赤マント 第22話
10年前
『例の喫茶店で待ってる』
浩一からのメールを見た翼は、そそくさと自分の仕事を終わらせ終業と共に学校を出た。
浩一が調査のために京都に行ってから3日、翼は心が落ち着かなかった。
結果を聞くのは怖い。
しかし、結果を聞きたくて仕方がなかった。
翼「(まさか本当に3日で調べ終わるなんて……)」
翼は浩一の仕事の早さに驚いていた。
中学の頃の浩一は宿題を忘れることや遅刻が多かった印象があった。
あの頃とは違うんだと翼は実感した。
翼「(そう、中学の頃とは違うんだ。もうあの頃みたいに仲良くなんて出来ないかもしれない。けど、それでも俺は知りたい。俊介の、姫愛の気持ちを……)」
翼は歩く速度を早めた。
翼が喫茶店に着くと、浩一は既に席に座っていた。
翼「ごめん。待たせちゃったね」
美「いや、こっちこそ悪いな。急に呼び出しちまって。早く伝えた方が良いんじゃないかと思ってさ」
翼「でも、本当に3日で調べたんだね」
美「あぁ、それなんだけどさ。実はちょっと謝らないといけないことが……」
翼「?」
美「10年前に起こったことについてなんだけど。……俺、何が起きたか何となく心当たりがあったんだ。話を聞いた時から」
翼「え……」
美「いや、確信があったわけじゃないし、正直今まで忘れてたんだ。調べていくうちにやっと思い出したっていうか」
翼「どういうこと?」
美「七咲さ……。黒瀬優太(くろせ ゆうた)って覚えてるか?」
翼「黒瀬?」
翼はその名前に見覚えがなかった。
美「あれだ。いつもあの、隅っこで本読んでた。地味めな……」
翼「……あ」
美「思い出したか?」
翼「うん。あんまり喋ったことないんだけど。確か、3学期辺りから姿を見かけなくなったはず。……って、あれ?」
翼はあることを思い出した。
翼「そう言えば、黒瀬が姿を消したのって……」
美「そう、10年前。それも修学旅行の最終日だ」
<過去 side>
10年前。
翼「ハァ……」
翼は大きなため息をついた。
この日は修学旅行が終わってから初の登校日。
他の生徒は修学旅行の話に花を咲かせていることだろう。
しかし、翼はその事を考えると暗い気持ちになった。
翼は修学旅行の当日、40度近い高熱を出してしまった。
最初は無理をしてでも行くつもりだったが、父親に止められてしまい、やむ無く学校を休むことになってしまった。
その日、翼は病院で検査を受けた。
肺炎になる直前だったようで、「あと少しで長期入院になるところだった」と言われた。
その日は入院し、翌日家に戻ってきた。
家に帰ってから、翼はずっと憂鬱だった。
学校に行ってもクラスメイトはいない。
父親は夜遅くまで仕事なので家にいても1人。
翼は3日間ずっと憂鬱だった。
翼「(学校に行っても居場所無さそうだなぁ。まぁ、元々無いようなもんだけど)……ハァ」
翼は再びため息をついた。
重い足取りのまま、翼は学校にやって来た。
ガラッ。
翼「……おはよう」
普段なら、教室に入ると俊介や姫愛が挨拶をしてくれる。
だが、その日は2人の声は聞こえなかった。
教室の中の空気もいつもと違って重く感じた。
数人の生徒が翼を見るなり暗い顔になった。
翼「?」
翼は不思議に思いながら、俊介と姫愛の元へ向かった。
翼「おはよう」
卯「おはよう、翼」
姫「……おはよう。翼君」
2人ともどこか元気がないように思えた。
翼「……何かあった?」
卯「え!?」
翼「いや、何か空気が重いっていうか……」
卯「……」
姫「あ、あの、翼君。あのね……」
卯「何もないよ」
俊介は何か言おうとしていた姫愛の言葉を遮った。
卯「皆疲れてるだけだよ。思った以上に騒がしかったからね」
姫「……」
翼「そう……」
翼はそれ以上何も聞かなかった。
ガラッ。
先「お~い。席着けぇ。HR始めるぞ~」
担任の先生が入ってきた。
先「皆おはよう~」
『おはようございま~す』
先「お~し。皆元気だなぁ。あ~、実は皆に報告しなきゃいけないことがある。まぁ、皆既に知ってるとは思うが……」
翼「?」
先「一昨日、黒瀬が行方不明になった。修学旅行の最中にだ。まだ見つかったという連絡は来ていない」
翼「え……」
周りがざわざわと騒ぎだした。
先「は~い。皆静かに~。まだ事件に巻き込まれたと決まったわけじゃないからな~。京都は広い。迷っちゃった可能性もある。あいつは地味だからなぁ」
その言葉にクスクスと笑い声が聞こえた。
先「小久貫たちは黒瀬と同じグループだったよな? 何か知らないか?」
小「一昨日も説明したじゃないですか。俺たちがお土産選んでる時には既にいなかったんだって。なぁ?」
笠「う、うん」
須「……」
井「トイレに行って迷っちゃったんじゃないですか~?」
相「私たちも一真君たちと一緒にいたけど、黒瀬君は見なかったで~す」
卯「……」
先「そうか。まぁ、直ぐに見つかるだろう。じゃあこの話は終わりだ。次は皆が大好きな受験の話な~」
『えぇ~』
翼「……」
翼は前の席にいる姫愛を見た。
顔は見えなかったが、その背中は寂しく見えた。
それから10年。
優太が見つかることはなかった。
<過去 side end>
翼「……そうだ。黒瀬が居なくなってから、あの修学旅行の日から俊介や姫愛の態度が一時期おかしくなった。どっかよそよそしくて、怯えてるようで」
美「……」
翼「けど、高校生になって、2人が付き合うようになって、2人はいつも通りに戻った。いや、無理やり明るく振る舞ってたのかもしれない」
美「ちょっと待った。まだ黒瀬のことと2人が繋がってるとは決まってないぞ」
翼「……俊介からちょっとだけ修学旅行の話を聞いたことがあるんだ。俊介たち、確か黒瀬たちのグループと一緒に行動してたはず」
美「え?」
翼「小久貫がリーダーをしていたいじめっ子グループ。俊介と姫愛、そして黒瀬。全部で10人。本当なら、俺も俊介のグループに入ってる筈だったんだけど……」
美「風邪で寝込んじまった……」
翼「……うん」
美「もし、黒瀬が犯人なのだとしたら、何故10年も経った今になって……」
翼「……」
翼は何か引っ掛かることがあった。
何か大事なことを忘れているような、そんな感覚が。
翼「ねぇ。滝藤先生って今何してるか知ってる?」
美「え?」
翼「ほら、3年の時の担任の滝藤虎道(たきとう とらみち)先生。黒瀬が本当にいじめられた時の復讐をしてるなら、滝藤先生にだって接触してる可能性もあるだろうし。先生、いじめのこと黙認してたって聞いたことあるし」
浩一は翼を見つめていた。
翼「どうかした?」
美「俺も一応先生に話を聞いた方がいいと思って、住所を調べて会いに行ったんだ。けど……」
翼「?」
美「既に亡くなってた」
翼「亡くなってたって、病気か何かってこと?」
美「……いや、どうやら誰かに殺されたらしい。それも、亡くなったのが『赤マント』の事件が起こる1週間前だった」
翼「……それって」
美「今回のことと関係がない、とは言えないよな」
翼「……」
翼は驚きのあまり言葉が出なかった。
