【英国法】Right to Disconnect(つながらない権利) ー2025年に実現(?)ー
こんにちは。弁護士の古田俊文です。
久しぶりの投稿になってしまいました。もう「あけましておめでとうございます。」も言える時期ではないですね、、。2025年は、毎月1回は記事を投稿していきたいと思っていますので、よろしくお願いします!
本日のテーマは、英国におけるRight to Disconnect(つながらない権利)について書きたいと思います。
英国では、2024年に久しぶりに労働党が政権を取り、現在、雇用法の改正が審議されています。現在、英国では明確に制度化されていない、つながらない権利についても、改正に際して運用が改められようとしています。
なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。
Right to Disconnect(つながらない権利)とは?
実は、お隣のアイルランドは、2021年4月に、つながらない権利に関する制度を一足先に整備しています。
あとで詳しく述べますが、規制スキームがアイルランドと似た形になることが予想されており、参考になると思いますので、この記事ではアイルランドの制度を適宜参照しようと思います(*1)。
三つの要素
アイルランドでは、つながらない権利は、主に次の三つの要素からなるとされています(*2)。
つながらない権利の三要素:
① 通常の業務時間外に日常的に働かないこと
② 通常の業務時間外の業務を拒否しても、ペナルティを受けないこと
③ 他社のつながらない権利を尊重する責務(例えば、通常の業務時間外に日常的にメールや電話をしない)
①と②はいずれも、当たり前(グローバル水準を満たす労働法制においては既に認められていること)な気がしますが、③に関する補足が、つながらない権利をより分かりやすく説明しています。
つながらない権利とは、従業員が通常の業務時間外に、業務から離れ、メール、電話、その他のメッセージなど、業務に関連する電気通信を控える権利である。
現代の労働者にとって重要な権利
個人的には、通常の業務時間外に、業務に関する電気通信を控える他者のことを尊重するというのが、最重要ポイントではないかと思います。
おそらく、ほぼすべての法管轄において、通常の業務時間外に受領した業務に関する電子通信に応答しないことが、役務提供義務違反になることは無いはずです。
ただ、皆さまも身をもって実感していると思うのですが、業務時間外にメールやメッセージを受信するだけでも翌日/休み明けの業務開始時のプレッシャーになって、残りの休日を楽しんで過ごせないんですよね(笑)
とりわけ、電気通信技術の発達により、24時間365日つながれるようになってしまった私たちは、メールやスラック、法務であれば共有ドキュメントから飛んでくるメンションを含め、膨大な分量のメッセージを受け取ります。それを休日にまで受け取るなんて、たまったものではありません。
このような労働者の現代的な悩みを軽減するものとして、つながらない権利が登場したのではないかと、ぼくは考えています。
スターマー政権の雇用法制改革パッケージ
2024年7月に行われた英国の総選挙において、キア・スターマーが率いる労働党が勝利し、14年ぶりに与党に返り咲きました。こちらが党派別の勢力図(赤が労働党、青が保守党)ですが、圧倒的勝利ですね。

Employment Right Bill (ERB)
労働党は、総選挙の際に、雇用法の広範囲にわたる改革を行うことを公約に掲げていました。”Make Work Pay”と題されるものです。
2024年10月、この改革案の一部である、Employment Right Billが国会に提出されています。なお、この「Bill」というのが法律案を意味しており、国会で可決されて所定の手続を経て法律となるころには「Act」となります。
ERB以外のルートでの改革
ERBが改革パッケージの最重要事項であることは間違いないのですが、その他のルートによる改革も予定されています。
例えば、安全衛生に関する通達のアップデート、無給インターンシップの禁止強化などがあり、これらは、法律の変更を要せずに行政権の行使により実現できることから、ERBの法制化に際して又は独自のタイミングで、変更が加えられることが予定されています。
つながらない権利についても、このERB以外のルートでの実現が予定されています。
つながらない権利の実現
Code of Practiceによる推進
ERB以外のルートによる実現と書きましたが、英国におけるつながらない権利は、具体的には、Code of Practiceにより推進されることになります。
このCode of Practiceは、英国における二次法ないしソフトローであり、例えば、こちらは、不法就労に関するCode of Practiceであり、事実上、使用者は、この規範にしたがって行動することが求められます。
先ほど、アイルランドの話を出しましたが、同様に、Code of Practiceにて、つながらない権利の実現を推進しています。その意味でも、上記にかかげたアイルランドのCode of Practiceは、参考になるかもしれません。
政府によれば、つながらない権利については、ERBの可決・国王裁可後に行われる予定とのことです。Code of Practiceの性質上、既存の法規制のうち、つながらない権利に関するものがまとめられて、条文の解釈から求められる要求が列記されるのではないかと思いますが、この点は、実際にCode of Practiceが出されてから確認する必要がありますね。
Right to Switch Off
余談ですが、政府は、つながらない権利を「Right to Switch Off」と表現しており、一般的な用語であるRight to Disconnectを用いていません。英国あるあるな気がします。
もし、皆さまが英国のつながらない権利についてリサーチをする必要が出た場合、”Switch Off”で検索しないと望む結果が出ないかもしれません。
いつ実現されるのか?
上記のとおり、つながらない権利に関するCode of Practiceは、ERBの可決・国王裁可後に出される予定です。
ERBの審議状況はというと、まだまだですね。

ただ、政府としては、2025年中に国王裁可を得るスケジュールで動いているとのことなので、もしかしたら、つながらない権利についても2025年度中に実現されるかもしれません。
補足:いつでも連絡ください
留学中からひっそり続けているこのnoteですが、とてもありがたいことに、少なくないクライアントの方から、「見ています」とのコメントをいただいています。
なので、このエントリーもご覧いただくこともあるかもしれず、もしかしたら、ぼくの「つながらない権利」を気にされて、土日やビジネスアワー外に連絡されるのを躊躇されたりするかもしれないなと、ふと思いました(笑)
まったく大丈夫ですので、ご遠慮なくご連絡ください!
返すのが遅くなった場合はすみません!
まとめ
いかがだったでしょうか。
本日は、英国におけるつながらない権利についての状況をご紹介しました。
ざっくりまとめると以下のとおりです。
・ つながらない権利とは、「従業員が通常の業務時間外に、業務から離れ、メール、電話、その他のメッセージなど、業務に関連する電気通信を控える権利」であり、他者のつながらない権利を尊重することも重要なである。
・ スターマー政権の雇用法改革の一環として、二次法ないしソフトローによって、英国においてもつながらない権利の保護の強化が予定されている。
・ 時期は未定だが、2025年中に実現される可能性もある。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
この記事がどなたかのお役に立てば、嬉しいです。
【注釈】
*1 英国とアイルランドの法制度はかなり似ています。そのこともあり、実は、英国弁護士(ソリシター)の資格を持っていると、アイルランドの弁護士会に申請をすることで、アイルランド弁護士(ソリシター)資格も取れたりします(こちら)。
*2 Workplace Relations Commission (Ireland), "Code of Practice for Employers and Employees on the Right to Disconnect" (March 2021), p4 (URL)
免責事項:
このnoteは、ぼくの個人的な意見を述べるものであり、ぼくの所属先の意見を代表するものではありません。また、法律上その他のアドバイスを目的としたものでもありません。noteの作成・管理には配慮をしていますが、その内容に関する正確性および完全性については、保証いたしかねます。あらかじめご了承ください。
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