国が壊れていく中で生まれた絆|癒しと剣のファンタジー『語る剣、癒す手』【短編集:小さな日々のかけらたち】
争いに満ちた小さな国。
そこには、戦場を駆ける冷徹な騎士と、誰にでも優しさを注ぐ治癒者がいました。
物語『語る剣、癒す手』は、滅びゆく国の中で出会った二人の対照的な存在――
「戦う者」と「癒す者」が、それぞれの役割と葛藤を抱えながらも、少しずつ心を通わせていく、切なくも希望の残るファンタジーです。
国が壊れていく中、二人は何を想い、どんな未来を選ぶのか。
この物語は、戦う強さと癒す優しさ、そのどちらもが必要な世界で、生きる人々の声に静かに寄り添っていきます。
***
この小さな国には、鎧を着た者と、癒しを与える者がいた。
鎧を着た者は騎士と呼ばれ、癒しを与える者は治癒者と呼ばれていた。
しなやかに舞うある有名な騎士がいた。名前はグレア。国の秩序を守るため、厳しさの鎧も身に纏っていた。彼女の剣捌きは国一番、負けなしの冷徹な戦術に、周りからは最恐と恐れられた。
だが、混沌を断ち切る剣として、孤独な使命感を背負っていた。
心身を癒す腕に長けた有名な治癒者もいた。名前はウィンディ。彼女は争いを嫌い、誰のことでも治療していた。時には癒す必要を感じない人さえも癒さなければならなかった。
人々は優しいと口にするが、それ以上の言葉はない。そんな残酷な気持ちまで、一人で抱え込んでいた。
グレアとウィンディは、お互いを認識していた。
グレアは誰のことでも癒すウィンディに対し哀れを感じ、ウィンディは冷徹な争いを繰り返すグレアを不憫に思った。
だが、グレアもウィンディも賢く、お互いがこの国に必要であることがわかっていた。相容れないのもわかっているため、お互いに挨拶程度しか交わさなかった。
国の空気は重く、混沌が日に日に増していた。国王は権力に溺れ、暴力に堕ちた。外交官たちは国王の機嫌を恐れ、水面下でしか職務を進められなかった。
なんとか外交は保たれていたものの、国民たちへの還元は徐々に減り、国民の中に闇が疼き始め、暗雲が立ち込めていた。
ある日グレアは大怪我をした。
世界の秩序を大幅に乱す者が国内で発見されてしまった。グレアは身一つで一目散にかけつけ、切りつけた。長い戦いの末、疲れ切って治癒者の元へ訪れた。
あまりの大怪我だったため、腕が良いウィンディが治療にあたった。
ウィンディはその大怪我を見て、気が動転し、こう告げた。
「あなたは、あの乱す者に一人で立ち向かった。その行為は誇らしく、とても勇気のあることです。でも、剣を振るえば、相手だけではなく自身も傷つきます。これは仕方のないことですよ。次回こういうことがあったら、一人で立ち向かってはなりません。」
ウィンディは、ハッとした。自分の言葉の厳しさに気付き、心の奥で深く反省した。
グレアは治療を受けながら、自分の胸の内を静かに見つめた。
そして怪我の治癒した頃、グレアはまたウィンディの元へ訪れた。
「この前はありがとう。とても良い腕だ。実は私はこの国を出ようと思っている」
ウィンディは突然の告白に驚き、尋ねた。
「理由は?」
「この国はもう終わりに近づいている。国のトップがあれでは、国に仕えたいと思えない。外交官たちも見るに耐えない。私の腕を買ってくれる王は、他の国にいるのかもしれない。この国に生まれ育ち、愛着もある。与えてくれた地位にも感謝している。だが、それでもより良い場所を求めることは当然のことだろう?」
グレアは初めて、人に心の内を吐露していた。
「グレア。私も全く同じ気持ちを抱えています。何度もこの国を捨てようとしました。今だってそう、捨ててやると思っています。酷いよね、この国。愚行が当たり前になってしまった。」
グレアは、ウィンディと同じ気持ちでいたことに驚いていた。ウィンディも同じく驚いていた。
するとグレアは答えた。
「当たり前にしてはいけないよ、ウィンディ。君の気持ちは何も間違っていない。」
気持ちを受け取ったウィンディは、正直に伝えた。
「あなたの言葉が胸に刺さりました。私と同じ。痛い程わかる。だから、あなたがこの国を出ても何も言えない。止めない。でも、やっぱり、私はあなたにいてほしいと思っています。私も国を捨てる日が来るかもしれない。でも、今はあなたにいてほしい。それだけ。」
「…そうか。」
そう言うと、グレアはウィンディを残し、戦場に戻っていった。
その後グレアはウィンディの元に頻繁に通うようになった。仲間の騎士たちを見てもらうためだ。乱す者たちとの戦いは続くが、必要以上に一人で背負わなくなった。ウィンディに国の状況を詳しく伝えることで、自分たちの置かれた立場を整理し、より確かな勝利へと導いていった。
ウィンディはその申し出を快く引き受けた。癒すべき人が増えることは、彼女にとって喜びだった。乱す者たちの治療にも向き合わなければならなかったが、そのたびに治療を成功させ、グレアたちへと引き渡した。治療の中でウィンディが得た、重く、苦しく、悲しい国民の声は、グレアの手を通して国に伝えられた。
この国は今も暗く、冷たく、危険が続く。
だが、じわりじわりと、少しずつ、でも確実に、国民の意識を変えていっている。
グレアは今日も怪我をした自分と騎士たちを見てもらうため、ウィンディの元へ通う。ウィンディはその騎士たちを治療する。
「まったく、ウィンディは優しいからな!この傷では、きっと動転してしまうだろう!私たちにとっては笑い話なんだ、すまないな!」
「グレア、だってこの傷はとても深いし、何度だってびっくりするのは当たり前でしょ?あなたたちみたいに強い人ほど、休養が必要なんだから!」
治療室からは騎士たちと治癒者たちの笑い声が絶えなかった。
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