おもちゃ箱 第5話
気がかり
次の日の朝、奏は重たい体を起こしてベットから起き上がった。
奏「(体が重い……)」
昨日のことがあってか、奏は中々寝付くことができなかった。
奏はユラユラと2階から降りてきた。
か「奏、おはよう」
奏「おはよう、姉ちゃん」
か「大丈夫? 良く眠れ……るわけないよね」
奏「ははは……」
奏はコーヒーを飲みながら体を落ち着かせた。
奏「姉ちゃん」
か「ん?」
奏「あの女の人どうだった?」
か「気になる?」
奏「気になるよそりゃ。一応俺が助けた人だもん」
か「う~ん。あんまりクライエントのことは話しちゃいけないんだけど……。奏には教えちゃうね」
かなえは飲んでいたコーヒーを置いて奏を真っ直ぐ見た。
か「……正直、良いとは言えない。というか、何も話してくれないんだよね」
奏「……え?」
か「まぁ、あんな目に遭ったんだから仕方ないんだけど。恐がって何も話してくれない」
奏「……そっか」
か「身元を示すものが何もないから、ご家族と連絡も取れなくて」
奏「ニュースを見たら、きっと家族の人が連絡してくるよ」
か「それが、ニュースにはならないみたいなんだよね」
奏「は?」
か「世間に混乱をきたす可能性があるからって。事件のことは口外しないことにしたみたい」
ガタッ。
奏は勢いよく椅子から立ち上がった。
奏「そんな!! 俺、警察に抗議してくる」
か「ちょっ、ちょっと待って奏!! 気持ちは分かるよ? 私だって同じ気持ちだし。けど、彼女のことを考えたら無闇に反対もできないのよ」
奏「彼女のこと?」
か「もしニュースになって彼女の名前が出たら、きっとマスコミが大騒ぎして彼女のところに来るわ。そんなことになったら今の彼女が耐えられると思う?」
奏「……」
奏は拳を握り、大人しく席に着いた。
か「とりあえず、彼女が落ち着くまでは警察の言う通りにしておこうと思う。彼女のためにも。もちろん、身元が分かったら、すぐに家族の人に連絡できるようにする」
奏「……わかった。姉ちゃんを信じる」
か「ふふっ。ありがと。さぁ食べよう?」
かなえはそう言って朝食に手をつけた。
奏の心にはまだわだかまりが残っていた。
大学の講義も終わり、奏はバイト先に来ていた。
客席には秀平が座っていた。
奏は秀平に新しく考えたコーヒーの味を聞くために店に呼んだのだ。
奏「どうぞ」
奏は秀平の目の前に新作コーヒーを出した。
黒「……じゃあ、いただきます」
秀平はそう言ってコーヒーに口を付けた。
奏「……」
黒「……旨い」
奏「良かったぁ」
黒「うん!! 普通にうめぇよ!! いつ考え付いたんだこんなの!!」
奏「それは……」
奏は時折、自分で考えたブレンドコーヒーを作っては、店長や桂子、そして秀平に味の感想を求めているのだ。
奏にとって、今のこの時間は救いだった。
昨日の女性のこと、そして今日のかなえとの朝の会話が奏の心をざわつかせていた。
大学での講義はあまり頭に入ってこなかった。
奏「(今の俺にできることは何もないんだ。早く忘れよう)」
そう思いながらも、奏はバイト中もずっと忘れることができなかった。
奏「ただいま~」
夕方、奏はバイトを終え家に帰ってきた。
玄関にはかなえの靴が置いてあり、風呂場からはシャワーの音が聞こえていた。
奏「(姉ちゃん風呂入ってるのか)」
奏は靴を脱ぎ自分の部屋へ向かった。
奏「ふぅ~」
奏は鞄を置いて制服を脱いだ。
奏「今日は何作ろうかな」
今日の晩御飯を考えながら奏は2階から降りてきた。
奏「ん?」
リビングのソファーに誰かが寝ていた。
奏「(おかしいな。姉ちゃんは風呂入ってるはずなんだけど……)」
奏はゆっくりとソファーに近づいた。
奏「はっ!? えっ、何で!?」
奏は驚いてその場にへたり込んだ。
ソファーには、奏が助けたあの女性が眠っていた。
