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神経損傷による免疫抑制/ がん免疫治療失敗の原因/ アミロイドーシスの遺伝子治療

Nature:https://www.nature.com/nature/volumes/646/issues/8084
Science:https://www.science.org/toc/science/390/6769
NEJM:https://www.nejm.org/toc/nejm/393/14


Nature 腫瘍学
Cancer-induced nerve injury promotes resistance to anti-PD-1 therapy
(がんによって誘導される神経損傷は抗PD-1療法に対する抵抗性を促進する)DOI: 10.1038/s41586-025-09370-8

 テキサス大学MDアンダーソンがんセンターからの報告である。
がん細胞による神経損傷が抗PD-1免疫療法への抵抗性を引き起こすメカニズムを解明している。がん細胞が神経のミエリン鞘を破壊すると、損傷を受けた神経がIL-6やI型インターフェロンを介した炎症反応を起こし、これが慢性化すると腫瘍微小環境を免疫抑制状態に変化させてしまう。これを患者サンプルと動物モデルで実証し、その抗PD-1療法に対する治療抵抗性を克服できる可能性を示した。
 図1(上記DOIから参照)は、皮膚扁平上皮がん患者を対象とした抗PD-1臨床試験で、神経周囲浸潤と神経損傷マーカー(ATF3、JUN)の発現が治療非奏効群で有意に高いことを示している。さらにマウス実験で、腫瘍移植前に皮膚の神経を物理的に除去(脱神経)しておくと、治療抵抗性は誘導されないことを示している。
 図2は、がん細胞と神経の共培養実験や電子顕微鏡観察により、がん細胞が神経のミエリン鞘を直接破壊して神経損傷を引き起こすことを示している。損傷を受けた神経は電気伝導が低下し、ATF3発現が上昇するとともに、TNF、インターフェロンα、IL-6などの炎症性サイトカイン、特にIL-6を自律的に産生していた。
 図3は、がん進行に伴い神経損傷が増加し、損傷神経周囲に免疫抑制性マクロファージや疲弊CD8陽性T細胞が集積することを示している。空間トランスクリプトーム解析では、この免疫抑制状態は神経周囲だけでなく腫瘍微小環境全体に広がり、抗PD-1治療後の非奏効患者では神経変性マーカーと免疫抑制マーカーの発現が相関していた。
 図4では、単一細胞RNA解析で悪性黒色腫を有するマウスの神経細胞に、がん損傷神経の亜集団を同定している。さらに、神経損傷シグナル伝達の転写因子Atf3をノックアウトしたマウスでは、免疫抑制が解除されることも示している。
図5は、抗PD-1治療非奏効患者でI型インターフェロンとIL-6シグナル経路の活性化を確認した上で、この活性化を抑制できれば脱髄誘導下でも抗PD-1治療効果が回復することを、マウス実験で示している。

  がん細胞による神経損傷が免疫療法抵抗性を引き起こすという新しい機序の発見は、神経系が腫瘍免疫を制御する重要な役割を担うことを示している。IL-6受容体阻害剤など既存薬との併用で治療効果改善が期待でき、臨床試験への可能性を感じさせてくれる基礎研究である。

Science 腫瘍学
MTAP deficiency confers resistance to cytosolicnucleic acid sensing and STING agonists(MTAP欠損は細胞質核酸センシングおよびSTING作動薬に対する抵抗性を付与する) DOI: 10.1126/science.adl4089

台湾の中国医薬大学からの報告である。
ヒト染色体9p21.3に位置するメチオニン再生酵素MTAP(methylthioadenosine phosphorylase)遺伝子で、がん抑制遺伝子CDKN2AやCDKN2Bと近接していることから、多くのがんで欠失している。また、がん細胞内の異常な核酸は、STINGといったアダプター分子を介して免疫応答を誘導している。STING作動薬はこの経路を人工的に活性化する免疫療法薬として開発されたが、臨床試験で十分な抗腫瘍効果を示すことができなかった。本研究は、MTAP遺伝子が欠損すると核酸感知経路が抑制されてしまい、その結果STING作動薬の抗腫瘍効果が減弱することを明らかにしている(サマリーの図参照)。
図1は、様々ながん種でMTAPの両アレル欠失が高頻度に起こることを示し、複数のがん細胞株でMTAPをノックアウトすると、細胞質核酸センシング経路によるIFNβや下流の干渉誘導遺伝子の誘導が抑制されることを示している。逆にMTAP欠失細胞にMTAPを再導入すると、この抑制効果が解除された。
図2は、MTAP欠失が細胞質核酸センシング経路の主要な転写因子IRF3の発現を低下させることを示している。MTAPとIRF3の発現は、がん細胞株および臨床腫瘍組織で正の相関を示し、MTAP欠失細胞に外来性IRF3を導入すると、核酸センシング経路の抑制が回復した。
図3は、メチル化酵素PRMT5がIRF3の発現を正に制御していることを示しています。MTAP正常細胞でPRMT5を阻害剤またはshRNAで抑制すると、IRF3発現が低下し、核酸センシング経路によるIFNβおよび干渉誘導遺伝子の産生が減少した。
図4は、メチル化酵素PRMT5がIRF3の発現を正に制御している機構として、PRMT5はヒストンH4R3me2sマークを介してE3ユビキチンリガーゼMID1のプロモーターを抑制してことを示している。すなわちPRMT5は、IRF3を分解するMID1が減少させることによって、IRF3の発現を正に制御していた。MTAPの欠失腫瘍では、このPRMT5が抑制されており、IRF3の分解が促進されていた。
そしてMTAPの欠失腫瘍でメチル化酵素PRMT5が抑制されている理由は、ポリアミン生合成系で供給されるMTA(5'-メチルチオアデノシン)がMTAPで分解されずに細胞内で蓄積するためであった。
そこで図5では、ポリアミン合成阻害剤DFMO(DL-α-difluoromethylornithine)でMTAP欠失細胞を処理すると、MTAの細胞内蓄積が減少し、PRMT5活性が回復、MID1発現が抑制され、IRF3レベルが正常化することを示している。
最後に図6では、DFMOがMTAP欠失腫瘍のSTING作動薬抵抗性を克服することを示している。マウス腫瘍モデルで、MTAP欠失腫瘍はSTING作動薬単独では効果がなかったが、DFMOとの併用療法により腫瘍増殖が顕著に抑制され、免疫細胞浸潤が増加し、生存期間が延長した。

臨床的にSTING作動薬の効かない分子機構を丹念に基礎実験で証明し、さらにその解決策を既存薬の併用で示した点が高く評価される。

NEJM  遺伝子治療学
Nexiguran Ziclumeran Gene Editing in Hereditary ATTR with Polyneuropathy(遺伝性トランスサイレチン型アミロイドーシス に対する遺伝子編集)   DOI: 10.1056/NEJMoa2510209

多発神経障害を伴う遺伝性トランスサイレチン型アミロイドーシス患者に対して、CRISPR-Cas9技術を用いた遺伝子編集治療薬nexiguran ziclumeran(nex-z、開発コード名NTLA-2001で以前紹介)の安全性と薬力学的効果を評価する第1相非盲検単群試験で、英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンからの報告である。
トランスサイレチンは肝臓で生成され、甲状腺ホルモンのサイロキシン(T4)やビタミンAの輸送を担っている。常染色体優性遺伝疾患の本疾患 では、トランスサイレチン がp.Val50Met、p.Thr80Ala、p.Ser97Tyrなどの変異で異常に折り畳まれ(ミスフォールド)、末梢神経などにアミロイドとして沈着してしまう。
そこで本試験では、Cas9エンドヌクレアーゼのmRNA配列と単一ガイドRNAを肝臓指向性の脂質ナノ粒子に封入したnex-zを用いて、トランスサイレチンの遺伝子発現を抑制することを試みた。
試験方法は、36名の患者にnex-zを単回静脈内投与し、主要評価項目として安全性と血清トランスサイレチン値の変化を24か月間追跡した(平均追跡期間は27か月)。
血清トランスサイレチン値は投与28日目に平均90%減少し、24か月目まで92%の減少が持続しました。24か月時点で94%の患者がトランスサイレチン値50μg/ml未満、90%が30μg/ml未満を達成した。24か月時点で、多発神経障害病期と多発神経障害スコアは、それぞれ29名と27名で安定、2名と5名で改善、2名と2名で悪化、と良好な結果であった。有害事象は、注入関連反応(58%、軽度~中等度)、頭痛(28%)、下痢(22%)、チロキシン低下(22%、甲状腺機能低下症なし)、トランスアミナーゼ上昇(17%)と、忍容性も良好であった。
既存の抑制療法(パチシラン、イノテルセンなど)ではトランスサイレチン値を約80%低下させるのに生涯の反復投与を必要とするのに対し、 CRISPR-Cas9遺伝子編集技術を用いた本治療は、単回投与によりトランスサイレチン値を急速に強く抑制(平均90%以上)し、さらにその抑制が36か月まで持続した。

神経障害スコアの改善や疾患安定化も示されたことから、現在進行中の第3相試験(MAGNITUDE-2)の結果が待たれる。


競馬場に行ってきました。 3着以内に3番と6番が入る、と予想した当り馬券です。

(TK)


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