メタバース・コミュニケーション雑考
「――休みの日は、何してるんだ?」
上司にそう言われて、僕は言葉に詰まってしまった。理由はふたつある。
最近、会社で導入された『1on1ミーティング』でのこと。僕はこれが嫌いだ。こうやって仕事に関係ないことまで、お構いなしに聞かれるから。しかもそんなものが「信頼関係」に必要だと思っているから厄介なわけで。
相手のプライベートに踏み込んでおきながら『心理的安全性』がどうとか抜かす上司に、僕は呆れていたのだ。これが言葉をなくした理由のひとつ。
普段から、お互いに心地よくなれるコミュニケーションが取れていたら。関係性だって自然と良くなるし、こんな制度いらないのに。
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もうひとつの大きな理由は「どう説明すべきか」わからなかったから。
「 VRChat で遊んでいます」 バブル世代の上司は、たぶん知らないはず。「メタバースはじめました」 いや、冷やし中華じゃあるまいし。それに、メタバースなんて言っても、投資か何かだと思われるのがオチだ。
そんなことを考えながら、僕が絞り出した答えは――
「休日は……パソコンとか、ですかね」
この表現力である。もうちょっと上手に伝えられないものだろうか。
「おう……あれか、ゲームか?俺もドラクエとか好きだったぞ」
わからないなりに、会話を広げようとする上司。ちょっと胸が痛む。
「ゲームと言えば、ゲームなんですが。おしゃべりっていうか。ネットで色んな人とつながって、コミュニケーションを楽しむって感じですかね」
そう説明してから、ふと思った。待てよ。僕はメタバースでも、ほとんど独りで過ごしているじゃないかと。
そもそもコミュニケーションは楽しいだろうか。上司との面談は苦痛だ。でも気の合う相手と過ごす時間は心地いい。どちらもコミュニケーションのはずなのに。ドラクエを熱く語る上司をぼんやり眺めながら、そんなことを考えていた。
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「コミュニケーションは最高の娯楽」。世の中にはそんな考え方もある。
娯楽とは、仕事や勉強といった義務の反対側にあって、それをすることで心を慰めてくれるもの。音楽や本、映画やテレビ、もちろんゲームだって。人間を楽しませてくれるものなら、何だって娯楽になり得るだろう。
同時に、それらのコンテンツについて、自分の考えや意見を表明したり、相手に共感や反論をすること。そうして意思や思考、感情を伝達すること。つまりコミュニケーションは、娯楽とセットになることが多い。
例えばアニメを見たとき。「いい作品だったな」で終わるときもあれば、作品について誰かと話をしたり、SNS等で発信するときだってあるだろう。否定的な意見もたくさん見かけるけれど、そこまで含めて楽しんでいる人も少なくない。心が動いて刺激になるものなら、何だって娯楽と言えるのだ。
コンテンツそのものの面白さを認めつつ、付随するコミュニケーションに楽しさの本質を見出すこと。「コミュニケーションは最高の娯楽だ」という言葉には、そんな意味があるのかもしれない。
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ではメタバース・コミュニケーションはどうだろう。アバターを介して、なりたい自分になれること。時間や空間、経験や感情まで共有できること。誰かとつながることで、現実では満たせない欲求を満たせるのも確かだ。
でも、メタバースだって現実だし、違うのはきっと物理的ロケーションと情報量だけ。そうは言っても、僕が現実でかわいくなるのは難しいけれど。
もとい、コミュニケーションを楽しむ人もいれば、コミュニケーションが苦痛になる人もいる。人間の本質が変わらない限り、メタバースだろうと、それは同じことだ。
メタバースだからこそ、現実での年齢や肩書や外見を気にせずに、自由に感情表現できる。でもそれは、裏を返せば制約なしに好き勝手やれてしまうとも言える。そんな側面もあるから、人間関係の悩みも尽きないわけで。
考えてみれば、仕事や勉強そのものが苦しいというよりも、苦手な顧客や上司がいるとか、親や先生から口出しされるのが苦痛だという場合も多い。すべての悩みは「対人関係」の悩み。コミュニケーションが原因とも言う。そして皮肉なことに、楽しさや喜びは、他者とのつながりで得られるもの。だからこそ、コミュニケーションは難しいのだろう。
メタバースだからと言って、別の人間になる訳じゃない。ロールプレイはできるかもしれないが、その人の本質的な部分はごまかしようがないから。むしろ、自分の本質に目を向けることの方が、大事ではないかとさえ思う。
それでも、自分が心地よいと思える「コミュニケーション手段のひとつ」として、メタバースを活用できたなら。今はそれで充分なのかもしれない。それだけのポテンシャルが、ここにはあると感じているから。
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もし上司が、かわいいアバターでこう言ったら
「――休みの日は、何してるにゃ?」
……全部、話しちゃうかも。
撮影ワールド:Japan Talk Room 日本人向け談話室 [ JTR JP ]
やがて捨てられる補助輪 さん
