赤マント 第6話
謎の女
俊介は朝早くから相川美沙希のことについて聞き込みを行っていた。
彼女が勤めていたキャバクラや彼女に貢いでいた客、住んでいたマンションの住民。
様々な人に話を聞いた。
そこで分かったのは、美沙希の素行の悪さだった。
マンションの住民からは、騒音トラブルが絶えなかったこと、ゴミ出しも守らず挨拶もしなかったこと。
キャバクラでは、他のキャバクラ嬢と揉め事が多く、客からも「金を返せ」と店に乗り込まれたことが何度もあったことを聞いた。
彼女の両親も「既に縁を切った身だ」と、遺骨の引き取りを拒否している。
卯「……」
俊介は複雑な気持ちになった。
過去を調べれば調べるほど、美沙希の悪さが浮き彫りになっていく。
中学の時もそうだった。
万引きやいじめ、暴行など数えればキリがない。
退学にならなかったのが不思議なくらいだ。
卯「……人はそう簡単に変わらない、か」
美沙希は中学の頃から全く変わっていなかった。
いや、大きくなるにつれ知恵を付け、さらに悪くなった。
彼女を恨んでいる人間は大勢いそうだ。
卯「……皆にも話を聞かないとなぁ」
俊介は先のことを考えゆっくりと空を仰いだ。
その頃、翼は休日を使ってある場所を訪ねていた。
そこは拓実が勤めていた学校だった。
事前に話を通していた翼は校長室で校長を待っていた。
ガチャ。
校「すいません。 お待たせしました」
翼「いえ、急にお電話してしまいすいませんでした」
校「上坂君のことについてお聞きになりたいとか…… 」
翼「はい」
校「いや~、彼は生徒からも先生からも人気の先生だったんですが、急に辞めてしまって……」
翼「……理由は何と」
校「それが、理由は一身上の都合としか……」
翼「そうですか……」
校「あ、そう言えば……」
翼「?」
校「上坂君が辞める数日前に、彼のことを訪ねて学校に来た方がいるんです」
翼「学校にですか?」
校「はい。彼女と会ってから、彼は心ここに在らずと言った感じだったと、他の教員の方が言ってました」
翼「その人は何の目的で上坂拓実に会いに来たんでしょうか?」
校「さぁ……。ただ、ちょっと揉めているように見えたと」
翼「揉めていた……」
翼は考えた。
拓実に会いに来た女性とはいったい何者なのだろうか。
翼「あの、その女性の名前とか分かりますか?」
校「あ、はい。確か名刺を……」
校長は慌てて机を漁り出した。
校「あっ!! ありましたありました!!」
校長は翼に名刺を渡した。
翼「秋元茜(あきもと あかね)……」
翼はこの名前に聞き覚えがあった。
翼「!! あいつか!!」
翼は学校を出ると電話をかけた。
翼「あ、姫愛。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
秋元茜
次の日、翼はある人物との待ち合わせのためにバーに来ていた。
チャリ~ン……。
ドアベルが鳴り女性が中に入ってきた。
翼「久しぶり。秋元」
秋「……」
そこに現れたのは、かつての中学の同級生、秋元茜だった。
翼 「本当に久しぶりだね。 中学の時以来だから……10年ぶりくらいかな?」
秋「一体何のよう? 雪嶋さんから連絡があって出てみたら、『翼くんに会ってほしい』って何度も何度も。そんなに連絡すら取ったことないのにいきなり……」
翼「ハハハ……」
翼は苦笑いをした。
翼「実は上坂拓実のことについて聞きたいんだ」
秋「上坂拓実? どうして貴方が……」
翼「実は教育実習生時代に仲良くなって、それから何度か連絡を取ってたことがあるんだ」
秋「教育実習時代……。七咲くんって教師の仕事してるのね」
翼「うん。保険医だけどね。最近の事件のことでアイツに疑いがかかってるんだ。それで話が聞きたくて……」
秋「最近の事件って『赤マント』の?」
翼「うん。知ってるんだ? 『赤マント』」
秋「私、今記者の仕事してるの。『赤マント』についての記事を書こうと思って調べてる」
翼「そうなんだ。それで拓実については何を……」
秋「……悪いけど、記事の内容は明かせないことになってるの」
茜はそう言うと立ち上がった。
翼「えっ!? ちょっ……」
秋「……自分の胸に聞いてみるといいわ。そうすれば何が起きているのか分かるはずよ」
茜はそう言うと店を出た。
翼を見る茜の目は、何故か怒っているように見えた。
翼「自分の胸に手を当てて……」
翼は自分の胸に手を当てた。
翼「……あの言い方からすると、俺が関係してるってことか」
翼には全く心当たりがなかった。
翼の心には腑に落ちない思いが残った。
その夜、翼は俊介に電話をした。
卯『秋元そんなこと言ってたのか』
翼「うん。 さんざん考えたんだけど、全く心当たりがなくて……」
卯『そうか……』
翼は俊介に、茜に会ったことを話した。
卯『……ところで翼』
翼「うん?」
卯『お前なんで上坂拓実のこと調べてるんだ?』
翼「あぁ~……調べてるっていうか、気になるんだ。拓実のことが」
翼はビールを飲みながらそう答えた。
翼「教育実習で一緒だった時も、プライベートで何回かあった時も、あいつずっと笑顔でさ。『俺は生徒に愛される人気者の教師になるんだ!!』ってずっと言ってたんだ。そんなやつが教師辞めて、しかも誰かを殺すなんて信じられなくてさ」
卯「まだ上坂拓実が犯人だって決まったわけじゃないんだけどな。……それに、人って簡単に人を殺しちまうもんだよ。衝動的に人を殺してしまった事件をいくつも見てきたからな」
翼「……」
卯「まぁ、あんまり無茶するなよ? お前の死体姿なんて見たくないからな」
翼「…『事件に首を突っ込むな』って怒られること覚悟してたんだけどな」
卯「友達のこと心配なんだろ? だったら『調べるな』なんて言ったって納得できないだろ? 事件に影響が出ない程度なら文句なんて言わないさ」
翼「……ありがとう。俊介」
卯「気にすんな。……じゃ、またな」
翼「あぁ」
電話が切れると、翼は携帯を机に置いた。
翼「……」
翼は少し昔を思い出していた。
<過去>
それは教育実習で拓実と一緒になって一週間が経ったぐらいのことだった。
上「七咲先生!!」
翼「あ、上坂先生」
上「お疲れ様。今日はもう授業は終わり?」
翼「えぇ」
上「俺も今日は終わりなんだけど。……ちょっと飲みに行かない?」
翼「俺は大丈夫ですけど、上坂先生授業の準備とかしなくて大丈夫ですか?」
上「あぁ、明日は他の先生のを聞くだけだから大丈夫」
翼と拓実は教育実習が始まってからすぐに仲良くなった。
拓実はコミュニケーション能力が高く、他の先生や生徒ともすぐに打ち解けていた。
翼とは何かと波長が合うのか、社会科と保険医とジャンルは違えど色んな話をするようになった。
周りからは「昔からの付き合いみたい」だと言われたこともあった。
翼「拓実って何で教師になろうと思ったの?」
上「うん? あ~……。俺さ。弟がいたんだ。2歳下の」
翼「弟……」
上「うん。弟にさ、よく言われたんだ。「お兄ちゃん学校の先生になったら良いよ!! 勉強教えるの上手いし。兄ちゃんだったらきっと良い先生になれるよ!!」って。俺弟によく勉強教えてたんだ」
翼「……」
上「その弟も俺が高校生の頃に亡くなっちゃったんだけどね」
翼「そうだったんだ……」
上「これもさ。弟にもらったんだ」
拓実はそう言って鞄に付けていたキーホルダーを見せた。
それはスーパーマンのキーホルダーだった。
上「あいつ昔からスーパーマン好きだったんだよなぁ……」
そう言った拓実の目は何処か寂しげに見えた。
<過去 end>
翼「あのキーホルダー、前にどっかで見た気がするんだよなぁ……」
翼は何か大事なことを忘れている気がしていた。
結局、その日は思い出すことはなかった。
