赤マント 第35話

結集

須「……」

大樹は眩しい太陽の光で目を覚ました。

時計を見ると、9時を少し過ぎていた。

待ち合わせ時間は11時。

家からは約30分。

コーヒーを嗜む時間は十分あった。

大樹は布団から出ると洗面所へ向かった。

 この前割ってしまったガラスはまだそのままだった。

 せめてこの事件が終わるまではこのままにしておこう。

そう決めていた。

須「早く終わらせねぇとな……」


 大樹は食べ終わった食器を台所へ置き、コーヒーに口を付けた。

 机には皆から預かった修学旅行の写真が並んでいた。

須「しかし、マジでいねぇな。七咲の奴」

どの写真にも翼の姿は写っていなかった。

大樹は翼が本当に休んでいたのだと実感した。

須「……あれ?」

大樹はあることに気付いた。

そして写真を漁っては中を確認する。

須「……」

大樹は拳を強く握っていた。


須「ここか……」

大樹は待ち合わせ場所に到着した。

ドアには『準備中』の掛札がかかっていた。

須「……入って良いんだよな?」

 大樹はドアノブに手をかけゆっくりと手前に引いた。

チリン。

ドアベルが小さく音を立てる。

マ「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」

須「……」

 須藤は知らない男性に頭を下げられ少し困惑した。

美「やっと来たか。須藤」

秋「貴方が最後よ」

 声のした方を向くと、そこには翼や俊介や姫愛、浩一や茜、拓実や葵衣、そして大樹の知らない女性が3人いた。

美(倉)「あれが須藤大樹。本物だ」

音「うん……」

緋「……芸能人の方を生で見たの初めてです」

音「うん……」

須「(……あの子が音無か。すげぇ緊張した顔してるけど)」

大樹は店の時計をチラリと見た。

須「お前ら全員遠足行く前の小学生かよ。来るのはえぇよ」

秋「こんなの普通よ」

卯「刑事は迅速な行動を心掛けないといけないからな」

須「……」

美「まぁ、皆緊張して早く来ちまったってのが本音さ。お前もそんなとこだろ?」

須「……あぁ」

大樹は目を逸らした。

美「まぁ、取り敢えず空いてるとこに座ってくれ。マスターコーヒーお願い」

マ「畏まりました」

須「……」

大樹は翼の隣のカウンター席に腰を降ろした。

美「それじゃあ、自己紹介もしつつ、話し合いを始めようか」


美「それじゃあ先ず今回の事件についてだが、皆『赤マント』が犯人っていう結論で良いんだよな?」

卯「小久貫一真や笠井繁にはアリバイはないが、あそこまでの犯罪は出来ないっていうのが警察の結論だ」

翼「拓実の疑いは?」

卯「捜査から外されてしまったから詳しくは分からないけど、多分もう疑いは晴れてると思う。彼の自宅やその近辺を調べたけど、警察が来ているようではなかったから」

翼「そっか……」

翼は胸を撫で下ろした。

美「で、問題は誰が『赤マント』なのか、だけど……」

須「黒瀬優太……」

大樹は呟いた。

その言葉に翼は拓実を見た。

拓実はその視線に気付いた。

上「……大丈夫。俺もそう思ってたから。その時から覚悟は出来てる」

翼「……」

卯「……いや、それはあり得ない。黒瀬は遺体で見つかってる。確認したから間違いない」

秋「……私も最初はあり得ないと思ってた。けど、取材をしていく内に現実味を感じてる。本当に黒瀬君なんじゃないかって。雪嶋さんも見たんでしょ? 『赤マント』」

姫「うん……。顔は見えなかったけど」

美(倉)「……ってことは、幽霊?」

渡「そういうことになりますね……」

白「そんなことあり得るのかな……」

音「……私や緋梨さんは実際に『赤マント』を見てる。先生も一緒だった」

玲穏は翼を見た。

翼「間違いないよ。あの時は彼女のお兄さんだったけど、格好は『赤マント』そのものだった」

卯「……」

美「じゃあ皆、『赤マント』は黒瀬っていう考えで良いんだな?」

浩一の言葉に皆何も言わなかった。

秋「……でも、何で『赤マント』なの? 『赤マント』って子供を狙うんじゃないの?」

翼「あの、あくまで可能性なんだけど……」

秋「?」

翼「渡辺さん、前に言ってたよね? 都市伝説に出てくる幽霊は人の思念によって実体となって、姿形が変わるって」

渡「あ、はい」

翼「音無のお兄さんも、そして黒瀬も、誰かの強い思いが『赤マント』という存在となって現れたものなんじゃないかな?」

音「お兄ちゃんの時は私の思いが……」

上「……優太の時は俺の思いが実体となった」

翼「出てきた目的は全然違うけど、偶然にも同じ『赤マント』という存在となって生まれてしまった」

須「それがネットとかで噂が広がってより実体になったってことか……」

秋「でも、そんなやつをどうやって止めるの?」

卯「小久貫や笠井には刑事が張り付いてるけど、幽霊相手じゃどうしようもない。あの2人に話したところで頭のおかしいやつだと思われるだけだ。ここにいる俺たちだけで何とかしないと」

翼「『赤マント』は実体がある。普通に攻撃することはできると思う。それにもうひとつ方法がある」

卯「もうひとつの方法?」

翼「音無のお兄さんは思い入れのある家にいた。黒瀬も動いた後はどこか思い入れのある場所に戻ってるんじゃないかな? そこで黒瀬を説得すれば……」

卯「説得って、かなり難しいぞ。相手は何人も人を殺してる」

秋「……普通に戦うよりは安全かも」

上「……俺が説得する。兄である俺の話なら、あいつも聞いてくれるはずだ」

卯「……分かった。そっちの方は翼たちに任せるよ。俺は白藤先輩のご両親の件を調べる。小久貫をこのままにはしておけない。やつを逮捕して刑務所へ送る。そうすれば『赤マント』も手を出せない。幽霊にこの手が通用するか分からないけど……」

翼「渡辺さんたちには『赤マント』についてもっと調べてもらいたいんだ。やつの弱点が見つかるかもしれない」

渡「わ、分かりました」

美(倉)「よし、頑張るぞ!!」

音「うん」

美「俺は笠井繁のことをもうちょっと調べることにするよ。あいつ、岩原の件だけじゃなくて他にも何かやってる節があるんだよね」

翼「分かった。……じゃあ、明日から捜査開始だ。皆、絶対に黒瀬を止めよう」

翼の言葉に皆頷いた。


須「秋元」

秋「何?」

須「わりぃんだけど、この写真皆に返しといてくんね?」

大樹は写真の束を置いた。

秋「自分で返しなさいよ」

須「俺が行くと渋い顔すんだよ。お前の方がまだマシだろ」

秋「……全く」

須「ここに来る前に写真を見直してた。どいつもこいつも楽しそうな顔してやがる」

秋「あら、貴方も青春時代を懐かしむことがあるのね」

須「そんなんじゃねぇよ。……その写真の中にあいつは写ること無かったんだなぁと思ってよ」

須「七咲君のこと?」

須「いや、黒瀬のことだよ」

秋「え?」

須「その写真の中に黒瀬の姿はどこにも写ってなかった」

秋「そんなこと……」

須「皆わざと写してねぇのか、あいつ自身が写りこまねぇように気を遣ってたのか、あいつの存在自体が消えちまったのか、どっちにしろ、あいつの笑顔はその写真には無かった」

秋「……」

須「……どっちだろうな?」

秋「え?」

須「生きてた頃と生き返った今と、あいつにとっちゃどっちが幸せなんだろうな」

秋「……そんなの、私に分かるわけないじゃない」

2人は静かに写真を見つめていた。

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