『次郎長遊侠傳 秋葉の火祭り』(1955年2月28日・日活・マキノ雅弘)
昨夜は『次郎長遊侠傳 秋葉の火祭り』(1955年2月28日・日活・マキノ雅弘)をスクリーン投影。
マキノ雅弘が、東宝で手がけた大ヒットシリーズ『次郎長三国志』の幻となった『第十部 荒神山 後篇』撮影中に降板したあと、製作再開間もない日活へ移籍して撮った「次郎長遊侠傳」シリーズ第一作である。脚本・企画は八木保太郎、毛利三四郎。

若き日の清水次郎長が、生涯の宿敵・黒駒勝蔵と秋葉の火祭りで激突し、清水次郎長一家が誕生するまでを描く、いわば「次郎長ユニバース」のエピソードゼロともいうべき作品。何より嬉しいのは、東宝版から受け継がれたキャストである。
日活へ移籍した河津清三郎は、大政から主役・清水次郎長へ昇格。森繁久彌の森の石松、田中春男の法印大五郎はそのまま続投する。関東綱五郎だった森健二は旅回りの役者へ、本郷秀雄は後年『次郎長意外伝』シリーズで追分三五郎を演じることになるが、本作では増川仙右衛門。そして東宝版で黒駒勝蔵を演じた石黒達也が、今度は勝蔵の子分・助十を演じているのも面白い。
河津清三郎の次郎長は、大政とは違う粋な渡世人の軽妙さが魅力だ。
なかでも風呂に浸かりながら、その前年に春日八郎が大ヒットさせた「お富さん」を口ずさむ場面が実に可笑しい。幕末の次郎長が昭和30年の流行歌を、しかもうろ覚えで歌うというナンセンス。おそらく当時の観客は、「違う違う!」と心の中で歌唱指導をしたくなったことだろう。
また、本作のキーマンとなる追分三五郎には、再開日活期待の若手スター・三島耕。その許婚・お峰には桂典子が配され、フレッシュな青春映画の味わいも加えている。
そして、いかにも日活らしいのが北原三枝。遠州秋葉で馬子をしている、お侠客に憧れる男勝りのお美代。旅人の次郎長を世話するうち、次第に淡い恋心を抱いていく。
マキノ雅弘は、クライマックスのお美代と次郎長の別れを、たっぷり情感を込めた芝居場として描く。その余韻が、悲しいラストへとつながり、本作ならではの忘れ難い情緒を生み出している。
エピソードゼロらしく、森の石松、追分三五郎、法印大五郎、増川仙右衛門らが、それぞれ別々の事情で秋葉の火祭りへ集まり、悪辣な黒駒勝蔵の横暴を前に、次郎長を中心に即席のチームを結成していく。
まさに「アベンジャーズ」の結成シーンを見るような高揚感がある。しかも増川仙右衛門を除けば、まだ誰も渡世人ではなく堅気という設定が面白い。

物語は、秋葉権現の秋の大祭「火祭り」に、主人の名代として灯籠を奉納するため、信州追分の油屋の番頭・追分三五郎(三島耕)が、許婚のお峰(桂典子)と老番頭・元三(深見泰三)を連れて旅立つところから始まる。
ところが黒駒勝蔵(三島雅夫)の子分・助十(石黒達也)が一行を襲撃。元三は殺され、灯籠も灯明料も路銀もすべて奪われてしまう。
お峰は偶然通りかかった清水港の長五郎(後の次郎長)に助けられ、皮肉にも助十の妹・お美代(北原三枝)の世話で助十の家へ身を寄せることになる。
一方、河原で瀕死になっていた三五郎は、旅回り一座のお時(利根はる恵)に助けられ、それぞれ異なる道筋で秋葉を目指していく。
ようやく宿場へ着いたお峰だったが、執念深い助十に再びさらわれる。必死にお峰を捜す三五郎は次郎長と出会い、救出を依頼する。
勝蔵の横暴に怒っているのは彼らだけではなかった。祭礼の場所割を勝蔵に奪われた秋葉の修験者・法印大五郎(田中春男)と東山坊(清水元)、さらに以前から勝蔵を憎む旅のやくざ・増川仙右衛門(本郷秀雄)、陽気な旅人・森の石松(森繁久彌)も、次郎長の男気に惚れ込み、次々と仲間へ加わっていく。
次郎長率いる即席チームは、お峰が監禁されている料亭へ殴り込みをかけるが、暗闇の乱戦で一度散り散りになってしまう。
その混乱のなか、勝蔵の非道ぶりに愛想を尽かしたお美代は、真の侠客である次郎長に心を動かされ、密かに味方へ寝返る。
そして迎えた秋葉の火祭り当夜。祭り一色に染まる境内で、次郎長たちはついに勝蔵一家との最後の決戦に挑む。石松、仙右衛門、大五郎らが次々と敵を倒していくなか、お美代は次郎長を助けようとして勝蔵の子分に斬られ、命を落としてしまう。
彼女の犠牲の末、勝蔵一味は壊滅的な打撃を受け、騒動はようやく終息する。事件が解決し、三五郎はお峰、そして窮地を救ってくれたお時に見送られながら、次郎長とともに清水へ向かう旅に出る。
そこへ、「待ってくれ!」と法印大五郎、増川仙右衛門、森の石松の三人が駆け寄ってくる。こうして三五郎、法印大五郎、増川仙右衛門、森の石松が最初の子分となり、清水次郎長一家がここに誕生する。
東宝版『次郎長三国志』のキャストや設定を巧みに受け継ぎながら、新たな世界線として”一家誕生”を描いた「次郎長ユニバース」の原点としての仕切り直し、まさにエピソードゼロと呼ぶにふさわしい快作である。
次郎長遊侠伝 秋葉の火祭り
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0FVG1PYJZ?ref_=atv_dp_share_cu_r
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。