赤マント 第7話
次の日、俊介は「週刊近代」に来ていた。
小さいが、それなりにスクープを撮っている出版社だ。
秋元茜はここに勤めているらしい。
茜は現在取材に出ており、俊介は部下と共に茜の帰りを待っていた。
秋「編集長、今帰りまし……た」
編「おお秋元、お疲れさん。お客さんが来てるぞ」
秋「……」
俊介は茜が来ると立ち上がった。
編「刑事さん」
卯「どうも……」
俊介は軽く頭を下げた。
秋「……」
卯「久しぶりだね……」
秋「……」
茜は俊介の目を見たまま一言も口を開こうとはしなかった。
卯「今日は上坂拓実のことについて聞きに来たんだ」
秋「……」
卯「彼を訪ねて彼の勤めていた学校に行ったそうだね」
秋「……」
卯「そこで彼と揉めていたと証言もある」
秋「……」
卯「一体何の話で揉めてたんだ?」
秋「……七咲君から聞いたのね?」
卯「……」
秋「……いくら警察でも、取材内容については教えられない」
卯「こちらは強制的に調べることも出来るんだ。出来ればそういうことはしたくない」
秋「調べるなら勝手に調べれば良いわ。とにかく、私は一切話さない」
茜はそういうと席を立ち、先ほど来た道を戻っていった。
卯「翼に言ったんだろ!! 『自分の胸に手を当てて考えてみろ』って!!」
秋「……」
卯「あれって一体どういう意味なんだ? 翼が今回の事件に関係してるのか?」
秋「……別に彼だけに対しての言葉じゃないわ。貴方にも当てはまるのよ」
卯「え?」
茜はそういうと歩きだした。
秋「取材に行ってきます」
編「おぉ、仕事熱心だな」
部「随分と強気ですね。彼女」
卯「……あぁ」
俊介は茜の後ろ姿を静かに見つめていた。
卯「あの、彼女は今何の取材をしてるんですか?」
編「あぁ。赤マントですよ。今話題の」
卯「……ということは、他の同級生に話を聞いてる可能性もあるか」
編「あ、そういえば……」
卯「?」
編「つい最近、男に会いに取材に行ったって言ってたな」
卯「男?」
編「ええ。ちょっと待ってくださいね」
編集長はそう言うと茜のデスクを漁り出した。
編「あっ、あったあった。これだ」
編集長が渡したのは、男の名前と住所が書かれたメモだった。
卯「笠井繁(かさい しげる)……」
俊介はこの名前に聞き覚えがあった。
卯「彼女は何故この男のところに……」
編「さぁ? ただ、何回か家に行ったがほぼ毎回門前払いをくらったとか。何でも本人が家に引き籠ってて、母親がスゴい勢いで食って掛かってきたと」
卯「引き籠り……」
俊介はメモに書かれた笠井繁という名前を静かに見つめていた。
悩み
その頃、翼は保健室で暇をもて余していた。
翼「今日は誰も来ないな」
誰も来ないのは良いことなのだが、普段生徒が暇潰しにやって来ることが多いので、こうやって誰も来ないのは久しぶりだった。
時間はもうすぐ放課後を迎えようとしていた。
ガラッ。
美「せ~んせい」
翼「倉野か。音無なら今日は来てないぞ」
美「知ってる~。教室行ったら今日は休みだって」
翼「……そうか」
美「ねぇ、先生」
翼「ん?」
美「玲穏って最近何かあった?」
翼「……何で?」
美「いや、なんか最近元気がないように見えるっていうか。まぁ最初に会った時からそんな感じなんだけどさ。いつもとちょっと違うっていうか」
翼「……本人に直接聞いてみたらどうだ?」
美「本人に聞けないから先生のとこに来たんじゃんか~。私より仲良い先生なら何か知ってるかなぁって」
翼「……悪いけど、俺にも分からない(確かに最近の音無は少し不思議な感じがする。心に何か抱えてるような……)」
美「そっかぁ」
翼は歴は短いが保険医である。
今まで生徒の悩みを聞くことも少なくなかった。
だからなのか、玲穏が心に何かを抱えているのが分かった。
翼「……倉野」
美「ん~?」
翼「どんな人にだって触れてほしくないトラウマみたいなものがある。むやみやたらに触れると、相手との関係を悪くしてしまう」
美「……」
翼「ただ……」
美「?」
翼「本当に仲良くなりたいと思うなら、どんな過去があろうと受け入れてやれば良い。今はまだ仲良くなくても、お前の気持ちは音無にちょっとは伝わってるはずだ」
美「先生……」
翼は美南子に微笑んだ。
美南子はそれに笑顔で返し、大きく頷いた。
姫愛はその頃、職員室で電話をしていた。
プルルルル……。
?『もしもし?』
姫「あ、もしもし? 私、姫愛」
?『姫愛? 知らない番号だったからビックリしたよ』
姫「実は携帯壊れちゃって。職員室の電話でかけてるの」
卯『(……職員室の電話を私用で使って良いのか?)そうか。それで、どうかした?』
姫「あ、うん。さっき翼くんから話聞いて。秋元さんに変なこと言われたって。それと俊介にその事話したって」
卯『あ~、うん』
姫「……なんかごめんね。私が変なこと言ったばっかりに」
卯『別に気にしなくて良いよ。むしろ姫愛のお陰で事件が進展したんだ。ありがとうな』
姫「うん……」
姫愛は照れ臭そうに微笑んだ。
姫「……ねぇ」
卯『ん?』
姫「近いうちにご飯食べに行かない? その……二人で」
卯『……うん。時間が出来たら連絡するよ。まぁしばらくは厳しそうだけど、頑張って早く解決する。そしたらご飯食べに行こう』
姫「うん。待ってるね」
卯『あぁ。……じゃあ、また』
姫「うん。またね」
プツン。
電話が切れると、姫愛は受話器をじっと見つめ、俊介の笑顔を思い浮かべていた。
姫愛は受話器を置くと優しく微笑んだ。
