十人十色──春、私は“私”になることを決めた
前書き
これはどこにでもいる、普通の女子大生の青春物語「十人十色」。
障害もひとつの個性。あなたらしく生きればそれで良いというメッセージを、この物語を通じて多くの方に届けたい。そんな想いから生まれた、短編小説です。
※あくまでフィクションになりますので、ご注意下さい。
🌸 十人十色──春、私は“私”になることを決めた
春風が、大学の構内をそっと撫でていく。
ひらり、桜の花びらが舞う。
大学4年生になったトパーズは、木陰のベンチでそっと目を閉じた。
ギターケースの中には、去年の学園祭で演奏したバンド仲間との写真。
今も続く関係に救われながらも、心の奥ではモヤが晴れずにいた。
就活がうまくいかない。
エントリーシートも面接も何十社と挑んできたけれど、返ってくるのは「不採用」の通知ばかり。
「もっと自分をアピールして」「空気を読んで」
言葉の意味は分かる。けれど、どう“読めばいいのか”が分からなかった。
バイト先のカフェでも、ふとした一言が胸を突いた。
「トパーズさんって、たまに変な間あるよね」
店長の軽口のつもりだったのかもしれない。でも、その言葉がしばらく心から離れなかった。
ただ自分のタイミングで話していただけなのに、“浮いている”と思われる。
その夜、ベッドに倒れ込むと、思考の渦が止まらなかった。
「また失敗した」
「自分は何かがズレてるのかもしれない」
気づけば、ごはんの味さえ感じなくなっていた。
──そんなある日。
大学の帰り道、懐かしい声がした。
「久しぶり、元気してた?」
小学校の同級生、久美だった。
その一言に、なぜだか涙が止まらなくなった。
駅前の人混みの中、ポロポロと涙がこぼれていく。
久美は、そんなトパーズを黙って見守りながら、喫茶店へ連れていってくれた。
コーヒーの湯気の向こうで、トパーズはこれまでの想いをすべて話した。
就活のこと、バイトのこと、自分を責め続けていたこと。
久美は黙って頷きながら、しばらくして、こう言った。
「それ、発達障害かもしれないよ。私の弟もASDなんだけど、話を聞いてると少し似てる。専門の病院で診てもらったことはある?」
──ASD。
名前だけは聞いたことがあった。でも、それが自分と重なるとは思っていなかった。
「診断がつくことで、自分を責めなくて済むようになることもあるよ」
久美の言葉に背中を押され、トパーズは思いきって専門のクリニックへ足を運んだ。
診断は、「ASD(自閉スペクトラム症)」だった。
説明を受けるうちに、自分がずっと抱えてきた違和感が、少しずつほどけていくのを感じた。
空気が読めないわけじゃない。
ただ、“読み取り方”が人とは違っていた──それだけだった。
その日の夜、久美からメッセージが届いた。
「今までよく頑張ってきたね。これからは、無理に合わせなくていい。
あなたはあなたのままで、ちゃんと生きていける」
その言葉が、心の奥まで染み渡って、涙が溢れた。
──春が終わりに近づくころ。
トパーズは、とある企業の最終面接に臨んでいた。
バンド活動で得たチーム経験。
自分の感じ方を活かしたアイデア提案。
苦手なことも、正直に話した。
「だからこそ、周囲の助けを借りながら、全力で取り組んでいきたいんです」
数日後、結果が届いた。
──なんと、合格だった。
電話を切った瞬間、涙があふれた。
久美に報告すると、彼女も一緒に泣いてくれた。
これまでの50社の不採用は、“ここ”に繋がるための道だったのかもしれない。
社会人になってからも、戸惑うことはきっとある。
でも、今は「自分の特性」を理解しながら、少しずつ工夫を覚えていった。
忘れっぽい自分には、付箋とタイマー。
会話のテンポが合わないときは、先に「少し考える時間をください」と伝える。
完璧じゃなくていい。
「十人十色」でいい。
そう、春の夜空に向かって呟いた。
翌年の春。トパーズは新社会人となった。
新しい職場には、優しい人もいれば、少し厳しい人もいた。
朝のミーティング。テンポよく進む会話の中で、自分の順番になると、トパーズは一瞬止まってしまう。
考えがまとまるまでに、少し時間がかかるのだ。
「……トパーズさん、大丈夫?」
焦りと恥ずかしさが胸に広がる。
でも、診断を受けてからは、もう無理に「普通」に合わせようとしないと決めていた。
「すみません。話す前に少しだけ考える時間をください」
一瞬の沈黙。
だけど、そのあとは意外なほどスムーズだった。
仲間の一人が、ニッコリと微笑んでくれたのだ。
「全然大丈夫。分かりやすく話してくれるから、助かってるよ」
その一言が、心をほどいた。
──“わたしは、わたしでいていい”
そう思えた瞬間だった。
仕事でミスをしたこともある。
連絡の順番を間違えたり、細かい提出物を忘れたり。
でも、そんなときも、ひとりで抱え込まないようになった。
メモを残す。付箋を貼る。カレンダーに通知を入れる。
助けを求めるときは、ちゃんと声に出す。
完璧じゃない。
でも、それでいい。
「できないこと」より、「工夫できること」を増やしていく。
数ヶ月が経ったある日。
ふと、社内のランチスペースで新人の子が涙をこらえているのを見かけた。
声はかけられなかったけれど、その姿が自分の過去と重なって見えた。
帰り道、ふと思った。
「もしかしたら、自分の経験が誰かの助けになるかもしれない」
そう思って、久しぶりにnoteを開いた。
タイトルは、「歩幅はみんな違っていい」。
自分の特性に悩んだこと。久美と出会った日のこと。
診断を受けて、やっと自分を理解できたこと。
社会人になってからも失敗しながら、毎日少しずつ前に進んでいること。
そのすべてを、丁寧に綴った。
数日後、一通のメッセージが届いた。
「noteを読んで、涙が止まりませんでした。
私も同じように悩んでいて、でも今、少しだけ救われた気がします。
書いてくれて、本当にありがとう」
トパーズは、スマホを胸に抱きしめた。
何かが、ほんの少しだけ報われた気がした。
──「十人十色」という言葉が、やさしく心に響く。
自分だけの歩幅で、自分の色で、生きていけばいい。
そう思えるようになった今、次は誰かの春風になれるような存在になりたい。
そんな気持ちが、少しずつ芽吹き始めていた。
メンバーシップ「十人十色」のご案内
小説は、フィクションですが、私の苦労してきた生きざまを表現した内容となっています。
もしかしたら読者の方の中には、この短編小説で描かれたトパーズのように、生きづらさや繊細であるがために傷ついてきた経験のある方がいらっしゃるかもしれません。
ちょっとした出来事を共有したい・自由参加のコミュニティを探している・ちょっぴり前向きになりたい・・・そんな方の居場所としてメンバーシップ「十人十色」をご用意しています。
初月無料ですので、お気軽にお立ち寄りください。
メンバーシップの詳細は、下記の記事にも書いています。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
繊細なあなたとのゆるくあたたかい絆が育めるように、メンバーシップで静かにお待ちしております。
いいなと思ったら応援しよう!
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
「活動を応援したい」と思っていただけたら、チップで応援していただけるとうれしいです。
いただいた応援は、新しい作品やサービスづくりに大切に活用します。
あなたの応援が、誰かの一歩を後押しする作品につながります。