おもちゃ箱 第15話
後輩からの情報
翌日、奏が事件に巻き込まれたこと、美琴が奏の家にいることが週刊日本に掲載された。
その記事は瞬く間に世間に広がり、新聞やニュースでも取り上げられた。
マスコミは奏の家に連日連夜押し掛けてきた。
かなえは仕事時間を調整し彩月を仕事場まで送迎した。
美琴は誰が来ても家の外に出ず、2階でほとんどの時間を過ごすようになった。
奏は普段は使わないタクシーや電車を使い、大学やバイト先に行くようにした。
そんな日々が1週間ほど続いたある日。
プルルル……。
奏「ん?」
バイトを終え、今から帰ろうと支度をしていた奏の元に電話が鳴った。
奏「誰だ?」
それは知らない人物からの番号だった。
怪しいと思いながらも、奏は着信ボタンを押した。
奏「もしもし?」
?『あ、もしもし?』
奏「この声……絵里加?」
絵『お久しぶりです。深堂先輩』
電話の相手は高校時代の後輩、霜村絵里加(しもむら えりか)だった。
彼女は今、新聞社で働いていると前に聞いたことがあった。
奏「どうした……っていうか、よく番号知ってたな」
絵『これでも記者の端くれなので』
奏「怖いなぁ。……それで、なんか用事?」
絵『はい。先輩、どこかで会うことできませんか?』
翌日、奏はとあるカフェに来ていた。
昨日、絵里加から会えないかと連絡を受けた奏は、絵里加から指定された待ち合わせ場所にやって来ていた。
絵「深堂先輩」
奏「久しぶり。絵里加」
絵「お久しぶりです」
奏「高校の卒業式以来だから、5年ぶりくらいか」
絵「そうですね。あ、座りましょうか」
奏と絵里加はそれぞれコーヒーを注文し、席に着いた。
絵「実を言うと、黒澤先輩から聞いたんです。先輩の連絡先」
奏「え?」
絵「高校卒業してからも、何回か連絡取り合ってるんです」
奏「そうだったんだ。あいつから何も聞いてなかったから」
絵「多分、先輩に気を使ったんだと思います。先輩、女の人苦手だから」
奏「……なるほど」
絵「でも、今私とは普通に話せてますよね?」
奏「あ、……本当だ。何でだろう」
絵「自覚なかったんですね……」
奏「はは……。あ、それで、話って言うのは?」
絵「あぁ、実はですね。この記事についてなんですけど」
そう言って絵里加は週刊誌を取り出した。
奏「あぁ、これか。……言っとくけど、これに書いてある以上の情報は無いよ?」
絵「あ、違います!! 違います!! そういう目的でお呼びしたんじゃないんです」
絵里加は慌てて否定をした。
絵「この記事を書いた安藤満って人、先輩に会いに来ませんでした?」
奏「え? 確かに会いに来たけど」
絵「やっぱり……」
奏「知り合いなの?」
絵「知り合いではないんですけど……。記者の人の中では有名ですよ? その人。悪い意味でですけど」
奏「そうなの?」
絵「事件のネタを掴むために、色んな女の人と関係持ってるって。それで訴訟問題まで起こされたことがあるらしいです。金で解決したらしいですけど」
奏「……」
絵「それであの……。かなえさんや被害者の女性に何かあったらと思って……」
奏「彼が事件のネタを掴むために姉ちゃんたちに関係を迫るんじゃないか、と?」
絵「……」
奏の言葉に絵里加はゆっくり頷いた。
奏「それを伝えるためにわざわざ連絡くれたんだ?」
絵「はい。かなえさんには色々と良くしていただきましたし、先輩にもお世話になったので」
絵里加も昔、かなえのカウンセリングを受けたことがあり、それ以来かなえのことを本当の姉のように慕っているのだ。
奏「そっか、ありがとう。気を付けるよ」
絵「はい……」
奏「たまには家に遊びにおいで。姉ちゃんもきっと喜ぶよ」
絵「はい。時間ができたら必ず」
2人はその後しばらくカフェで時間を過ごした。
犯人の心理
翌日、奏は秀平とある場所に来ていた。
ピンポーン。
?『はい』
奏「すいません、深堂です」
黒「黒澤です」
?『ちょっと待ってて』
ガチャ。
?「やぁ、2人ともよく来たね」
ドアが開くと、聖陽が笑顔で出迎えてくれた。
2日前、奏は聖陽に呼ばれ彼の研究室へ向かった。
聖陽は今回の事件に興味をもち、奏に事件の話を聞かせてほしいと頼んできたのだ。
最初は渋っていた奏だったが、『心理学者として、犯人がどんな心理を持っているのか興味がある』と言われ、奏は了承した。
事件を解決する手がかりがなにか見つかるかもしれないと思ったからだ。
その話を秀平にすると、『面白そうだから俺も行きたい!!』と半ば強引に着いてきたのだ。
時「どうぞ」
奏「失礼します」
黒「失礼しま~す」
2人は聖陽の家に入った。
リビングに入ると、そこには大きなテレビが置いてあった。
黒「うぉ~!! デカいテレビ~!!」
奏「秀平、人の家であんまりはしゃぐなよ」
時「悪いね。わざわざ来てもらって。大学では話しづらいんじゃないかと思ってね」
奏「いいえ……」
奏は部屋の周りを見ている。
時「どうかしたのかい?」
奏「あ、いえ。研究室にはミニチュアがたくさんあったのに家にはひとつも置いて無いんだなぁと思って」
時「あぁ。家に置いとくと妻が怒るんだよ。『こんなところに置いたら邪魔でしょ!!』ってね。だから、研究室でだけ作るようにしているんだ。まぁ、あっちでも他の教授たちから苦情が来てるんだけどね。『あんなもの置いていたら教育者としての威厳を損ないかねない』とか」
奏「ハハハ……」
奏は苦笑いで返すことしかできなかった。
時「さて、立ち話もなんだから座ってくれ。私はコーヒーを入れてくるから」
奏「あ、すいません」
聖陽はキッチンに向かっていった。
ふと奏は、棚に置いてある写真に目がいった。
写真には、聖陽と女性が写っていた。
奏「この写真の女性って奥さんですか?」
時「あぁ、5年ほど前に撮ったものなんだ」
奏「幸せそう……」
写真の2人は笑顔で、夫婦の仲の良さが窺えた。
一通り部屋を見渡した奏は、ソファーに向かって足を進めた。
