『次郎長三国志 第五部 殴込み甲州路』(1953年11月3日・東宝・マキノ雅弘)
『次郎長三国志 第五部 殴込み甲州路』(1953年11月3日・東宝・マキノ雅弘)。シリーズ中盤にあたる第五作。前半は清水の秋祭りの華やかな祝祭空間が広がるが、後半は投げ節お仲(久慈あさみ)救出のため、次郎長一家が甲州へ殴り込みをかける壮絶な死闘となる。

例えるなら『スター・ウォーズ /帝国の逆襲』である。それまでの陽性な娯楽活劇に初めて深い影が差し込み、シリーズ全体のトーンを大きく変える重要作となっている。
冒頭は広沢虎造こと張子の虎吉の名調子に乗せた清水の秋祭り。今回の「わっしょい、わっしょい」は神輿である。シリーズのレギュラーメンバーたちが祭りの熱気の中で生き生きと躍動する姿を見るだけで楽しい。
その夜、桶屋の鬼吉(田崎潤)と関東綱五郎(森健二)は、岡惚れしている寿々屋のお千(豊島美智子)を踊りに誘おうと悪戦苦闘。そんな若者たちを見守る次郎長(小堀明男)とお蝶(若山セツ子)は、自分たちもまた祭りの夜に結ばれたことを思い出す。この場面が実にいい。
普段は酒を飲まない次郎長に、「飲まなきゃ話せないこともある」と酒を勧めるお蝶。かつて大酒飲みだった次郎長の純情と、その男に惚れ込み渡世人の女房となったお蝶。二人の夫婦愛を静かに描くこのシーンには思わず胸を打たれる。
そこへ、お蝶の兄でもある大熊親分(四代目澤村國太郎)が険しい顔で現れる。
黒駒勝蔵配下の猿谷の勘助(小堀誠)が甲州の賭場を荒らし回り、次郎長一家を挑発しているという。しかし、それは次郎長を甲州へ誘い込み潰そうとする罠でもあった。その危険を察した投げ節お仲は、次郎長を動かさないため、自ら単身で勘助の賭場へ潜入する。
今回の主役は間違いなく久慈あさみである。流れの壺振りとして孤独に生きてきたお仲は、石松や三五郎、そして次郎長一家との出会いによって初めて「帰る場所」を得た。
だからこそ彼女は、お蝶のため、そして次郎長のために危険な賭場へ飛び込んでいく。宝塚歌劇団出身の久慈あさみは所作の一つひとつが美しい。
壺振りの系譜として見れば、後年の野川由美子や江波杏子、藤純子へ連なる源流とも言える存在だろう。しかしキャラクターとして見れば、むしろ『鬼平犯科帳』のおまさを思わせる。孤独な旅人でありながら、人情に厚く、危険な場所へ自ら潜り込む女。そんな魅力がすでに完成されている。
そして勘助を演じる小堀誠は、次郎長役・小堀明男の実父。親子が宿敵同士を演じているというキャスティングも実に楽しい。
賭場へ潜入したお仲は見事な立ち回りを見せるが、その正体を見破るのが緒方燐作演じる小野の鶴吉。勘助一家に身を寄せる旅人でありながら、人としての筋を失っていない。緒方燐作の長い映画人生の中でも屈指の好演ではないだろうか。
やがて正体を見破られたお仲が啖呵を切る。この場面は久慈あさみ映画のベストシーンの一つと言っていい。
勘助はお仲を監禁し、次郎長一家を誘い出そうとする。ここから映画は一気に動き出す。
広沢虎造の名調子に乗せて、子分たちが一人また一人と集結する。街角から、辻から、神社の境内から現れる旅姿の男たち。マキノ雅弘が後年の任侠映画で繰り返し描く「殴り込み」の原型が、ここにある。
そして甲州路。勘助一味の執拗な襲撃。次郎長一家の反撃。
「わっしょい、わっしょい」の掛け声とともに展開するシリーズ最大級のアクション。お仲奪還の場面は、まさに映画的興奮の連続である。
しかし勝利の代償は大きい。石松は失明し、豚松は瀕死の重傷を負う。さらに次郎長一家は凶状持ちとなり、追われる身となってしまう。
これまでの痛快活劇とは明らかに異なる苦い結末。ラストシークエンスに漂う重苦しい空気は、まさしく『帝国の逆襲』そのものだ。
それまで祝祭として描かれてきた「次郎長三国志」の世界に、初めて深い陰影が刻まれる。だからこそ、この先の第六部が気になって仕方がないのである。
祭りの映画だった『次郎長三国志』は、ここで初めて痛みを知る。だからこそ、この第五部はシリーズの真ん中に置かれた最重要作でもある。

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