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映画感想 ツイスターズ

 竜巻とルーツを追いかけて!

 今回は楽しい映画。2024年『ツイスターズ』。
 監督はリー・アイザック・チョン。韓国系アメリカ人で、映画監督デビューは2007年の『ムニョランガボ』。ルワンダを舞台にした映画で、国際救援基地で交流した学生たちと協力して制作されたものだった。その後もインディーズ映画を制作し続け、2020年の『ミナリ』が第93回アカデミー賞6部門ノミネート、助演女優賞で受賞。他にも様々なアワードをもたらし、リー・アイザック・チョンの名前を一気に世界的なものにした。
 これまでのフィルモグラフィからもわかるように、一貫してインディーズ、社会派ドラマを専門に手がけていたが、「どうしても撮りたい作品があるんだ」と引き受けたのが本作『ツイスターズ』。実は監督自身、竜巻多発地帯で育った経験があり、『ツイスター』は自分のルーツにまつわる作品だった。
 一方、映画の企画自体はかなり二転三転していた。2020年頃から企画提示があり、初期の頃は1996年の『ツイスター』の続編として計画されていた。前作の主演女優も続編に出演する意欲を持っていたし、監督も決まりかけていた。しかし映画会社側が求めたのはリブート。会社とクリエイター側の折り合いがつかず、何人もの監督と脚本家の名前が浮かんでは消えた。
 2022年12月、ようやくリー・アイザック・チョンが本決まりとなったが、これはスティーブン・スピルバーグとキャサリン&フランク・マーシャルによる推薦だったという。フィルモグラフィを確認すると、その後に『マンダロリアン』の数エピソードの監督を務めているので、もしかすると本作に向けた練習のようなものだったのかも知れない。
 撮影は2023年5月オクラホマ州で開始。撮影の70%は車内だったという。そういえばほとんどのシーンは車の中……。気象災害映画であるが、実は「車映画」でもある。
 劇場公開は2024年7月。制作費は1億5500万ドルに対し、累計興行収入3億7230万ドル。成功である。
 評価は映画批評集積サイトRotten Tomatoesを見ると、392件の批評家によるレビューがあり、肯定評価75%。一般レビューは90%。Metacriticでは100点満点中65点。批評家よりも一般から絶大な支持を受けている作品である。

 それでは前半の展開を見ていこう。


 オクラホマ州の草原。そこで大学生のグループが竜巻を待ち受けていた。ケイトを中心に、同じ大学の仲間たちで集まった5人だ。ケイトの目的は“竜巻を手なずける”こと。竜巻のなかに高分子吸収体――おむつに使われている吸収剤だ――を放り込むことによって、勢いを弱まらせる。もしこれが成功したら大学から莫大な研究費を手に入れることができる……。
 さっそく強い風が来た。雲が渦を巻き、風を吸い込み始めている。雨も降ってきた。
 チームは二手に分かれる。ハビがすこし距離を置いたところでレーダーを見ながらオペレーターを務める。ケイトを中心とするメンバーが竜巻に接近した。
 風速は51メートル。滞留有効エネルギーは4000。力は弱いが、実験は開始だ。薬剤を積んだトレーラーを外し、離れていく。
 やったぞ! 竜巻が薬剤を吸い込んだ。これで勢いが弱くなれば……。
 しかし勢いは強くなっていく。薬剤ととも吸い込んだレーダーは一気に7万フィートまで噴き上がっていく。竜巻の中心速度は風速89メートル。これは――EF5だ。
 ケイトたちは竜巻から逃げようとする。しかし全力疾走でも逃げ切ることはできない。ケイトたちは車で逃げるのを諦めて、橋の下へ逃げ込む。しかし仲間たち4人が強風に吸い込まれていった。生き残ったのはケイトただ一人……。

 5年後。ケイトはニューヨークへ移り、国立気象局に勤めていた。平穏な日々を過ごしていたが、ある日、ハビが尋ねてくる。
 ハビは語る。近いうちにオクラホマ州に戻り、新しい研究を始める。位相配列レーダーPAR、その小型版が開発され、それで竜巻の3Dスキャンすることが目的だという。
「ケイト。これで人の命を救えるようになる。君以上に竜巻に近づける人はいない」
 ケイトはその誘いを一度は断るが……翌日、改めて説得されて故郷オクラホマへ行くことに。

 ハビとともにオクラホマ州に戻り、待ち合わせ場所で彼のチームと合流する。いずれも精鋭揃いたちだ。
 同じ待ち合わせ場所に、騒々しい人たちも集まってくる。ストームチェイサーのYouTuberだ。バズる映像を求めて、このエリアにやってきたのだ。
 そのストームチェイサーの一人、タイラーがケイトの側へやってきた。
「どの嵐を追う? 予報によれば、西は嵐が二つ。東は……危険。だが見返りもでかい」
「西の二つはインフロウを奪い合って互いを打ち消す。東のは空を独り占めにできる」
 ケイトはタイラーにそういい、仲間の元へ戻ると、「行き先は西よ」と伝える。タイラーに伝えた情報は嘘だ。
 ケイトたちが西へ向かっていく様子を見て、タイラーはにやりと笑う。俺たちも西だ。


 ここまでで28分。もう面白い。こりゃ最後まで見るよね。

 プロローグを見てみましょう。

 主人公のケイト・カーター。可愛いね。ハリウッド映画で可愛い子が主演になるのは珍しいです。
 演じたのはデイジー・エドガー=ジョーンズ。現在27歳。イギリスの女優で、2016年イギリスのテレビドラマ『Cold Feet』に出演し女優としてデビュー。2022年頃、アメリカに渡り、コメディ・スリラー映画『フレッシュ』に出演。同年『ザリガニの鳴くところ』の主演を演じた。映画出演はこれで4本目。まだ経験の浅い、若い女優さんだ。
 ケイトは同じ大学でチームを作り、竜巻に薬剤を吸わせて勢力を弱めさせる実験を計画していた。これが“竜巻手なずけ計画”。

 その後方オペレーターを務めるのがハビ。演じるのはアンソニー・ラモス。プエルトリコ系アメリカ人で、今年33歳。大学生の役を演じているが、けっこうお年だ。2023年には『トランスフォーマー/ビースト覚醒』で主演を演じ、ペルーで世界を救っていた。今作ではオクラホマの平和を守るために戦う。

 メガネちゃんも可愛かった。アディ役を演じたのはキーナン・シプカ。現在25歳。すでにたくさんの数の映画、ドラマに出演しまくっているでーベテラン。ジブリ映画『思い出のマーニー』では主演マーニーの声を演じていた。

 竜巻に薬剤を吸わせて、勢力を弱めさせる……という実験で、ケイトたちが遭遇したのはEF0の小さな竜巻。計画通り薬剤を吸わせることに成功したが、竜巻はどんどん巨大化していく。これは風速90メートルを超えるEF5だ! ケイトたちは車を乗り捨てて、橋の下へ逃げ込むが、ケイトを残して仲間たち全員が竜巻に吸い上げられていく。

 たった一人、生き残ってしまったケイト……。この事件を切っ掛けに、ケイトは古里を離れてニューヨークへ移り住むのだった……。

 これがプロローグ。ケイトは竜巻に敗北し、「呪い」を受けてしまう。その後、ケイトはニューヨークへ移り住み、呪いに背を向けるような暮らしをし続けていた。そして5年後、ある転機が訪れる。

 というお話だけど、映画の話をする前に「竜巻がどうしてできるか」という仕組みを押さえておきましょう。私も気象に関してはさっぱりだけど、WikipediaとAIという心強い味方がいます。

画像出典:日立シビックセンター科学館・天球劇場

 竜巻が発生するには、次の3要素が必要になる。
1.湿った暖かい風(地表)
2.冷たく乾いた空気(上空)
3.強い風のシアー(風向き・風速の急変)

 地上は暖かいのに、上空が極端に冷たい。そこに急速な風の変化が起きると、巨大な雲が形成される。この時の雲が「積乱雲」。積乱雲の中でも特別大きく、回転するものを「スーパーセル」と呼ばれている。これが竜巻の「母体」となる。

 雲から「角」が出てきています。
 高さによって風向きや速度が違うために、雲の中に「横向きに回転する空気の帯(渦)」が形成されていく。さらに上昇気流によってこれが縦向きに持ち上げられ、「回転する柱(メソサイクロン)」が形成される。

 上空の渦が次第に強まり、地表に向かって細く集中した回転流が伸びていく。地表の回転と雲の回転が柱として繋がった時、ようやく「竜巻」となって現れる。
 まとめると、
1.暖かい空気(地表)と冷たい空気(上空)がぶつかる。
2.巨大な積乱雲(スーパーセル)が発生。
3.雲の中に回転する空気の渦(メソサイクロン)ができる。
4.地表の渦と合体すれば竜巻となる。

 プロローグでなにが起きていたか確認しましょう。

 薬剤とともに観測用のレーダーを吸い込ませたのだけど、このレーダーがあっというまに7万フィート(約21キロメートル)まで舞い上がっていく。これは「対流圏界面」ぎりぎりの高さ。
 対流圏界面というのは、その上ではもはや気象現象が起きないという高さ。大気層ぎりぎりスケールの巨大な竜巻が発生した。ここまで超巨大な竜巻は「EF5」しかない。
 EF5がいかに危険なのか。竜巻の強度から見てみよう。

「ドロシーじゃそれはわからない。ラグランジュ力学だ。動いているセンサーは風速を正確に計算できないが……」

 「ラグランジュ力学」という耳慣れない言葉が出てくる。ラグランジュ力学とはニュートン力学をより抽象化した物理学の枠組みで、複雑な系や非直交座標を求めるのに有効だ。
 いま竜巻が発生し、高速で回転しながら上昇・移動という非慣性的な動きをしている。ニュートン力学では計算が複雑すぎる。ラグランジュ力学で求めなければならないが、その計算ができない。でもセンサーが7万フィート(21キロ)まで噴き上がったので、こりゃEF5だ……となった。

 アメリカでは、よく知られていることに竜巻が頻繁に発生する地域がある。これを「トルネード・アレー(竜巻通り)」と呼ばれる。監督リー・アイザック・チョンが育ったのはこの地域。
 なぜこの地域に竜巻が発生しやすいのか? 発生する理由は次の通り。
1.メキシコ湾からの湿った暖かい空気。
2.カナダからの冷たく乾いた空気。
3.ロッキー山脈が壁のように存在。
 ロッキー山脈が壁となって風の流れが遮られて、南からの暖かい空気、北からの冷たい空気がぶつかり合う。「竜巻ができる仕組み」をすでに解説したが、これが大陸スケールで起きる。そこで北米中部エリアでやたらと竜巻が発生しやすい現象が起きてしまう。
 最近は温暖化の影響で、竜巻の発生分布が中西部から南東部へ移り、しかも凶暴化。EF4~5スケールの竜巻も起きやすい状況になっている。

 「フジワラ効果」についても触れておこう。フジワラ効果は藤原咲平博士が1921年に提唱した気象現象。藤原咲平博士は1884年生まれ、1950年に死去した高名な気象学者だった。

 フジワラ効果とは、こんなふうに2つの竜巻が同時に発生する。竜巻だけではなく、ふたつ以上の台風や低気圧が同時に出現し、お互いに影響を与えながら回転運動を起こす現象のことをフジワラ効果という。これで気象現象が一定以下に近づくと互いに反時計回りに動き、時には一方が吸収されたり、離れたりもする。今回では離れていったようだ。

 しかし、竜巻が発生しやすい地域とわかってながら、どうして人はこの地域に住むのか?
 理由はこの地域が非常に肥沃で、農業に適しているから。見ての通り、地平線まで山がない平らな土地が広がっているので、大規模農業をはじめやすい。この辺りで主に小麦が栽培され、アメリカ中で消費されているので、「アメリカのパン駕籠(breadbasket)」とも呼ばれている。

 この場面はガソリンスタンドとレストランが併設された施設だが、その背景に巨大なコンクリートの建造物が見える。これは「グレイン・エレベーター」と呼び、小麦を貯蔵・運搬するための設備。こんな巨大な施設が必要なくらい、ここでは小麦が生産できる……ということだ。近くに見える施設は農業関連施設と運搬会社の事務所と考えられる。
 農業的な利益が非常に高いから、竜巻が発生するリスクがありながらも、人はそこに住み続ける。

 それに、確かに竜巻多発地帯ではあるが、しかしそれが街で発生することは稀。毎年起きることではない。映画では竜巻が発生し、それで毎回街を壊滅させているが、実際には滅多にない事案。映画の誇張だ。なにしろ超広大な平原地帯なので、その中で竜巻が発生しても、ほとんどの人は被害を受けることはないのだ。
 日本は世界に知られる「地震多発地帯」だけど、なんでそんな場所に住んでるの……というような話でもある。実際に被害に遭うことは滅多にない、それに日頃から対策していれば、被害は最小で済む、が答えだ。

 それ以上に、本作には大きな“嘘”がある。高分子吸収体を竜巻に吸い込ませて、勢力を弱めさせる……というのが本題であるが、これは無理。そんなことが可能なら、公的な機関がとっくにやってるでしょ、という話。これは「映画の嘘」。『ゴジラ』のオキシジェンデストロイヤーのようなものだ。監督リー・アイザック・チョンもこの地域で育ったので、これが嘘だとわかった上で描いている。
 竜巻を消滅させられる……という話は「映画的な嘘」と踏まえて鑑賞することにしよう。しかしなぜこんな嘘を描く必要があったのか……それは物語から読み解いていきましょう。

 竜巻の仕組みがわかったところで、映画の話に戻りましょう。

 「竜巻手懐け計画」に失敗し、幼なじみを喪って5年後……。ケイトは故郷を離れて、ニューヨークの国立気象局に勤めていた。そこにやってくるのが、かつて同じ大学で学んだハビだった。
 ハビはあのあと軍に勤めていて……うん、知ってる。トランフォーマーとペルーを守っていたんだね……そこで位相配列レーターPARを担当していた。

 位相配列レーダーPAR。これは略称で、ただしくはフェーズドアレーダー(Phased Array Radar-PAR)。

Wikipediaより

 検索するとWikipediaの情報が出てくる。従来のレーダーはアンテナはその方向を向かなければならなかったが、PARは回転せず即座に現象を観測。大気観測、航空管制、弾道ミサイル追跡などに利用されている。広範囲を精密なスキャンが可能で、気象局やイージス艦に搭載されている。
 このPARの小型版を開発された。これで竜巻の3Dスキャンを作れる。ハビはこの調査を一緒にやらないか……とケイトに誘いかける。ケイトは気象学の天才だし、古里であの脅威を経験した仲間。ハビはケイトに「呪いを解くチャンス」を与える。しかしハビは「冒険の召命」と断る。

 翌日の朝、ハビからメールが届く。メールにはオクラホマの街が竜巻で壊滅している様子。
「ゆうべまた竜巻が街を襲った。オクラホマでこんなに頻発しているのは数十年ぶりだ。俺たちの大事な人たちが危ない。毎年状況は悪くなるけど、対抗する手段がある。1週間でいいから来てくれないか。君が必要なんだ」
 故郷の危機で、これを救えるのはケイトだけ……。ケイトの使命感が喚起され、古里へ戻ることを決意する。

 古里へ戻ってくるケイトだが、そこには「ストームチェイサー」を名乗るYouTuberも来ていた。
 ストームチェイサーは実在する人たちで、最近はYouTubeでバズる映像を撮りたいがために竜巻多発地帯へやってくるアホもいる。竜巻に近づくことは非常に危険なので、この映画を見て面白がってこの地域を訪れてはならない。バズるかも知れないが、命の保証はない。

 そのストームチェイサーの一人、タイラーに話しかけられる。
 若い頃のブラッド・ピットを思わせる風貌だ(『テルマ&ルイーズ』の頃)。演じるグレン・パウエルは最近では『トップガン・マーヴェリック』でジェイク・ハングマン・セレシン大尉を演じていた。
 ケイトは“遊び”で竜巻多発地帯にやってくる連中を快く思わない。ケイトはタイラーに「東よ」と嘘の情報を教え、西へと向かう。タイラーはすぐにケイトの嘘を察して、その後を追いかけていく。

 お話にストームチェイサーを絡ませたのは、最近本当にこういう連中がいるから……だが、ストームチェイサーが出てきたおかげで「競い合い」の関係が出てくる。どちらが先に竜巻へ到達できるか。抜きつ抜かれつの緊張感が出てくる。ライバルがいるおかげで映画が格段に面白くなっている。

 第1回戦はチーム・タイラーの勝利。タイラーたちは車ごと竜巻に飛び込み、その中で花火を打ち上げる。
 これも映画的な嘘。車で竜巻に入ったら強烈な風で掴み上げられ、放り出される。重しを載せて、さらにドリルで固定している……という設定だが、それでもやはり無理。竜巻の中で花火を上げた……という事例は、探してみたが見つからなかった。

 途中で街が竜巻に襲われる場面があるが、現実はこうなる。間違っても映画のマネはしてはいけない。
 竜巻に近づくこと自体、よくない。もしも竜巻が車を追いかける状態になると、道路を全力疾走しても逃げ切ることはできない。追いつかれたら最後、風に捕まれて放り出される。ストームチェイサーはそういう危険を顧みずやっている馬鹿連中なので、マネはしないように!

 1回戦を終えた翌朝、ダイナーでマーシャル・リッグスという男と会う。この人が今回の研究の出資者。

 リッグスの正体……実は、リッグスは竜巻多発地帯に住宅を作って売り、保険で稼ぐ、という仕事をしていた。竜巻の多い地域に住宅を作り、災害保険で稼ぐ……かなり悪どいやり方だ。ハビはそのことを知っているが、リッグスしか出資してくれる人がいなかったので、仕方なくこの人の下にいる。

 2戦目を終えた後、竜巻が近くの街を破壊する。ケイトはすぐに被災地に駆けつける。リッグスは名刺を配り、ビジネスに繋げようとしている。チーム・タイラーたちは被災地にもかかわらず、自分たちのグッズを売っている。
 ケイトはどちらに対しても冷ややかな目を向けるが、実はチーム・タイラーは稼いだお金を被災地に当てていたことを後で知る。そのためのグッズ販売だった。

 リッグスが出資するチームPARに不信感を持ち、その一方チームタイラーに親近感を持ち始めるケイト。ロデオを見ながら話し込んでいるうちに、打ち解けていく。
 この物語のテーマは自分の“ルーツ”を探すこと。学生時代のトラウマから、故郷を離れていたケイト。学生時代の自分を否定し、ごく平凡な大人になろうとしていた。そこで、いまだに青春時代を続けているようなストームチェイサーたちと遭遇する。ストームチェイサーは遊びで集まっているだけの連中だが、その学生的なノリは大学生の頃の自分を思い出させる。もしもニューヨークへ行き、就職していなかったら、今も竜巻を追いかけていたのではないか……。

 そのまま実家に戻り、学生時代に自分が取り組んでいたものに触れる。学生時代、自分が夢見ていたものはなんだったのか……? ここでようやくケイトの止まっていた時間が動き始める。学生時代の研究を完成させるためにはPARで収拾されたデータが必要だ。学生時代にやっていたこと、それ以後に始めていたことがここで繋がっていく。

 ケイトは竜巻に立ち向かったことにより、当時の友人4人を一度に喪っていた。それがケイトが背負った呪い。学生時代の夢に立ち戻り、竜巻に勝利する……それが呪いを解くための儀式。本来、竜巻に薬剤を打ち込んだところで消滅させるなんてできないが、映画の中ではできるように描いたのは、ケイトが呪いを背負い、解消するまでの物語を描くためだった。

 あとはクライマックスを残すだけ。ここでまとめにしましょう。  面白かったね。エンタメ映画の秀作。
 まず画の良さ。

 なにしろ舞台は見渡すかぎり大平原なので、どこを向けても抜けのいい画面になる。画面構成はどの場面のきっちり三分割法。この場面は空が3分の1で、地上が3分の2。

 次のカットが水平線が画面のど真ん中。空! 平原! 牛! ……だけのカット。ここまで地面が真っ平だと気持ちいい。
 こんなところで大規模農業ができるから、アメリカの農業に勝てないわけだ。

 空を見せる時は、空が3分の2、地上が3分の1。とにかく地面が真っ平らなので、構図の作りをここまでシンプルにできてしまう。こういう地域ならではの切り取り方だ。

 チームPARの車。「ライオン」と書かれている。他の車にはカカシ男、ブリキと書かれている。もちろん『オズの魔法使い』が元ネタ。オズの魔法使いはカンザス州を舞台にした作品。竜巻に飲み込まれることで異世界へ行く……というプロローグだ。

 お話はストームチェイサーが絡んできて、地上ではカーチェイス、空に目を向ければ刻々と変化していく空模様。どこを見ても画面が気持ちいい。物語を横に置いといたとしても、画面を見ているだけで気持ちいい。すがすがしい夏映画になっている。
 次に「怪獣映画」としての見せ方。

 怪獣映画じゃなくて、気象災害映画ですよ……と言われそうだが、こんなふうに発生するたびに街が破壊されていく……この状況は怪獣映画。怪獣を竜巻に置き換えてみたら……そういう見立てで脚本が作られたかどうかわからないが、見ている途中から「これ怪獣映画じゃないか」と私は思っていた。
(そもそも怪獣映画の祖『ゴジラ』は災害のシンボルですし)
 怪獣映画にしてしまったことの良さは、「竜巻の脅威」がよりわかりやすくなったこと。なぜ竜巻を追いかけるのか……研究者やストームチェイサーのカーチェイスを描くだけではわかりづらいし、うっかりすると単に“楽しい映画”になってしまう。竜巻が“怪獣的”な脅威であるとわかると、研究の意義が伝わりやすくなる。さらに「なぜケイトは竜巻を手懐けたいのか」というメッセージも伝わりやすい。
 竜巻を打倒するのではなく、「手懐けたい」……というところで、この地域で育った人間の感覚が出ている。竜巻は危険な気象現象だが、一方で古里の原風景の一つ。ひそかな「愛着」が裏にあるのだ。

 もう一つ、私が密かに思っていたのは……「これ、『進撃の巨人』だな」という部分。学生時代に遭遇した超巨大台風。ひさしぶりに故郷に戻って、再び超巨大台風と向き合い、戦う……。この流れって『進撃の巨人』の大型巨人に立ち向かっていく展開そのものだ……。
 さすがに作り手のほうにその意識はなかったと思うが。
 インタビューを確認すると、監督が意識していたのはスピルバーグ映画の『ジョーズ』や『宇宙戦争』。黒澤明の『七人の侍』や『乱』。他にも『60セカンズ』『フレンチ・コネクション』……そういった往年のエンタメ映画を参考にし、様々な要素を抽出した結果、こんな映画になったらしい。怪獣映画的に見えたのは『ジョーズ』や『宇宙戦争』を参考にしたからかも知れない。

 いろんな要素が描かれるけれど、映画としてはごくシンプルで、とある女の子が自分のルーツを探す物語。ニューヨークに渡り、大人になったつもりだったけれど、自分が本当にやりたかったことはなんなのか。そのやりたかったことが地域と結びついていく。「地域と私」というテーマに物語は向かっていく。
 ここで監督リー・アイザック・チョンの経歴と重なってくる。竜巻多発地域で育ってきたという自分のルーツを取り戻すための映画。実はものすごく個人的な映画なのだけど、そこからは一定の距離を置き、エンタメ映画に振り切っている。

 あとは登場人物の心象変化をいかに描くか。物語中盤、それまでライバル関係だったタイラーと心情的に近づき、反対にチームPARの問題点が見えてきて、視点が反転する。物語的なコペルニクス的転回が起きるのだけど、停滞感がなく、流れ方も自然。尺で見ると、このパートがやや長めなのだけど、ぜんぜん退屈に感じない。

 描写の丁寧さでよかったと感じるのはこういう場面。ケイトと一緒にプールに避難してきた親子。その後がこんなふうにちらっと描かれる。観客の中には「あの親子はどうなったんだ? 助かったのか」と気にする人たちもいるはず。こういうところもちゃんとフォローしている。

 プールのシーンでよかったな……と感じたのはここ。嵐が吹き荒れる中、カメラが長回しになり、ケイトに近づいていく。そのすぐ後ろにタイラーがいるはずだが、その姿が見えなくなる。観客は「あ、これはもしや……」となる。最初のシーンと韻を踏むような構図にさせて、観客に「予想」をさせている。声を聞いていると、死んだはずのジェブの声が遠くから聞こえてくる。
 観客の緊張感がじわじわと高まっていく……。
 間もなく嵐が去り、カメラがゆっくり引いていく。タイラーがちゃんとそこにいた、ということでホッとさせる。うまい見せ方をするな……。

 映画の最後の方で、1931年の『フランケンシュタイン』が出てきたね。この時代に映画館で『フランケンシュタイン』なんかやっているだろうか……という気もするけど。
 『フランケンシュタイン』のある場面で嵐がやってきて、その稲妻をエネルギーとして怪物に命が宿る……という場面がある。まさにその場面で本物の嵐がやってきて……という流れになっている。「怪物に命が宿る」のは映画館の外にいる竜巻だ、という見せ方だ。本作の中でも会心のショットだ。

 竜巻とはオクラホマに棲む怪獣のようなものだ。ケイトはその怪獣から逃げるようにニューヨークへ去った。もう子供時代の夢は終わったんだ……と言うように。
 でも再び戻ってきた。ケイトが竜巻に立ち向かうということは、「古里」と向き合うこと。オクラホマという地と自分はなんなのか……映画の物語はそこを掘り下げていく。
 子供時代の「私」こそ、本来の「私」がそこにある――という発見に行き着く。そこで監督リー・アイザック・チョンの心象が綺麗に重なる。
 そして学生時代の想いを果たすこと。それがケイトがこの地に帰ってくるための「儀式」だった。

 そういうお話だけど、最初から最後までぜんぶ清々しい。終わり方も清々しい。映画自体がさっと吹き抜けていく風のようなもの。
 全体的に見てもよかったし、細かいところをひろっても「ここよかったな」といえる場面だらけ。いい映画を見たな、と見終えた後にもいえる映画。1996年のヤン・デ・ボン版『ツイスター』もよかったけど、あの映画を正しくアップデートされている。竜巻映画にハズレなしである(2本しか存在しないけど)。


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