おもちゃ箱 第36話
悠紀子と奏
<過去 side>
中学の頃の私はギャルのような格好をして、校則を破り、毎日自由に学校生活を送っていた。
別に家族や学校に不満があった訳じゃない。
ただ、友達がそういう路線に進んだから着いていっただけ。
そんな日々が続いていたある日、2年の始業式であの男に出会った。
深堂奏。
地味で静かな男。
ただ、彼には友達がいた。
一緒に弁当を食べて、遊んで、話ができる友達が。
そして、家族がいた。
笑顔が絶えないような、そんな雰囲気を持った家族が。
齋「(……何で? 何でイライラするのだろう)」
あんな地味なやつが何であんなに幸せそうなの?
何で私は彼に嫉妬してるの?
何かある訳じゃないのに。
齋「……なに、か」
……そう、私には何もないのだ。
夢も、楽しみも、自由も。
誰かに引っ付いて、誰かの言ったことに頷いてるだけ。
だから羨ましいのだ。
あの人生を楽しんで笑顔を見せている地味男が。
私の中に、どす黒い感情が渦巻いていた。
そこからだ。
私が彼を苛めるようになったのは。
最初はわざと体をぶつけたり、消しゴムのカスを投げたりと軽いものだった。
それが机に落書きをしたり、財布からお金を取ったり、殴ったり蹴ったり。
友達も便乗して彼を虐めるようになった。
いじめはどんどんとエスカレートしていった。
最初は彼は抵抗してきた。
彼の友達も彼を庇った。
けど、彼は決して親に言うことはしなかった。
心配をかけたくなかったのだろう。
聞いた話では、その頃彼の母親は怪我をして入院をしていたらしい。
彼は担任には相談をしていた。
だが、担任も教頭も問題を大きくしたくなかったのか、私たちに軽く注意するだけで終わっていた。
私たちはさらに彼を苛めた。
そんなことが5ヶ月ほど続いたある日。
とうとうあの出来事が起こった。
私の人生を変えたあの出来事が。
その日の放課後。
私は友達と、教室で彼を苛めていた。
彼を取り囲み、掃除用のモップを彼に擦り付けていた。
奏「ゴホッゴホッ……。お願い止めて」
1「アハハッ!! やめてだって」
2「ウケる~」
友達は携帯で彼を撮っていた。
その時、私はあることを思い付いた。
齋「ねぇ、良いこと思い付いたんだけど……」
私たちは彼を裸にし、彼の口に雑巾を押し込み、口をガムテープで固定し、さらにガムテープで体をグルグルと巻いた。
そして、彼を掃除用具を入れるロッカーに押し込めた。
奏「ん~!! んんんん!!」
齋「アハハッ!! スゴい格好!!」
2「制服どうする?」
3「ゴミ箱に捨てとけば良くない?」
1「良いねぇ」
皆で笑いながら彼を撮りまくっていた。
齋「明日から連休でここには誰も来ないから。誰か来るとしたら3日後くらいかな? まぁ、その頃にはちゃんと出してあげるから」
奏「んんんっ!?」
齋「あ、携帯と財布は私たちが貰ってあげるから。じゃあ、風邪引かないようにね?」
奏「んんんん!! ん~!!」
私はそう言ってロッカーを閉めた。
誰にも気付かれないように、透明テープでロッカーを目張りし、学校を後にした。
1「ねぇ、帰りにマック寄ってかない?」
2「え~、カラオケがいいなぁ」
3「じゃあ、マック行ってからカラオケ行けば良くない?」
1「そうだね!! そうしよう!!」
齋「……」
私は振り返り、彼のいる教室の方に目を向けた。
齋「……バーカ」
1「悠紀子~!!」
2「何してんの~」
3「早く来ないと、マック奢らせるよ~」
齋「は~い!! ……奢らせるって。まぁ、アイツの財布があるから良いけどさ」
私は友達に呼ばれ、駆け足で向かった。
