女子高生小説 タイトル:富士山の見える丘で (5)
富士山の見える丘で 第5章 軽音学部で

「貴子ちょっとこっちへ来て」
静香と貴子は窓際に寄り、器用にカーテンを開いて、その後ろで着替えを始めた。
「貴子もこれ着たら良いよ、きっと似合うから、これお母さんサイズだから、ピッタリかもね」
大人サイズの服は貴子の身体にフィットした。
「インナーもあるじゃん、良かった」
他の子は、最初はシーンとしていたが、部長が「楽しみだね」と、ひとこと言ったのをきっかけに部室内は大騒ぎになった。
そのとき遅れて顧問の教師が部室に入ってきた。
「今日は新人さんが来るんでしょ、噂は聞いているわ。噂の子でしょ」
「あ、先生。いまカーテンの中で着替えているの。どんな姿か楽しみなんだけど」
部室内はピリピリとした空気と、演劇の舞台の幕が開く前のような期待に膨らんだ空気が混在していた。顧問の坂口先生が部室に入ってきたことによって、一気に場の雰囲気は落ち着いた。一人の生徒が
「先生、新入部員の静香さんと見学の貴子さんがそこにいるの」と言ってカーテンに指をさした。一同は軽く笑いを見せる余裕もできたようだった。
静香がカーテンの中で、スマホを操作して、音楽を鳴らした。
”チャラララララン……”ポール・モーリアの「オリーブの首飾り」の曲が華やかと言うか、まるで昭和のマジックショーのような雰囲気がした。
「やだー。何この曲、ふるーい」貴子の声がカーテンの中から聞こえた。
「きゃは、これ違う」
部室中が爆笑に包まれたが、部室の緊張はほどけた。BGMはすぐに
J.S.バッハ「ゴルトベルク変奏曲 アリア」 チェンバロ版に切り替わった。
バッハの曲を知ってる部員はいないと思ったが、古いヨーロッパを連想させる。
曲選びの理由はよくわからないが、アリスさんのファッションショーで流したことのある曲であることは後で分かった。
カーテンが開かれた。
観客から溜息が漏れた。いや観客じゃないだろ。
先輩や新入部員もいっせいに二人に近づいた。
二人を取り囲み、手で触ったり襟元を裏返して「裏地はどんな風になってるのだろう」とのぞきこんだりした。スカートを遠慮無く持ち上げ、「ふーん、中はこうなっているんだ」
部長の美優は静香の持って来た袋の中に残っている衣装を取り出し、静香に目で合図した。「私も着るけど良いかしら」と、言葉にしない合図だったが、静香は頷き「了解」と返事を返した。
他の部員達もロリータの衣装を着たがったが部長が制した。みんなが着だしたら収拾が付かなくなってしまう。
文芸部の新入部員は全員で三人。貴子の入部は「考えておく」だった。女子高生の「考えておく」は、早い話「ノー」なのだ。

次の日、放課後に三人が校庭裏の富士山の見える丘に集まっていた。
富士山にはまだ雪が残っている。富士山を見上げて加奈子が口を開く
「富士山っていいねぇ。あたし大好きかも」微笑み返すように笑顔を富士山に向けた。
加奈子は
「静香って手芸部は決まりね。貴子は昨日一緒に手芸部の行ったんでしょ。入部するの?」
「わかんない、自分のやりたいことがまだ見つからないの」
「あたしとか静香はやりたいことが最初からあったからだけど、他の子もみんなやりたいことなんてないんだよ、とりあえず何処かに入っちゃえって思ってるだけだよ」
加奈子は、真剣に悩んでいるだけ貴子を好意的に感じていた。
高校に入学してもうすぐ一ヶ月が過ぎるから、どこかの部活に入らなければならない。もし入らなかったら通知表の部活動の欄が空欄になってしまう。何もやらず帰宅部でもいいのだが、多くの生徒がそうしているように部活動に入って、毎日行かなくてもいいよねって気持ちが続いて、結局退部させられるか、幽霊部員になっているのだ。
加奈子が二人に向かって話し出した。
「あたし、明日にね、軽音学部に取材に行くんだ」
文芸部の顧問を通して、軽音学部には話を通している。
「あんたって、行動力が半端ないね」
「だからさ貴子、明日あたしと一緒に軽音学部に行ってみない?」
加奈子の行動力の凄さは「取材に行く」が決め手になっている。
そう宣言すればいけないところはないのだ。
女子達が憧れている男子のいるサッカー部だって「今度の大会について取材に行きたいんだけど」
「あんあは新聞部に行ったらいいんじゃ無いの」って坂口先生に突っ込まれるほどだ。
「残念でした内の高校には新聞部はありませ~ん」
それでも週一で書いているエッセイのネタになるならと坂口先生も許しているのだ。
「それってエッセイじゃ無くてコラムっていうのよ」
「じゃああたし、コラムニストにもなっちゃおうかしら」と全く悪びれることを知らないのだ。
まだ入学したばかりの頃、いつも一緒にいる加奈子と静香をからかうようにしていた貴子は「いつも一緒じゃん、帰りも手を繋いで帰ってるし、一緒にカラオケとかにも行くのかしら」
そんなことを二人の間柄を揶揄するかのように行ってきた貴子だったが、加奈子の受け止めは違った。
(たぶんカラオケだったら一緒に行きたい)って言う、ものすごく遠回しなお誘いだと気づいていた。もしかしたら歌が好きなのかも知れない。
「カラオケには行かないけど、ほら家が近いから。でも帰り道にカラオケがあれば寄るかもね」
貴子の美しい雰囲気と性格から、歌をうたいたいのではと思った。
「一緒にカラオケに行くなら放課後に文芸部に寄るから。一緒においでよ」
貴子は無表情のまま頷いていた。
加奈子は心の中で(やっぱりね、誘って良かった)
静香も笑顔を加奈子に向けた。
それぞれのキャラクターが立ってきましたね。
そうなると、執筆も筆が乗ってくるというか、どんどん書けてしまいます。
どちらかというと私は格のが凄く早いので、途中で他の文章を書いたりして一気に最後まで書いてしまうことは無いのです。
本を読むときも、四冊を同時進行で読みます。途中で他の本に移っても間が一週間くらいだったら、戻って読んでも、読み始めて直ぐに物語が繋がります。浮気性なんでしょうか?
