『次郎長三国志 第七部 初祝い清水港』(1954年1月3日・東宝・マキノ雅弘)
『次郎長三国志 第七部 初祝い清水港』(1954年1月3日・東宝・マキノ雅弘)。

1954年の正月に公開されたシリーズ第7作。シリーズ全作の封切り日は次の通り。
第一部 次郎長売出す:1952年12月4日
第二部 次郎長初旅:1953年1月9日
第三部 次郎長と石松:1953年6月3日
第四部 勢揃い清水港:1953年6月23日
第五部 殴込み甲州路:1953年11月3日
第六部 旅がらす次郎長一家:1953年12月15日
第七部 初祝い清水港:1954年1月3日
第八部 海道一の暴れん坊:1954年6月8日
第九部 荒神山(荒神山血笑記):1954年7月14日
かなりのハイペースで撮られていたことがわかる。第三部と第四部は二本撮りの同月封切り。第五部から第七部まで毎月封切り。回を追う後に人気が高まり、村上元三が「オール読物」連載していた原作が間に合わなくて、構成の小国英雄と脚本の松浦健郎、マキノ雅弘が先回りしてストーリーを作り、原作がそれをフォローするというほどのハイペースだった。
さて、第六部のラストで、兇状旅の途中で、次郎長(小堀明男)の愛妻・お蝶(若山セツ子)が亡くなり、切ない別れが描かれた。1945(昭和29)年のお正月映画の本作では、それまでの暗い物語が一転、『初祝い清水港』のタイトルどおり、明るく楽しい「次郎長三国志」が戻ってきた。
清水港を舞台に、次郎長一家による宿敵・保下田の久六へのリベンジを痛快、爽快に描くクライマックスはシリーズ屈指の楽しさ。まるで『スティング』のような鮮やかなどんでん返し。何度観ても痛快! 同時に、亡きお蝶への想い、次郎長一家の仲間たちの結束、バディ感覚がさらにパワーアップ。
これまでシリーズに登場してきた「仲間たち」が、清水港集結する。次郎長裸道中のきっかけとなった沼津の佐太郎(堺三千夫)と女房・おとく(隅田恵子)夫婦が、清水港で料理屋を開店する。さらに、前作で次郎長一家を匿ってくれた七五郎(山本廉)と頼もしき女房・お園(越路吹雪)も、クライマックスに駆けつけ、二組の夫婦がお蝶の仇討ちに大活躍する。
清水港に帰ってきた次郎長一家は、お蝶の喪が明ける百箇日を過ぎるまでは博打も喧嘩もしない、お蝶の遺言を守って、憎き裏切り者・保下田の久六(千葉信男)への復讐も封印していた。一見、穏やかな年の瀬を過ごしていたが、久六一家に草鞋を脱ぐきっかけを作った責任を感じて追分三五郎(小泉博)は、久六の行方を探して尾張へ。
次郎長の意に反した、その単独行動が許せないのが、三五郎の相棒の森の石松(森繁久彌)。といった、子分たちの「隠忍自重」のなか、一見、おだやかな年末風景が描かれる。お蝶の百箇日が明けるまで、何があっても泣かない、怒らないことを誓う。
お正月、次郎長が神輿を担ぎ、大政(河津清三郎)と鬼吉(田崎潤)が三河万歳を披露、三五郎と石松は曲芸をして、町の人たちからやんやの歓声を受ける。「博打とケンカをしない渡世人」たちが、祝祭空間を盛り上げる。
前半は、前作のラストで次郎長一家の危急を救った
渡世人志願の若者・島の喜代蔵(長門裕之)の「母恋エピソード」が展開される。一本独鈷を決め込んで、近所の丁稚たちを子分にして、生意気にも一家を構えた喜代蔵。
その背伸びが微笑ましく、次郎長一家のマスコット的存在となるが、実は名のある貸元の息子で、それゆえ自分のチカラで一人前になろうと決意。
アプレゲールと呼ばれた昭和20年代の若者みたいで、また、二年後に日活で長門裕之、石原裕次郎が演じて社会現象となる「太陽族」の若者を先取りしているかのよう。
その喜代蔵は、お仲に「母親の面影」を見て甘える。お仲もまた「喜代ちゃん」と母性で優しく包み込む。喜代蔵が次郎長をしくじり、柱に括り付けられる。そこでのお仲と喜代蔵が二人きりになり、互いの心情を語り合うシーンがいい。歌舞伎か新派みたいに情感たっぷりに、芝居がかってるのも、観客を泣かせる。
その喜代蔵と子分たちは、お仲の差配でクライマックス、少年探偵団のように大活躍する。それもまた見物である。
さて、お仲は大野の鶴吉(緒方燐作)とともに、密かに清水を旅立つ。行方知れずの久六を探すため、お蝶の喪が明けたら本懐を遂げるために動き出す。まるで「忠臣蔵」のよう!
次郎長一家も、自分たちを四十七士に見立てて、昼行灯を決め込み、沼津の佐太郎夫婦の料理屋「おとく」開店準備から宣伝まで大活躍。楽しいシーンが続くが、町の人々は「久六を倒さないのか?」と、次郎長一家の落ち目を嘆く。これも忠臣蔵と重なる。
ついにお蝶の百か日の時期を迎えたころ、裏切り者の久六たちが清水の町にやってくる。次郎長一家は敵討ちに向けて準備万端かと思いきや、なぜか「肝試し」と称して大宴会を始めてしまいます。ところが、運悪く、ふぐの毒に当たってしまい、次郎長も子分たちも体がしびれて動けなくなってしまう。
このあたりも、お蝶を偲ぶしんみりと、フグ騒動の笑い、久六の襲撃のサスペンスが見事な塩梅で、忠臣蔵を見るような楽しさ。ヤキモキする佐太郎、お園たち。ここでの越路吹雪の立ち振る舞いが実にいい。ふぐに当たった次郎長一家を情けないとしたり。
次郎長一家が動けないという最悪のタイミングで、久六の一味が次郎長の家に殴り込んでくる。絶体絶命のピンチ!さて、どうなる! そこからの展開は娯楽映画のカタルシスがたっぷり味わえる。
そして次作は、シリーズとともに存在感を増してきた森繁久彌の本当の意味での役者として開眼する『第八部 海道一の暴れん坊』となる。これまた大傑作!

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