掌編#025 『午後十一時』
午後十一時を三分過ぎていた。
コンビニの白い光の中で、少年は温められた弁当を待っていた。
店員は、レジ横の時計を見た。
「もう、帰る時間だね」
少年は、はい、と言った。
レジ袋の底だけが、温かい。
外は静かだった。
信号機が、点滅している。
少年は袋を提げたまま、アスファルトの上を歩く。
団地の三階。
共有廊下の端で、少年は立ち止まる。
目の前に、鉄の扉がある。
ポケットの奥で、鍵を握る。
ドアの向こうから、笑い声が聞こえた。
テレビの音。
誰かの声。
少年は、鍵を握ったまま動かない。
袋の中の温かさが、少しずつ冷えていく。
手首の時計を見る。
まだ、十一時十五分だった。
