おもちゃ箱 第25話
講義終わり、奏はバイト先であるカフェに来て働いていた。
正面には秀平もいた。
今はお客がいなかったため、奏は秀平とたわいもない話に花を咲かせていた。
カランカラン。
店のドアが開いた。
絵「すいません。お待たせしてしまって」
黒「よっ、絵里加」
絵「黒澤先輩!? なんでここに」
奏「俺の捜査を手伝ってくれてるんだ。で、君と会うってことで一緒に話を聞いてもらおうと思って」
絵「なんだ。そうだったんですか」
奏「まぁ、とりあえず座って。コーヒーでいい?」
絵「あ、はい」
奏「はい。召し上がれ」
奏は自慢のブレンドコーヒーを絵里加の前に置いた。
絵「ありがとうございます」
絵里加はコーヒーに口をつけた。
絵「……美味しい」
黒「へへっ。だろ~」
奏「なんで秀平がドヤ顔してんだよ」
奏はそう言いながらどこか嬉しそうだった。
奏「ごめんね。忙しいのに呼び出して」
絵「いえ」
奏は昨日の夜、絵里加に電話をしていた。
同じ記者である彼女なら、安藤のことを色々と知っているのではないかと思ったからだ。
事情を話した上で会う交渉をしたところ、彼女は快く了承してくれた。
絵「それで、安藤さんのことなんですけど」
奏「うん」
絵「正直、そんなに評判は良くありません。事件関係者の女性と関係をもったり脅したりして情報を聞き出したり、盗聴や盗撮をしたり。噂では暴力団の人とも関わりがあったんじゃないかとまで言われていたそうです」
黒「そんなに評判悪くて、よく仕事続けられてたな」
絵「やり方は汚くても、スクープは取ってきてましたから。相手側も、弱味を握られていたので訴えることも出来なかったようで、自殺した人までいるって聞きました」
黒「とんでもねぇ奴だな」
絵「先輩の話を聞いただけなので、どこまでが本当なのかは分からないですけど」
奏「……」
絵「すいません先輩。大した情報無くて」
奏「ううん。助かったよ。ありがとう」
奏はそう言って微笑んだ。
絵「出版業界はもう大忙しです。有名な記者が殺されてしまったことで、今までのあの人の悪事がどんどん明るみになって、彼の記事を書くことを決めた出版社が大勢いるみたいです。私のところもそうです」
奏「そうか。じゃあ、週刊日本は今頃大変なことになってるかもね」
絵「はい」
絵里加はコーヒーに口をつけた。
絵「……あの、深堂先輩」
奏「ん?」
絵「これからも捜査続けるんですよね?」
奏「うん。そのつもりだけど」
絵「実は来週、記者として長く働いて、犯罪記事をたくさん書いてる方に会うことになってるんです。今回の事件について意見を聞こうと思って。それで、もし良かったら先輩も一緒に来ませんか?」
奏「え?」
絵「なにか事件の参考になるかもしれませんし」
奏「……分かった。予定空けとくよ」
絵「はい」
黒「……」
秀平は2人の様子を見て微笑んでいた。
奏「ただいま~」
奏がリビングの扉を開けると、そこにはかなえや雪永親子、そして秀明もいた。
か「おかえり、奏」
彩「おかえりなさい」
日「やぁ、奏君。お邪魔してるよ」
美琴は奏に笑顔を向けた。
おかえりと言っているのだろうか。
日「昨日は大変だったからね。体調とか大丈夫かい?」
奏「はい。大丈夫です」
奏は席に着いた。
か「秀明にはさっき話したんだけど、今日は仕事を休みをもらって、箱を贈られた人の家に行ってきたの」
奏「休みまで取ったんだ……。それで、どうだった?」
か「……正直、酷かったよ。『俺は悪くない。俺だって被害者だ』って言う人もいたし『もうあの事は忘れたい』って言う人もいたわ。一番酷かったのは、神田桂子さんのお母さんだったな」
奏「桂子さんの?」
か「今、病院に入院してるの。精神を病んじゃったみたいで。とても話が聞けるような状態じゃなかったわ」
奏「そう……」
日「……俺は安藤満のことで捜査会議に参加してた。そこで分かったことについて今から話すよ」
奏は頷いた。
日「まず、安藤が殺されたのは俺たちが死体を発見する前日だった。犯人は1週間ほど前から安藤をあそこに監禁し、2日前に殴り殺したみたいだ。彼の自宅のゴミ箱から1週間分の食料が見つかってる。元は彼の自宅にあったものみたいで、犯人の指紋は今のところ出てない」
奏「そうですか……」
日「あと、衝撃の事実が分かった」
奏「?」
日「安藤のもとに『山田鈴木』から手紙が届いていたんだ」
奏「え!?」
日「手紙が入っていた封筒には血が付いていたんだけど、その血液は嘉山葉子のものだった」
か「どういうこと?」
日「多分、嘉山葉子の入っていた箱の中に一緒に入っていたんだと思う。後で安藤が気付くように」
奏「その手紙にはなんて……」
日「箱の見取り図と、被害者・加害者の情報。そして『おもちゃ箱のことについて記事を出し、私のことを世に知らしめてほしい』そう書いてあった」
か「なんでそんなこと……」
奏「……自己顕示欲」
日「あぁ、そして安藤に罪を着せて殺害した」
奏「……」
日「犯人に最も近かった安藤が殺されて、捜査は振り出しに戻った。警視庁は大忙しだ」
奏「それじゃあ、日下さんにこれ以上協力してもらうのは難しいですね」
日「いや、何とかして時間を作るよ。2人が危険な目に遭う可能性だって高まったわけだからね」
か「秀明……ありがとう」
秀明はかなえに微笑んだ。
日「2人はこれからどうする?」
か「私は明日から、時間を見て神田桂子さんのお母さんのお見舞いに行こうと思う」
日「でも、話聞くの難しいんだろ?」
か「そうだけど、カウンセリングによっては話を聞くことが出来るかもしれないから」
日「……なるほど」
か「奏はどうする?」
奏「俺は来週、絵里加と一緒に犯罪記事について詳しい記者の人に会うことになってる。それまではレポートとかを終わらせとこうかと思ってるよ」
か「絵里加ちゃんと?」
奏「うん。つい最近会ったんだ。今は記者として働いてるよ。近いうちに家に来るって言ってた」
か「そう……。絵里加ちゃん元気にしてるんだ」
日「知ってる人なのか?」
か「うん、奏の高校時代の後輩で、私のカウンセリングを受けてた子」
日「へぇ~」
奏「何か良い情報が得られるといいけど……」
奏は一抹の不安を抱えていた。
