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『次郎長意外伝 灰神楽木曽の火祭』(1958年11月23日・東宝・青柳信雄)

『次郎長意外伝 灰神楽木曽の火祭』(1958年11月23日・東宝・青柳信雄)。飛ぶ鳥を落とす勢いだった三木のり平をフィーチャーしたアチャラカ時代劇「次郎長意外伝」シリーズ第四作。前作から約一年を経て製作され、本作では時代の波に乗って東宝スコープによるワイドスクリーン作品となった。

これまでのシリーズは約一時間のシスターピクチャーとして作られ、第三作『大暴れ次郎長一家』で87分のフィーチャー作品となったものの、二部構成だった。本作は99分。一本の長編映画として腰を据えた作りとなり、予算もスケールも一段とパワーアップしている。

原案はこれまでどおり、人気浪曲師・相模太郎が戦前から口演してきた、正岡容作「灰神楽三太郎道中記」。脚本は小野田勇・キノトールのコンビから蓮池義雄へ交代しているが、ノンクレジットで永六輔と小野田勇も参加している。

永六輔は、小野田勇と同じく三木鶏郎の「冗談グループ」「冗談工房」で活躍していた放送作家。本作の翌年、中村八大とのコンビで「黒い花びら」を大ヒットさせることになるが、その前夜、本作では中田康子が歌う挿入歌(作曲・松井八郎)の作詞を担当しているのも興味深い。

本シリーズ最大の魅力は、東宝『次郎長三国志』とのクロスオーバーである。これまで、小堀明男の清水次郎長、森繁久彌の森の石松(幽霊)、若山セツ子のお蝶、森健二の関東綱五郎と、オリジナル版のキャストが同役で出演してきた。

今回はさらに趣向を変え、『次郎長三国志』では大政を演じ、マキノ雅弘の日活版『次郎長遊侠伝』二部作では清水次郎長を演じた河津清三郎が次郎長役を担当。お蝶は引き続き若山セツ子、そして嬉しいことに、オリジナル版で追分三五郎を演じた小泉博も登場する。

一方、これまで本シリーズで三五郎を演じてきた本郷秀雄は、桶屋の鬼吉へと役替わり。こうしたキャスティングの遊びも、「次郎長ユニバース」ならではの楽しさである。

さらに、『次郎長三国志』で久慈あさみ、『大暴れ次郎長一家』で越路吹雪が演じてきた艶っぽいヒロイン役は、今回は木曽節・お駒として新東宝出身の安西郷子が担当。シリーズ皆勤賞の脱線トリオ(由利徹・八波むと志・南利明)は、牢名主として登場し、本筋そっちのけでアチャラカ芸を炸裂させる。

前作では悪役だった森川信は、今回は次郎長一家への子分入りを夢見る三保の豚松役。オリジナル『次郎長三国志』では、加東大介演じる豚松は『旅がらす次郎長一家』(1953年)で、お蝶とともに非業の死を遂げる。しかし、このマルチバースでは、お蝶も豚松も健在。その"もしも"の世界がまた楽しい。

そして「次郎長意外伝」シリーズでは、イビキ狂四郎、大番の牛太と毎回趣向を変えて珍演を見せてきた千葉信男は、今回はなんと大政役。相模太郎も浪花節を披露する侠客役で登場し、自慢の喉をたっぷりと聴かせてくれる。

今回のプロットは、高利貸し殺しの濡れ衣を着せられた三太郎が脱獄し、真犯人を探すというもの。

追分三五郎(小泉博)は奉行所へ直訴し、「十日以内に三太郎が戻れば無罪」という猶予を勝ち取る。しかし、期限までに戻らなければ三五郎も同罪となる。つまり、本作は太宰治『走れメロス』を下敷きにした物語。三太郎(三木のり平)と、まりりんのお紋(中田康子)は木曽路を旅しながら真犯人を追う。

物語は、次郎長一家へ入りたい三保の豚松(森川信)が、お調子者の三太郎を「お前さんこそ次郎長以上の大親分だ!」とおだてるところから始まる。その気になった三太郎は、まりりん亭で大盤振る舞い。

そこで出会うのが、強欲な高利貸し・銭屋太郎兵衛(上田吉二郎)。横暴な太郎兵衛に敢然と立ち向かう三太郎だが、役人・近藤左門(伊藤久哉)には軽くあしらわれる。その夜、太郎兵衛の妾・お滝(北川町子)の誘いに乗って豪勢な酒宴で泥酔した三太郎。

翌朝目を覚ますと、すぐ隣には血を流して死んでいる太郎兵衛。実は、お滝と近藤左門が共謀し、財産を奪うため太郎兵衛を殺害。その罪を三太郎に着せてしまったのだった。

こうして三太郎は「銭屋殺し」の凶悪犯として投獄されることになる。その行く手には、姑息な猿屋の勘助(沢村いき雄)、そして次郎長最大の宿敵・黒駒勝蔵(如月寛多)が立ちはだかる。

クライマックスでは、河津清三郎演じる次郎長を中心に、次郎長一家が派手な大立ち回りを繰り広げる。喜劇、アクション、剣戟のバランスも絶妙で、シリーズ中でも最もスケールアップした一本と言っていい。

こうして「次郎長意外伝」シリーズは、『次郎長三国志』のアチャラカ・スピンオフとして始まりながら、三木のり平の人気とともに、回を重ねるごとに予算もスケールも拡大し、堂々たる「次郎長映画」へと成長していった。

東宝版『次郎長三国志』全九部と、『次郎長意外伝』全四部(エピソードとしては全五部)は、まさに「次郎長ユニバース」と呼ぶべき豊かな世界である。

時代劇でありながら、製作当時の流行、音楽、レビュー文化、コメディ、さらには映画スターの持ち味まで丸ごと封じ込めた、映画黄金時代ならではの貴重な娯楽映画遺産でもあります。


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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所 よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。