は揃って息を吐いた。
美琴も安心した顔をしていた。
奏たちは現在、新幹線に乗っていた。
時間も時間のため、着くのは深夜になりそうだった。
奏は鞄から資料を取り出した。
黒「それは?」
奏「尾野寺さんから貸してもらったんだ」
それは鹿児島に行く前に重雄から貰ったものだった。
重雄からは、帰りがけに『気を付けろよ』と声をかけてもらった。
黒「これって……」
奏「今まで時東先生が起こした『おもちゃ箱事件』の記事と、尾野寺さんが取材してきたことをまとめたもの。忙しくて全部目を通してなかったから」
絵「ずいぶんな量ですね」
奏「さすがマスコミ泣かせおじさんと言われてるだけあるな」
見ると、犯行が起きたとされる場所、被害者家族の証言、犯行が起きた時間現場にいた人物の細かな特徴など、細かなことが書かれていた。
黒「……にしても」
絵「はい……」
奏「字が……独特」
重雄の字は決して綺麗とは言えず、所々読めないところがあった。
奏「記事にするときはネットだからなぁ……」
奏は読めない部分は前の文章を見ながら自分なりに解釈し、早足で読み進めていった。
外は徐々に街の明かりが消えつつあった。
