赤マント 第32話
秋「いなかった?」
大樹の言葉に、茜は少し驚いているように見えた。
秋「何を言ってるの? 彼は確かに……」
茜は言葉の途中で止まった。
ぼんやりとだが、昔のことを思い出していた。
確かにあの修学旅行の日、茜は翼の姿を見た覚えが無かった。
須「……思い出したか?」
秋「……いや、けど覚えてないだけかもしれないじゃない」
須「俺は本人から聞いたんだ。本人が覚えてないってことはねぇだろ。そんなイベントの日のこと。それに、同窓会でもその事で話が盛り上がったんだよ。まぁ、お前は来てなかったから知らねぇだろうけど」
秋「……」
翼は茂みから姿を現した。
秋「!! どうして貴方が……」
須「コイツに言われたんだ。会ったら真実を話してもらえないんじゃないかってな。だから隠れて話を聞いてもらってたんだ」
秋「……」
茜は無言で翼を睨み付けた。
翼「最初に会った時、自分の胸に聞いてみろって言われて、正直なんのことか分からなかった。けど、やっと分かった。あれは自分の罪に向き合えってことだったんだね」
須「まぁ、盛大な勘違いだったみたいだけどな」
秋「……」
須「どうせあれだろ? 卯野崎や雪嶋の名前が挙がったから、きっといつも一緒にいた七咲も居るはずだって思ったんだろ? それでろく録に調べもせずにコイツのこと疑ってたわけだ」
秋「っ!! 」
須「……図星かよ。それで良く記者やってんな」
秋「……だから何なのよ」
須「あ?」
秋「そんなことどうだって良いのよ!! 問題なのは黒瀬君が小久貫君たちに殺されたってことでしょ!? その真実さえ明らかになれば誰があの日いたかなんて大した問題じゃないわ!!」
須「お前……」
翼「……確かに君のいう通りだ」
須「おい……」
翼「大事なのは黒瀬がいじめに遭ってたっていう事実。けど、黒瀬は殺されたんじゃない。自殺したんだ」
秋「えぇ。自殺に警察はそう結論付けたわ。けどあれは……」
翼「黒瀬は自宅に遺書を残してた。本人の字で間違いないって話だったんだけど、知らなかった?」
秋「遺書!? けどそんな話どこにも……」
翼「上坂拓実から聞いたんだ。遺書は誰にも見せてない。彼自身、あいつらに復讐したいって思いがあったみたいだから」
秋「……」
須「どうする? お前のいう真実ってやつがどんどん嘘になってるみたいだけど」
秋「……貴方たち私の邪魔をしたいの? 彼らが黒瀬君をいじめてた事実は変わらない。それさえ明らかになれば遺書のことなんて後で知っても変わらない」
翼「それで関係の無いクラスメイトが謂れの無い誹謗中傷を受けても?」
秋「皆彼がいじめられてるを知っててそれを無かったことにしてた。全く関係の無いことだって。そしてこうして事件が起きても誰もいじめの事実を話そうとしない。そんなことあっていいと思う? だから私は記事を書くことにしたの。黒瀬君や、その家族のために」
須「……お前はどうなんだよ」
秋「え?」
須「お前正義の味方ぶってるけど、お前はいじめられてるのを知った時何をしてたんだよ。黒瀬が委員長のお前に相談した時、お前あいつの言葉に聞く耳持たなかったんだろ? 滝藤に愚痴ってるのを他の奴らが聞いてたんだってさ」
秋「……」
須「自分のクラスでいじめが起きてるなんて、委員会選挙に影響出るもんな? それに高校受験に向けて勉強してたんだろ? その邪魔をされたくなかった」
秋「えぇ。そうよ。だから私は今こうやって真実を伝えようとしてる。あの時出来なかったことをやろうとしてるの」
須「出来なかったんじゃなくてやりたく無かっただけだろ!! 何が真実だふざけやがって。結局他の奴らを否定しててめぇを正当化したいだけじゃねぇか!」
秋「!?」
須「……確かに俺や一真たちは黒瀬のことを死なせた。それは一生かけても許してもらえない。けど、俺はもう逃げないって決めた。逃げも隠れもしない。全部明らかにして自分の罪と向き合うって決めたんだ」
翼「俺も君と同じだ。いじめのことを無かったことにしてた。自分のことばかり考えてた。だからってわけじゃないけど、俺はこの事件を解決しなきゃいけない。前に進むために。……君はどうする?」
秋「……」
心の傷
その夜、翼は大樹と居酒屋に来ていた。
須「居酒屋なんて久しぶりに来たな……」
翼「そうなの?」
須「あぁ。大体は焼き肉かカラオケだったからな」
翼「へぇ~」
あの後、茜は渋々捜査に協力することを約束してくれた。
取材内容に触れすぎない程度の情報で、分かったことがあったら教えてくれるらしい。
茜と別れた後、翼は大樹に「精神的に疲れた。どっか飲みに連れてけ」と半ば強引に飲みに誘われた。
須「秋元を説得することは出来たけど、本当に協力してくれんのか?」
翼「多分、大丈夫だと思うけど……」
須「……まぁ、お前なら大丈夫か」
翼「?」
翼は大樹の言葉の意味が分からず、キョトンとしていた。
須「それより、これからどうすんだ?」
翼「関係者全員で集まって話すのが2日後。それまではどうにも動きようがないんだよね」
須「卯野崎や雪嶋は来てくれるだろうけど、その音無とかいう女子生徒、来てくれんのか? 対人恐怖症なんだろ?」
翼「知り合い2人が付き添いできてくれるから大丈夫だって本人は言ってたから。それに、彼女自身この事件の真相が知りたいんだって。……多分、お兄さんのことがあったからだと思う」
須「(というより、お前のことが心配だからだと思うけど……)」
大樹は心の中でそう呟いた。
須「にしても、お前が教師やってるとは思わなかったよ。人付き合いの苦手なお前が」
翼「……本当は教師をやるつもりじゃなかったんだ」
須「え?」
翼「高校卒業してからもやりたいことが見つからなくて、毎日何のために生きてるんだろうって、暗いことばっかり考えるようになって。そんな時、姫愛が『教師になりたい』って急に言い出して。俺もそれに乗っかっただけなんだ」
須「……」
翼「最初の頃は「何でこんな大変な仕事始めちゃったんだ」って思ってたんだけど、続けてると心に傷を抱えた生徒にたくさん会ってさ。何かそういう生徒の力になりたいなぁって思うようになって」
須「心に傷、か……」
翼「……岩原さんも何か傷を抱えてるのかな。それに耐えられなくなって失踪した」
須「……どうだろうな」
ブーッ。
翼の携帯が鳴った。
翼「メール? 美濃部からだ」
翼は浩一からのメールを見た。
翼「!! 須藤」
須「あ?」
翼「……岩原萌の居場所が分かったって」
