赤マント 第12話
翼「はいどうぞ」
卯「悪い」
姫「ありがとう」
俊介はその頃、翼と姫愛の元へ来ていた。
翼「部下の人は一緒じゃないんだ?」
卯「あぁ。別のことを調べてもらってる」
翼「そうか……」
翼はコーヒーを机に置くと、ゆっくりと椅子に座った。
翼「それで、どうしたの急に」
卯「2人とも『赤マント』の噂知ってるか?」
翼「は?」
姫「……」
卯「……どうやら知ってるみたいだな」
翼「いや、知ってるけど……」
姫「うちの学校でも、最近はその話題で持ち切りだよ?」
卯「須藤大樹が『赤マント』に襲われたことは?」
翼「ニュースで見た」
卯「実は、井上利樹や相川美沙希の事件にも『赤マント』が関わってるみたいなんだ」
翼「え?」
卯「それだけじゃない。その前に殺された他の2人の事件にも、だ」
姫「どういうこと?」
卯「どの事件現場でも、事件直前に『赤マント』が目撃されてたり、カメラに写り込んだりしてるんだ。さすがに偶然じゃ片付けられない」
翼「カメラに写り込んでたなら、そこから足取りが辿れるんじゃ……」
卯「それが……」
翼「?」
卯「途中で足取りがぱったり途絶えてるんだ。周辺の住居を調べても足跡すら見つからない」
姫「それって……幽霊?」
卯「いや、必ず何処かにいるはずだ。見つけ出して逮捕する」
姫「……」
卯「狙われてるのは中学の時の同級生だ。2人が狙われる可能性も十分ある。注意してくれ。帰る時は誰かと一緒に。家に帰ったら戸締まりは忘れずに」
翼「……分かった」
姫愛も小さく頷いた。
卯「それじゃ、それを伝えたかっただけだから。……コーヒーありがとう」
俊介はコーヒーを一気に飲み干すと席を立ち、保健室から出ていった。
姫「俊介!!」
姫愛は帰ろうと廊下を歩いている俊介に声をかけた。
姫「……本当に犯人捕まえるの?」
卯「……当たり前だろう。俺は刑事だ」
俊介は振り返らずに答える。
姫「じゃあ何で翼くんに10年前のこと話さないの?」
卯「……」
姫「本当は俊介も気付いてるんじゃない? 犯人が10年前のことで私たちを狙ってるって」
卯「……」
俊介は姫愛の質問に答えずそのまま去っていった。
姫「……」
姫愛はその場に立ち尽くしていた。
翼「……」
翼は隠れてその会話を聞いていた。
そしてもう1人。
音「……」
玲穏も別の場所で隠れて会話を聞いていた。
音「先生……」
玲穏の頭の中には翼の顔が浮かんでいた。
放課後。
翼は帰り支度をしていた。
翼「……」
翼の頭の中では、先ほどの俊介と姫愛の会話が繰り返し流れていた。
翼「(あの2人には俺の知らない秘密がある。俺の知らない……)」
無意識に鞄を掴む手に力が入っていた。
翼「……クソ」
ガラッ。
翼「……音無」
入ってきたのは玲穏だった。
翼「あれ? 今日はお母さん来るの早いから保健室には来ないって昨日言ってなかったっけ?」
音「うん。お母さんにはちょっと待ってもらってる」
翼「?」
音「……先生、須藤大樹と同級生なの?」
翼「え?」
音「……ごめん。話聞いちゃったから」
翼「聞いてたっていつから?」
音「『須藤大樹が赤マントに襲われた』って辺りから」
翼「ほぼ最初からじゃねぇかよ……。入ってくれば良かったのに」
音「流石にあの会話の中に入っていくのは無理だよ」
翼「それもそうか……」
翼は椅子に座った。
翼「中学の頃の同級生なんだ。ほぼ喋ったこと無いけどな」
音「雪嶋先生やあの刑事さんも……」
翼「あぁ。俺の唯一の友達だ」
音「唯一の友達が2人。……先生って中学の時、陰キャだったんだ」
翼「陰キャ言うな。…まぁ目立つ方ではなかったな。目立たず騒がず。それを心掛けてた気がする」
音「……」
翼「それで、わざわざそんなこと聞きに来たのか?」
音「……私の知り合いに怪奇現象とか、都市伝説に詳しい人がいるんだ」
翼「都市伝説……」
音「多分、『赤マント』についても詳しいかもしれない」
翼「詳しいって言っても、相手は人間……」
音「本当にそう思ってる?」
翼「……」
音「そうじゃないと思ったから、あの刑事さんや雪嶋先生に何も言えなかったんじゃない?」
翼「……ハァ」
翼はため息をついた。
翼「それで、その知り合いの人がどうした?」
音「今度の週末に会うことになってるんだけど、先生もその人に会ってみない?」
翼「俺が?」
音「先生も『赤マント』のこと気になってるんでしょ?」
翼「……」
音「私も気になってるんだ。『赤マント』とは一体何なのか。それを知りたい」
そう言った玲穏の目は真剣だった。
翼「……分かった。時間を空けられるように調整するよ」
音「……行ってくれるの?」
翼「誘っておいて何でビックリしてんだよ」
音「断られると思ってた」
翼「……生徒の頼みだからな。それに、お前の言う通り俺も『赤マント』のことは気になってるからな」
音「……」
翼は玲穏に優しく微笑んだ。
手紙
その日の夜。
俊介は1人で笠井繁の家を張り込んでいた。
警察は基本2人1組で捜査をする。
しかし俊介は部下を帰らせ、1人で張り込むことにした。
自分は捜査を外されるかもしれない。
下手をしたら刑事を辞めることになるかもしれない。
俊介は部下に責任を取らせることが無いよう、単独行動を取ることにしたのだった。
卯「(例え刑事じゃ無くなっても、俺がこの事件を終わらせる。俺が……)」
俊介の目は決意に満ちていた。
ガチャ。
笠井宅の玄関ドアが開いた。
俊介は身を屈めた。
出てきたのは繁本人だった。
繁は辺りをキョロキョロと見回すと、小走りで何処かへ向かった。
車では気付かれる可能性があるため、俊介は車から降りて繁の尾行を始めた。
笠「ハァ……ハァ……」
繁はポッチャリとした体型を揺らしながら走っていた。
その速度はあまり早くなく、俊介は小走りで尾行できていた。
卯「一体どこに向かってる……」
時刻は深夜1時を向かえようとしていた。
卯「(この方向は確か……)」
繁が来たのは大樹の経営している店だった。
もちろん大樹はいない。
店の電気は消え、鍵が閉まっている。
卯「何しに来たんだ……」
笠「ハァ……ハァ……」
繁は息を整えると、ポケットに手を入れ封筒を取り出した。
繁はその封筒をドアの隙間に差し入れた。
落ちないことを確認すると、繁はまた小走りで元来た道へ帰っていった。
俊介は繁が見えなくなるのを確認すると、ドアに挟まった封筒を手に取った。
封筒には『須藤大樹へ』と名前が書かれていた。
俊介は車へ戻り、グローブボックスからハサミを取り出し封筒の口を切った。
中には手紙が入っていた。
卯「……」
俊介は手紙を読み終わると近くのコンビニへ行き、封筒と糊を買った。
俊介は買ったばかりの封筒に手紙を入れ糊付けした。
そして封筒をドアの隙間に差し入れた。
卯「……」
俊介は車に乗ると、自分の家に帰っていった。
