(AI小説)風の記憶 ― その風の吹くさきは③
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第三章:沙月のまなざし
冬の午後、美術室には柔らかな光が差し込んでいた。窓際の机に座る沙月は、筆先を静かに動かしていた。キャンバスには、淡い色彩で描かれた風景。桜の木の下に、ひとり立つ人物。その表情は描かれていない。けれど、どこか寂しげで、何かを待っているようだった。
悠一は、廊下の窓からその絵を見つめていた。声をかけるべきか迷いながら、結局、足を踏み出した。
「…また風を描いてるんだね」
沙月は驚いたように顔を上げたが、すぐに微笑んだ。
「うん。風って、見えないけど、誰かの気持ちに似てる気がするから」
「誰かの気持ち?」
「…届かないけど、確かにそこにあるもの」
その言葉に、悠一は胸が締めつけられるような感覚を覚えた。沙月の言葉は、いつも遠回しで、けれど核心を突いてくる。彼女の目は、何かを伝えようとしていた。悠一はそれを感じながらも、言葉にできなかった。
ある日、帰り道で偶然沙月と二人きりになった。夕暮れの空は茜色に染まり、風が制服の裾を揺らしていた。
「卒業、もうすぐだね」
「…そうだね」
「悠一くんは、卒業したらどうするの?」
「大学に行くよ。何をしたいって事はないけど」
沙月は少しうつむいて、言葉を選ぶように口を開いた。
「…私、絵を続けたい。誰かの心に残るような絵を描きたい」
「きっと描けるよ。沙月の絵、すごく…心に響くから」
「…ありがとう」
沈黙が流れた。風が二人の間を通り抜けていく。
その時、沙月がふと立ち止まり、悠一の方を見た。
「もし、違う選択をしたら、人生って変わると思う?」
「…変わると思う。でも、怖いよ。今のものを失うのが」
沙月は何も言わず、ただ微笑んだ。その微笑みは、少しだけ寂しげだった。
風の如く時間が流れ、沙月がキャンバスに描いていた桜の季節が訪れた
卒業式の日、彼女の美月は涙を浮かべながら「高校生活楽しかったね、お互いこの先もがんばろうね」と言った。悠一はその手を握り
ただ「うん」とだけ返していた。それぞれの進路が別れ、美月との今後が自分の中で想像できないでいた。
数日後、大学へ通う準備をしている悠一へ沙月から封筒が届いた。中には、春の風を描いた絵と、短い言葉が添えられていた。
「あなたの選ばなかった風が、あなたを優しく包みますように。」
悠一はその絵を見つめながら、胸の奥に静かな痛みを感じていた。
それは、後悔とまではいかない、微かな悔いのような感覚だが、同時にまだ始まっていない物語の予感だった。
つづく
