作り笑顔の効用

なんだか職場が暗いよね。
みんなギスギスしてない?

もっと雰囲気が明るくなれば、きっと仕事も楽しくなるのにね。
まぁ、忙しいから仕方ないか。

そんな風に感じたことはありませんか?
なぜ職場が暗いのでしょう?
今日はその原因を探ってみますね。

生理心理学者のティンバーグは、こんな実験をしました。
大学生を集めて、テレビのモニターを見てもらうのですが、あらかじめ被験者の顔に電線を何本か貼り付けておきます。

この電線は電位を計測する機器に繋がっていて、各人の表情筋の電位変化が、時間の経過とともに自動的に記録されるようになっています。
さて、いよいよ実験開始。

モニター画面には、いろいろな人の顔がアップで映し出されるのですが、それぞれ表情が異なっています。
ある人はえらい剣幕で怒っていますが、別の人はとても悲しそう。

でも、被験者は次々と映し出される顔をただぼんやりと眺めているだけで、特段何かをするわけではありません。
これで、一体何がわかるというのでしょう?

実は、モニターに様々な表情が映し出された時、それを見ている被験者の表情筋の電位がどのように変化するかを調べていたのです。

ティンバーグの仮説はこうです。
「モニターに映し出される人の表情が、見ている人にも伝染するのではないか」

結果はどうだったかと言うと、彼の仮説は見事に証明されました。
人は、怒っている人の顔を見ると、無意識のうちに自分も怒った表情になります。
悲しそうな顔を見れば無意識のうちに悲しい表情になり、穏やかな顔では穏やかになります。

もちろん、笑顔を見れば表情は自然とほころびます。
なんと、表情は伝染していたのです。

なぜ、そうなるのかというメカニズムについては、その後「ミラーニューロン」が発見されたことで解明されます。

ミラーニューロンとは、ある特定の動作をした時に発火する脳細胞が、他人の同じ動作を見た時にも発火するという現象です。
まるで鏡を見ているようなので、この名前がつけられました。

例えば、誰かがあなたに向かって手を振ったとします。
この時あなたの手は全く動いていないのに、あなたの脳の中の「手を振る」という動作を担当する細胞が発火するのです。

このミラーニューロンを通じて伝染するのは、おそらく表情だけではないでしょう。
動作や口癖までも伝染するはずです。

もし、あなたが管理職ならば責任は重大ですよ。
なぜなら、あなたの組織の雰囲気を決定しているのは、あなたの表情や動作、口癖だからです。
当然、仕事に対する取り組み姿勢や考え方も、チーム員に影響を与えると思われます。

ということは、あなたのチームが暗いのはあなたが暗いからです。
あなたに笑顔がないからです。
チームがギスギスしているのは、あなたに余裕がないからです。

組織というのは、管理職を映し出す鏡のようなものです。
気をつけましょうね。

でも、管理職にも言い分があります。
「うちの組織は忙しすぎるから、余裕なんてあるわけないだろう」
「目標の進捗状況が思わしくないから、笑ってる場合じゃないんだよ」

確かに気持ちはわかります。
でも、そこが運命の分かれ道なのです。

産経新聞系列の日本工業新聞で、30年間も取材で各地を飛び回り、大阪経済部長まで勤めた竹原信夫は、「日本の景気を悪くしているのは新聞ではないか」という疑問を抱きました。

「これから景気はよくなる」という記事を書くと、なぜか新聞は売れません。
反対に「景気は悪くなる」と書くと、飛ぶように売れます。

こうなると、新聞社としては、売上を確保するために暗い記事ばかり書かざるを得えなくなります。

竹原は、新聞が明るい記事を書くようになれば、きっと日本の景気はよくなるはずだと考え、新聞社を辞めて『日本一明るい経済新聞』というミニコミ紙を発行し始めます。

編集長として、大阪を中心にとにかく「明るい」社長を探し出しては、どんどん紹介記事を書きます。
零細企業だろうと構いません。
とにかく日本を明るくしたいのです。

明るい社長には、人を惹き付ける魅力があります。
その社長の魅力を紹介するだけで、読者は元気になれるのです。

そんな時、一人の底抜けに明るい社長と出会いました。
とにかく、いつ如何なる時でも明るく振舞うのです。

あまりの徹底ぶりに、「なんでそんなに明るいのですか?」と思わず尋ねてしまいました。
それに対する社長の答えは、大変意外なものでした。

「実は何年か前に、会社が不渡りを出す寸前までいってしまってね」
今は順調ですが、やはり浮き沈みの波があったようです。

最悪の場合は首を吊らなければいけない、というところまで追い詰められたある朝のことでした。
歯を磨こうと鏡を見た社長は、あまりのことに思わず声をあげてしまいます。

鏡には、生気の欠片もなく、疲れ切った今にも死にそうな男の顔が映っていました。
「社員は毎日こんな顔を見せられていたのか」

そう思うと情けないやら申し訳ないやら、涙が溢れそうになりました。
そして、心に固く誓ったのです。

「社長のオレがこんな顔をしていてはダメだ。これからはとにかく明るく振る舞おう」
それからは、鏡に向かって必死で口角を上げて「作り笑顔」の練習です。

一般に潰れそうな会社には、ある共通する現象が見られるといいます。
それは、大した用事もないのに、異常なほど来客が多いことです。

みんな「近くまで来たから寄ってみた」などと言いながら、本当はどんな様子か探りを入れに来ているのです。
会社の観察に余念のない来客たちは、しばらくするとあることに気づきます。

「おかしいぞ。潰れそうだと聞いたのに、社長がえらく明るいじゃないか」
そして次の瞬間、はたと膝を打ちます。
「あ、そうか!資金繰りの目処がついたんだ。それであんなに明るいんだ」

不要不急の来客はみんな勝手に早合点をしては、出されたお茶に手をつける間もなく慌てて帰っていきました。
あの時、取引先が1社も手を引かなかったおかげで会社は救われたと、社長は遠い目をして回想したのでした。

これがまさに「作り笑顔の効用」です。

辛い時は、誰でも辛い顔をします。
苦しい時は、誰でも苦しい顔をします。
でも、辛い時、苦しい時に笑顔でいられる人こそ、「人物」だと私は思うのです。

辛いとか、苦しいを言い訳にしてはいけません。
なぜなら、チームが苦境を脱することができるかどうかを決定する大事な要素のひとつが、あなたの表情なのですから。

最近、心理学者のストラックらの研究によって、作り笑顔をすると自身の考え方まで前向きになることがわかってきました。
作り笑顔は、心の中まで明るくしてしまうのです。

さあ、組織の雰囲気を明るくしたかったら、そしてあなた自身が前向きな気持ちになりたかったら、取りあえずは「作り笑顔」です。
無理だなどと思わずに、まずは試しにちょっと口角を上げてみて下さい。
ほら、少し心が軽くなった気がしませんか。

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