赤マント 第38話
消えない寂しさ
<翼 side>
翌日、俺はある場所を訪れていた。
翼「……誰も住んでないのか」
そこはかつて、俺が住んでいた家だった。
俺はドアに手をかける。
ガチャガチャ。
ドアには鍵がかかっていた。
翼「流石に開いてないか……」
俺は静かにその場を後にした。
翼「あっ……」
家を出て直ぐ、俺は電柱の貼り紙を目にした。
そこには、『この犬を探しています』と書かれていた。
翼「そういえば小さい頃、母さんと近所の犬を一緒に探したことがあったな」
仲良くしていた近所のおばあちゃんの飼い犬が居なくなり、母親と近所の住民と一緒に犬を探した。
母は貼り紙を作り、それを電柱に貼ったり、歩いている人に配ったりしていた。
数日後、その犬は自らおばあちゃんの家に戻ってきた。
それを聞いた母は、俺の顔を見て笑った。
俺は一緒に笑いあった。
その時には想像さえしていなかった。
そんな母が自殺するなんて。
母の自殺を聞いた時は驚いた。
俺はその時学校にいた。
母を発見したのは近所のおばあちゃんだった。
首を吊ったと聞かされたが、その時の記憶は定かではなかった。
母が亡くなったと聞いても、俺にはあまり実感が湧かなかった。
中学になって家を引っ越した時、ようやく母がいないことを寂しく思うようになった。
今になればなんて遅いことだろうと思う。
俊介は俺を元気付けようとしてくれた。
その中に姫愛が加わった。
毎日が楽しかった。
けど、寂しさが消えたわけではなかった。
翼「行ってみるか……」
俺はある場所を目指して歩きだした。
俺がやって来たのはお墓だった。
母が眠っている場所。
教員になってからはここには来ていなかった。
忙しかったのもあるが、俺は単純に母が死んだことを否定したかったのかもしれない。
ここに来る度に、母が死んだことを嫌でも実感させられる。
それが嫌だったのかもしれない。
翼「久しぶり、母さん」
お墓に供えられた花はすっかり枯れていた。
俺は立ち寄った花屋で買った花を花瓶に挿す。
そして静かに手を合わせた。
父は1度も墓参りには来ていないようだった。
母が死んだ日から父は変わった。
笑わなくなったし、怒りもしなくなった。
ただ、時折悲しい表情を見せるだけ。
俺はそんな父に段々と嫌気が差すようになった。
成人になると同時に俺は家を出た。
それ以来、父とは連絡すら取っていない。
今どうしているかも分からない。
父のあの悲しそうな表情は何だったのか。
母を失ったショックからなのか、それとも母が自殺した理由を何か知っているからなのか、母が自殺した理由が父にあるからなのか。
それすら分からなかった。
翼「……」
俺は決心していた。
『赤マント』と戦う覚悟を。
そのための区切りとしてここにやって来た。
しかし、俺の心はスッキリすることはなかった。
寧ろ少し寂しくなった。
翼「来るのを間違えたかな……」
俺は帰ることにした。
俺は足を止め、振り返った。
母の墓を見つめる。
耳を澄ませても、母の声が聞こえることはなかった。
翼「……」
俺は何も言わずその場を後にした。
翼「(美味しいうどんでも食べて帰ろう……)」
俺は寂しさを誤魔化すようにそんなことを考えていた。
<翼 side end>
