同じ説明を100回する前に。「説明した」を「できる」に変えるには
ゴルフレッスンで、担当トレーナーから何度も同じアドバイスをされることがあります。
「力を入れすぎないでください」
「もう少しゆっくり振りましょう」
「ボールを打ちにいかず、最後まで振り切ってください」
その場では、僕もかなり真剣に聞いています。
「なるほど。今度こそ分かりました」という顔をしながら、しっかりうなずいています。
ところが数日後、一人で練習場へ行くと、きれいに忘れています。ボールを前にした瞬間、「飛ばしたい」が勝って力む。ゆっくり振るつもりが、トップから全力で振り下ろして、そしてダフる。
「あれ? トレーナー、何て言うてたっけ?」
だいたい、この繰り返しです。
ゴルフを始めて3年ほどになりますが、平均スコアはまだ110前後。
教えてもらったことを、その場ですぐ再現できるほど器用ではありません。我ながら、なかなかの忘れっぷりです。

一度聞いたことを、必要な瞬間に思い出せるとは限らない
以前は、同じことを何度も注意されるたびに、「自分は覚えが悪いんかな」と思っていました。でも最近は、少し考え方が変わりました。
人は、一度説明を聞いただけで、その内容を理解し、さらに必要な場面で正しく再現できるとは限りません。
トレーナーが横にいる時は「もう少しここをこうして」と、その場で直してもらえますが、一人になると自分が実際にどう動いているのかは見えません。
頭の中では「ゆっくり振っているつもり」なのに、動画を見ると全然ゆっくりじゃない。
「え、こんな振り方してたん?」と、自分のイメージと現実の差に、ちょっと見なかったことにしたくなる時もあります。
それでも、レッスン中に撮ってもらった映像を練習前に見返すと、「そうや、ここで力んでたんや」と思い出せます。
うまくいかなかった時にも確認できるので、言葉だけを記憶している時より、自分で修正しやすくなりました。
僕にとって大きかったのは、教えてもらったことを全部覚えられるようになったことではありません。忘れても、もう一度戻れる場所ができたことでした。
「説明した」と「できる」は、別の状態
これ、仕事でも同じやなと思いました。
会社の中でも、
「新人に毎回同じ業務説明をしている」
「説明したはずなのに同じミスが起きる」
「商談のたびに同じ会社紹介から始めている」
「お客様からいつも同じ質問を受ける」といったことはないでしょうか。
教える側からすると、「前にも説明したんやけどな」と感じます。
でも、説明を聞いている時に「分かりました」と言えることと、一人になった時に正しくできることは別です。

たとえば、新人が先輩の横で機械操作を教えてもらっている時には、問題なくできたとします。
ところが翌日、一人で操作しようとすると、「最初どのボタンやったっけ?」と手が止まる。
忙しそうな先輩にもう一度聞くのも申し訳なくて、曖昧なまま進めてしまうこともあります。
その結果ミスが起きれば、先輩は「昨日説明したのに」と思い、新人は「また聞いたら怒られるかな」と不安になる。
ここで「新人の覚えが悪い」「先輩の教え方が悪い」と、どちらかだけの問題にしてしまうと、本当の原因を見落とすかもしれません。
見るべきなのは、必要な瞬間に、必要な情報へ戻れる状態になっているかです。
説明した回数ではなく、相手が一人になった時にも行動できる状態になっているか。企業の教育を考える時には、この視点がかなり重要だと思っています。
同じ説明が繰り返されているなら、仕組みにできるサインかもしれない
もちろん、口頭で説明すること自体が悪いわけではありません。相手の反応を見ながら説明できますし、分からないところがあれば、その場で質問にも答えられます。
ただ、毎回ゼロからほぼ同じ説明をしているなら、少し話は変わります。仮に、ある基本説明に毎回30分かかっているとすると、100回行えば3,000分、つまり50時間です。

もちろん、その50時間すべてが無駄なわけではありません。ただ、その30分のうち20分が「誰に対しても毎回ほぼ同じ内容」なら、人が毎回そこを担当し続ける必要があるのかは考えてみてもいい。
基本的な説明は、必要な時に見返せる形にしておく。そのうえで、人は質問への回答や、その人の理解度に合わせたフォローに時間を使う。そうすると、単なる「時間短縮」以上の変化が生まれます。
新人側は、「また聞かないといけない」という小さなストレスが減ります。先輩も、「また最初から説明か」という疲れが減り、本当に困っている部分だけを一緒に考えられるようになります。
営業でも同じです。商談の30分のうち20分を毎回会社紹介に使っているなら、その基本情報を事前に理解してもらうことで、当日は「御社では何に困っていますか?」という会話から始められるかもしれません。
つまり、大事なのは人を減らすことではありません。人にしかできない会話へ、時間を戻すことです。
ただし、「全部動画にすれば解決」ではない
ここで注意したいことがあります。普段1時間かけて説明している内容を、そのまま1時間撮影して置いておけばいい、という話ではありません。
それでは、説明する側の負担が、そのまま「見る側の負担」に移っただけになることがあります。
僕のゴルフでも、レッスンを最初から最後まで1時間見返すより、
「ドライバーで力むとき」
「アプローチでダフるとき」
「ラウンド前に確認したいポイント」のように分かれている方が使いやすいです。必要な瞬間に、必要なところへ戻れるからです。
企業の説明も同じで、最初に整理したいのは次の3つです。
・誰が、どんな場面で困っているのか
・その人に、何を理解してほしいのか
・理解したあと、何ができれば成功なのか
たとえば、機械操作なら、文章だけで手順を説明するより、実際の手元や動きを見せた方が理解しやすい場合があります。これは動画そのものが優れているというより、動きや順番は文字だけでは伝えにくいからです。
逆に、数行の文章を読めば十分理解できることまで映像にする必要はありません。必要なのは「動画にできるものを探すこと」ではなく、「相手がどこで理解できなくなっているのか」を見つけることです。
「説明時間を減らす」より、「迷う時間を減らす」
僕自身、レッスン動画を見返せるようになったからといって、翌日から70台で回れるようになったわけではありません。そんな魔法の動画があるなら、僕が真っ先に欲しいです。
でも、一人で練習していて分からなくなった時に、「何やったっけ?」のまま終わることは減りました。忘れても戻って確認し、もう一度試せるからです。
会社でも、この変化は意外と大きいと思います。新人が一人で抱え込まずに済み、先輩は基本説明より個別のフォローに時間を使える。営業担当者なら、会社説明ではなく相手との会話に集中できるようになります。
だから、目指すのは単なる「説明の効率化」ではありません。相手が迷った時に戻れる場所をつくり、人が本来向き合うべき仕事に時間を使える状態をつくることです。
そこまで変わって、初めて「伝え方を変えた意味」が出てくるのだと思います。

先に決めるのは、手段ではなく「何が伝わっていないのか」
同じ説明を何度も繰り返していると、つい「じゃあ動画にしよう」と考えたくなります。でも僕は、その前に一度止まった方がいいと思っています。
まず確認したいのは、
「誰が同じ説明を繰り返しているのか」
「相手はどこでつまずいているのか」
「必要なときに情報へ戻れる状態になっているか」
「説明後、どんな状態になれば成功なのか」ということです。
ここが分かれば、実際の動きを見せた方がいいケースもあれば、今ある営業資料を整理するだけで十分なケースもあります。そもそも情報量が多すぎて伝わっていないなら、何か新しく作る前に、伝える内容を減らす方が先かもしれません。
つまり、どの手段を選ぶかより、まず何が伝わっていないのかを整理する。
「同じ説明を何度もしている」という現象は、そのことに気づくためのサインなのだと思います。
何を作るか決める前の「壁打ち」からでも大丈夫です
もし、
「新人研修で毎回同じ説明をしている」
「商談のたびに会社紹介だけで時間を使っている」
「お客様から同じ質問が何度も来る」
といったことがあれば、一度「なぜ同じ説明が繰り返されているのか」を整理してみてもいいかもしれません。
僕が提供している壁打ちでも、最初から何かを作る前提ではなく、「誰に何が伝わっていないのか」を一緒に整理することから始めています。
話してみた結果、
「今は動画はいらない」
「まず資料を整理した方がいい」
「今は何もしなくていい」
という結論でもまったく問題ありません。何かを作ることが目的ではないからです。
ゴルフでは同じアドバイスを何度も忘れる僕ですが、企業の中で繰り返されている説明を整理することなら、一緒に考えられます。
もし自社にも思い当たる場面があれば、何を作るか決める前の「頭の整理の時間」として、気軽に相談してみてください。
▼ 気軽に壁打ちしてみる(無料・オンライン)
「まずは記事の感想や相談を書いてみたい」という方は、コメント欄もお気軽にどうぞ!
