赤マント 第25話
白雪姫
翼「此処が拓実の会わせたい人がいる場所?」
上「あぁ。 こっちだ」
翼は現在、「翼に会わせたい人がいる」と言う拓実の指示により、とある飲み屋に来ていた。
「一輪」という名前のスナックは、人通りの少ない場所でひっそりと営業していた。
翼たちは店の裏口に回ると、勝手口から店の中に入った。
上「悪い。鍵閉めてくれるか?」
翼「あ、うん」
翼は言われた通り鍵を閉めた。
奥に進むと、1人の女性がカウンターに立っていた。
?「あ、お帰りなさい。拓実さん」
上「ただいま。葵衣(あおい)ちゃん」
葵衣と呼ばれた女性は翼に気付くと微笑んだ。
?「久しぶり。翼君」
翼「え?」
名前を呼ばれ翼は驚いた。
?「あれ、忘れちゃった? まぁ、1年くらいしかいなかったから覚えてないのもしょうがないか」
翼「……もしかして、白藤(しらふじ)先輩!?」
白「あ、思い出してくれた!! 良かった~」
そう言って翼に笑顔を見せたのは、白藤葵衣(しらふじ あおい)。
翼の中学時代の先輩だった。
葵衣は学校ではマドンナ的存在だった。
テストは常にトップの成績を取り、運動神経も抜群だった。
人当たりも良く、その笑顔に虜になる人は多かった。
その容姿から、名字の「白」の字を取って「白雪姫」と呼ばれていた。
翼は図書委員で彼女と一緒だった。
葵衣は人と喋るのが苦手な翼を気遣って、短めな言葉で分かりやすく話をしてくれた。
距離も近付きすぎないように気を付けてくれていた。
そのお陰で、翼は委員の仕事が苦ではなかった。
彼女がスナックで働いていると風の噂で聞いた。
中学の卒業式で笑顔を浮かべていた彼女の姿がつい最近のように感じられた。
そんな彼女が拓実と知り合いだと知って、翼は驚いた。
白「にしても驚いたなぁ。まさか上坂さんと翼君が知り合いだったなんて」
翼「僕も驚きましたよ。まさか拓実の知り合いが白藤先輩だったなんて」
翼は現在、葵衣に入れてもらった水を飲みながらカウンターに座って会話をしていた。
上「彼女とはこの近くの心療内科で出会ったんだ。弟や母のことでちょっと精神的に疲れが出ちまってな。週2日通ってるんだ。行く度に彼女が先に待合室で座ってた。で、そこで彼女に声をかけられた」
白「上坂さんの姿見てたら、自然と声かけちゃったんだよね。何か、昔の翼君見てるみたいで。なんていうか、寂しさみたいなのがあってさ」
翼「……」
白「話をしているうちに翼君とか、弟さんの話を聞いて『なにか力になりたい』なぁって。それで彼を匿うことにしたんだ。上坂さんが犯人じゃないことは分かってたから」
上「彼女とは心療内科でしか会ってないから、警察も気付かないんじゃないかと思ってな。彼女の言葉に甘えさせてもらうことにしたんだ」
翼「へぇ……(警察だったら、直ぐに拓実が心療内科に通ってることに気付いて聞き込みをするはず。やっぱり何かあるな)」
翼は警察が何か企んでいると睨んでいた。
上「それで翼。須藤大樹のことなんだけど……」
翼「……須藤の仕事場は知ってる。けど週刊紙の件があって仕事は休業してるみたい。家についてはわからない。警察に知り合いはいるけど、素直に教えてくれるとは思えない。理由を正直に話すわけにはいかないし」
白「う~ん。じゃあ須藤君に直接連絡取ってみたら? SNSだったら連絡取れるんじゃない? 翼君はそういうの得意そうだし」
翼「いうほど得意じゃないけど……。でもその方法ならいけるか」
白「上坂さんは……」
上「俺も行く。俺があいつに会わせてくれって言ったんだ」
翼「会うのは良いけど、最初は俺が1人で会うよ。黒瀬の兄だなんて人が現れたら、何するか分からないし。俺も聞きたいことがあるし」
上「……分かった。お前に任せる」
翼「うん」
白「良かったね。上坂さん」
上「あぁ。だが、葵衣ちゃんは良いのかい? 君も彼に話があるんだろう?」
翼「え?」
拓実の言葉に、翼は驚いて葵衣を見た。
葵衣は少し悩んだ顔をしていた。
白「私が話があるのは小久貫一真のほうだから」
翼「小久貫に?」
白「……私の両親。殺されたんだ。彼の父親、小久貫宗一郎に」
翼「殺された?」
翼は葵衣の言葉に驚いた。
白「私、高校卒業してから美容専門の学校に通ってたんだ。両親も私のこと応援してくれて、授業料とかも半分出してくれたり。そんな家族のために絶対に夢叶えようって毎日頑張ってた。……けど、大学2年の時、事件が起こった」
翼「……」
白「私の両親、理髪店やってたんだけどね。そこの土地一帯に土地開発の話があったの。大きな商業施設を建てるつもりだったんだって。住人のほとんどは反対してたんだけど、急に態度を変えて賛成派に流れていったの。どうやらお金を渡されたみたいで。けど、私の両親だけはずっと反対してた」
葵衣は水を一口飲むとゆっくりとコップを置いた。
白「ある日、私の携帯に警察から電話が入った。『家が火事になって両親が亡くなった』……頭の中が真っ白になったわ。火の不始末による事故だって言われたけど、私はそうは思えなかった。近所の人の話では、小久貫宗一郎に似た人が車で走り去っていくのを見たっていう話があったの」
翼「それって、小久貫宗一郎が商業施設を立てるために反対してるご両親を殺したってことですか?」
白「私はそう思ってる。けど、驚くのはそれだけじゃないの。土地は更地になったけど、未だに工事すら進んでいないの」
翼「え?」
白「どうやら議員の間で反対派の人が現れたみたいで、その人が建設を押し止めてくれてるらしいの」
翼「そんな人が……」
白「工事が始まる前にあいつの悪事を明らかにしたい。けど、私には彼に対抗する力はない。だから彼の息子を攻めることにしたの」
翼「なるほど」
上「小久貫宗一郎って男はとんでもないやつだな。俺の弟の件もあいつが学校や警察に圧力をかけていじめを隠蔽したんだ。きっと」
翼「……須藤なら何か知ってるかもしれない、そう信じてるんですね」
白「ちょっとだけだけどね」
翼「……とりあえず、須藤に会うことから始めましょう。白藤先輩、須藤のSNSのアカウント名教えてもらっていいですか?」
白「うん」
翼は大樹のSNSにDMを送った。
すると5分もしないうちに大樹からOKの返事が来た。
『場所や時間帯はそちらに任せる』と書かれていた。
翼は拓実や葵衣と話し合い、明後日に会うことを決めた。
翼「(何か情報が掴めると良いんだけど……)」
翼は不安な気持ちを抱えたまま、当日を迎えた。
