[企画参加作品]真紅 #風まかせ文芸部
河川敷の緋い絨毯に埋もれ、老人は晩餐の材料を集めていた
長く細い葉は妻の大好きな餃子に
玉ねぎに似た球根は味噌汁の具として使おう と
子供もなく、2人きりで歩いてきた人生は
とても幸せなものだった
もちろん、お互い口をきかずに過ごした日も
涙で枕を濡らした日もあった
それでも思い返せば幸せな記憶しかない
お互いがお互いを想い、過ごしたこの年月
それが、数年前から音を立てて崩れ出す
妻の認知症
彼女のことは自分が守ると息巻いて始めた介護だったが
9つも上の彼には、やはり限度があった
自分の持病も相まって医療費がかさんだ結果
貯金もすでに底をついている
昔どこかで聞いた
彼岸花は認知症の薬になるらしい
というあやふやな情報に食いついたのも
そのせいだ
今集めているこれが
一般的には毒であることを
彼は重々承知していた
料理に混ぜたとて効きはしない
それも承知の上だった
しかし、それでも良かった
次に見るのが違う河原であっても
彼女の好きなもので
彼女と共に逝けるのならば本望だ
今、眼前にある緋は光
手にした葉と根は希望
そう、たとえそれがどこへ続こうとも……
願わくば
自分が彼女を追いかけたい
若かりしあの日のようにーー
老人はそんなことを考えながら
昔2人で歌った懐かしい曲を口ずさみつつ
愛する人の待つ家へと帰っていった
※ ※ ※ ※ ※ ※
ご丁寧にこのページを開いて、その部屋の主人は亡くなっていた。
最愛の妻をそっと抱きしめるようにして。
残された物語の作者が彼である証拠はない。
それでも、現場検証でそれを見つけた我々は、安らけくあれと祈るばかりだった。
こちらの企画に参加させていただきました。
主催者様、いつもありがとうございます。
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