赤マント 第44話
襲来
?「ふふんふ~ん……」
男性は鼻唄を歌いながら学校の廊下を歩いていた。
彼は学校で用務員の仕事をしている。
授業中、校内を見回りながら備品の整理を行っている。
用「ふ~んふんふん……」
鍵を開けて用務員室に入る。
鍵を所定の位置に直し、椅子に座ってタバコを付ける。
本来は禁煙だが、彼は隠れてはよくタバコを吸っていた。
用「ふぃ~……」
彼はタバコを吹かしながらくつろいでいた。
カツッ……カツッ……。
男性は携帯で競馬中継を聞いていた。
カツッ……カツッ……。
用「ん?」
男性がドアに目を向けると、人が通っていくのが見えた。
曇りガラスのため顔は見えなかったが、男性はその人物に違和感を覚えた。
その人物は赤い帽子のような物を被って、ゆっくりと廊下を移動していた。
今は授業中。
そんな時にそんなものを被って廊下を歩いているのはおかしかった。
男性は不振に思い、忍び足でドアに近付いた。
ガララ……。
男性はゆっくりとドアを開けて、隙間から廊下を覗き込む。
用「あれ?」
ガラッ。
男性はドアを開けて廊下に出た。
そこには誰もいなかった。
影が通りすぎてからドアを開けるまで5秒も経っていない。
急ぎ足か走るかしない限り、姿を見失うことはあり得ない。
しかし、足音もなく影は姿を消した。
男性は不気味に思った。
用「何だったんだ?」
男性は部屋に戻ろうと振り返った。
赤「……」
そこには赤いマントを羽織った人物がいた。
用「!?」
?「うわぁぁぁぁぁ~!!」
学校内に悲鳴が響いた。
翼「!?」
翼は持っていたカップを置いて急いで廊下に出た。
何人かの教師が走っていく。
翼はその人たちの後を付いていった。
翼「(今の悲鳴、男の人っぼかったけど……。まさか)」
翼は人だかりを見つけた。
翼「ハァ……ハァ……」
翼は人だかりを掻き分けて前に進んでいく。
すると、人の間から中の様子を伺うことができた。
男性が倒れ、2人の男性がそれを介抱しているようだった。
?「……気絶してるだけみたいです」
?「病気か何かでしょうか?」
?「いやぁ。それであんな悲鳴を上げるとは思えないですけど……」
翼「(やっぱり姫愛じゃなかった。……けど、何であの人……)」
翼は妙な胸騒ぎがした。
バサッ。
?「ねぇ、今変な人いなかった?」
?「え?」
バサッ。
?「な、なぁ? 何か今変なやついなかったか?」
?「は? ……何もいねぇじゃん」
?「いや、何か見えたんだって!? 赤いマントみたいなのが!!」
翼「(赤いマント……)」
?「お、おい!? あれ見ろ!!」
生徒の声で他の生徒たちも窓の外を見出した。
翼も中に割り込み外を見る。
すると、校庭の真ん中に赤いマントを羽織った人物が立っていた。
?「え? 何あれ?」
?「まさか『赤マント』!?」
?「おい、写真撮ろうぜ写真!!」
?「あ、あれ? カメラに写らねぇぞ!?」
翼「……」
翼や姫愛だけではなく全ての生徒に『赤マント』は見えていた。
?「ねぇ? ヤバくない?」
?「うちら殺されちゃうんじゃ……」
?「バカ!!『赤マント』が殺すのは悪いやつなんだろ!?」
?「で、でも俺、昨日隠れて親の財布から金抜いちゃったし……」
?「わ、私も昨日、パパ活してお金貰った……」
?「えぇ~……」
周りから「私も」「俺も」と言う声が聞こえてきた。
翼「(ヤバイ……。『赤マント』の噂が悪い方向性に向いてる)」
外にいる『赤マント』がこちらに向かって歩いてきた。
?「ヤバイよ!! こっちに来た!!」
?「ドア閉めないと!!」
?「逃げようぜ!!」
?「どうやって逃げんだよ!? 正面はアイツいるぞ!!」
?「裏から逃げよう!!」
?「急げ!!」
生徒たちは一目散に逃げ出した。
人が押し合い、倒れる生徒も現れた。
?「あ、おい!! 君たち待ちなさい!!」
?「私たちも逃げた方が良いんじゃ……」
?「そ、そうですね。逃げましょう」
?「君たち、先生より先に行くんじゃない!!」
周りの教師たちも続々と逃げていく。
翼「イッテ!? ……もう、足踏むなっての」
翼は人の波に逆らいながら歩いていく。
翼「姫愛、何処だ……」
姫「……」
姫愛は翼とほんの少し離れたところで同じように『赤マント』の姿を見ていた。
姫「……」
生徒たちが逃げ惑う中、姫愛はその場に立ち尽くしていた。
姫「(もう良いのかもしれない。このまま殺されれば、もう罪に苦しむこともないのかもしれない……)」
姫愛は自分の人生を諦めていた。
ガシッ。
突然、姫愛の手を誰かが掴んだ。
音「先生」
手を掴んだのは玲穏だった。
その隣には美南子もいた。
姫「音無さん……」
音「こっち」
玲穏は姫愛の手を引っ張り走り出した。
玲穏たちがやってきたのは美術室だった。
中に入ると、急いでドアを閉め鍵をかけた。
音「ハァ……」
玲穏は息を吐いた。
美「ここならしばらくは見つからないはず」
音「……できればずっと見つからない場所がほしかったんだけど」
美「流石にそれは無理」
音「だよね……」
玲穏は項垂れた。
姫「2人とも、どうして……」
音「……先生が死んだら、七咲先生が悲しむから」
姫「……」
音「それに、あのマントの人にはもう人を殺してほしくないから。……それがお兄ちゃんが私に伝えたいことだと思うから」
姫「音無さん……」
美「私は玲穏の付き添いです」
音「付き添わなくて良いって言ったのに」
美「そんなことしたら私が後悔するもん。『思い出は残しても後悔は残すな。学校生活を楽しみたいならな』」
音「何それ?」
美「七咲先生に言われた言葉。そして私の座右の銘」
音「ふ~ん……」
玲穏は素っ気なく話を流した。
しかし、その表情は少しだけ微笑んでいるように姫愛には見えた。
姫「(翼くんって生徒に慕われてるんだなぁ)」
姫愛は翼のことを羨ましく思った。
ブーッ。
翼の携帯が鳴った。
翼「もしもし?」
音『先生? 私』
翼「音無か。悪い今……」
音『雪嶋先生なら私と一緒にいるよ』
翼「……お前ら、まだ校舎内にいたのか」
音『うん』
翼「今何処だ?」
音『美術室』
翼「分かった。直ぐに向かうから、俺が来るまでそこから動くなよ?」
翼は電話を切った。
翼「俊介のやつ、電話に出ないけど何かあったのかな」
翼は赤マントが現れてから直ぐに俊介に電話をした。
だが、俊介は電話に出なかった。
今も着信はない。
翼「……あいつなら大丈夫。今は姫愛を守ることを考えよう」
翼は美術室へ走った。
一方、俊介は浩一や茜と共に学校へ向かっていた。
美「おい、まだ進まないのか?」
卯「しょうがないだろ。信号なんだから」
秋「やっぱり徒歩で行った方が良かったかしら」
俊介たちは渋滞に巻き込まれていた。
どうやら近くで交通事故があったようだ。
美「卯野崎、警察なんだから何とかして通してもらえないのか?」
卯「無理言うな。これは警察車両じゃない。それに今は休職中で手帳も持ってない」
美「つったってさ。もしあっちに『赤マント』がいたら……」
卯「……あっちには翼がいる。きっと姫愛を守ってくれるはずだ」
秋「……」
卯「あいつは昔から人のために力を発揮できる。例えそれで自分が傷付いても。それがあいつだ」
美「……」
卯「そして、そんなあいつを守るのは俺の役目だ。……翼も姫愛も絶対に死なせない」
秋「だったら尚更急がないと。……多分、今ヤバイわよ」
美「ヤバイって?」
秋「SNSで拡散してる。『赤マントが学校に出た』って。姿は写ってないけど、この学校、七咲君たちが居るとこでしょ?」
茜はそう言って写真を見せた。
そこには、確かに翼たちがいる学校が載っていた。
卯「……」
俊介はポケットから携帯を取り出した。
卯「……クソッ。電話来てんじゃねぇか」
俊介は急いで翼に電話を掛けた。
