『次郎長意外伝 大暴れ次郎長一家』(1957年12月22日・東宝・日高繁明)
昨夜はシリーズ第三作『次郎長意外伝 大暴れ次郎長一家』(1957年12月22日・東宝・日高繁明)をスクリーン投影。
前二作はSP映画サイズの予算と上映時間だったが、本作からは87分の一般番線作品となり、キャスト、物語ともに、まさに『次郎長三国志』外伝と呼ぶにふさわしいスケールへと発展した。とはいえ、小野田勇とキノトールによる脚本はSP映画らしいテンポを活かしており、「裸道中の巻」と「荒神山の巻」の二部構成で、最後まで一気に見せる。

監督は青柳信雄から、鶴田浩二主演の「眠狂四郎」シリーズなどを手がけた日高繁明へ交代。さらに監督助手として古澤憲吾が参加したこともあってか、画面全体の勢いが増し、アクションもコメディもテンポアップした印象を受けるのは、贔屓目だろうか。
今回は森繁久彌の森の石松の幽霊は登場しない。その代わり、「社長シリーズ」の秘書課長役など、東宝サラリーマン映画で大活躍していた小林桂樹が、紀国屋文左衛門の「秘書」を名乗るインチキ・サラリーマン(=番頭)として登場。三木のり平との掛け合いは、まるで「社長シリーズ」のパロディそのもので、この時代の観客なら爆笑したに違いない。
さらに、「虻蜂座」の仲間でもある千葉信男が再登場。前作では「眠狂四郎」のパロディ「イビキ狂四郎」を怪演したが、今回は獅子文六原作、加東大介主演で大ヒットしていた『大番』のギューちゃんをもじった「大番の牛太」として登場する。これまた三木のり平とのやり取りが絶妙で、リアルタイムの観客が羨ましいほど。この二人の登場シーンは、まさにアチャラカ芸の真髄である。
もちろん、由利徹・八波むと志・南利明による「脱線トリオ」も健在。「裸道中の巻」と「荒神山の巻」でそれぞれ別役を演じているのも嬉しいサービスだ。
さらに今回はミュージカル場面も充実。中田康子演じる「まりりんのお紋」が二曲を披露し、岩谷時子作詞、松井八郎作曲による挿入歌も実に洒落ている。もちろん特別出演の越路吹雪も歌声を披露し、本作では『次郎長三国志』の久慈あさみ演じる投げ節お仲を思わせる「投節お蔦」として、鉄火な色香を振りまいている。
そして何より嬉しいのは、『次郎長三国志』シリーズへのオマージュがたっぷり盛り込まれていることだ。
小堀明男の清水次郎長はもちろん、『旅がらす次郎長一家』で亡くなった若山セツ子のお蝶まで復活。さらに森健二が関東綱五郎を再び演じ、特別出演の藤田進が頼もしい大政を演じているのも嬉しい。
ほかにも、追分三五郎(本郷秀雄)、法印大五郎(有木山太)、桶屋の鬼吉(宮田洋容)が顔を揃え、相模太郎が『次郎長三国志』シリーズにおける広沢虎造のような役割で、浪花節を語るストーリーテラーとして登場する。
つまり前二作では、小堀明男の次郎長は三太郎を送り出す冒頭だけの登場だったが、本作では『次郎長三国志』本編とのつながりが格段に強くなり、「次郎長ユニバース」のスピンオフという色合いがぐっと濃くなった。

「裸道中の巻」
次郎長と懇意にしている廻船問屋・駿河屋の娘(小柳久子)が、悪徳番頭(大友伸)の奸計によって、殺人の濡れ衣を着せられた父を助けてほしいと、大晦日の次郎長一家へ駆け込んでくる。
次郎長(小堀明男)とお蝶(若山セツ子)は正月返上で事件解決に乗り出し、一家総出で悪徳番頭を追わせる。しかし黒幕は一家の面々一人ひとりに尾行を付け、自由に動けなくしてしまう。
そこで唯一ノーマークだった灰神楽の三太郎(三木のり平)が、追分方面へ逃げた番頭の行方を探ることになる。
賑やかな餅つきから始まる年末の清水港。いかにも『次郎長三国志』らしい年の瀬の風景が楽しい。
今回も三太郎の旅には、まりりんのお紋(中田康子)が旅姿で同行。二人の珍道中に、小林桂樹扮する紀国屋文左衛門の「秘書」が加わり、やがて騙されて文無しとなった三太郎とお紋の「裸道中」が始まる。さらに追分三五郎(本郷秀雄)まで合流し、第一作を思わせるロードムービーが展開する。
「荒神山の巻」
後半は、『次郎長三国志 第九部 荒神山』、そして幻に終わった『第十部 荒神山 後篇』へのオマージュとも言うべき物語である。
都田一家を追って山へ入った次郎長一家十七人衆が、尾張の民家へ放火したとの濡れ衣を着せられ、いまは吉良仁吉のもとへ逃げているという知らせが届く。
事情を知らず怒り心頭の次郎長は、小政たちを斬ろうと三太郎を伴って吉良へ向かう。そこで大政(藤田進)が「三太郎なら場を和ませるだろう」と同行させた、という設定も面白い。
ここでは『第九部 荒神山』の展開をコンパクトに見せたあと、吉良仁吉に預けられていた次郎長一家が、仁吉とともに宿敵・安濃徳一家との決戦へ向かう。
つまり、未完となった『次郎長三国志 第十部 荒神山 後篇』を、アチャラカ喜劇として脳内補完してくれるのである。
もちろん三太郎が女装して敵地へ潜入したり、国定忠治を名乗って敵を煙に巻いたり、お紋が板割りの浅太郎になりきって敵を翻弄したりと、脱線また脱線の大騒動。
それでも、藤田進の頼もしい大政、森健二の関東綱五郎ら『次郎長三国志』お馴染みの面々が活躍する姿を見ているだけで楽しく、ファンにはたまらない一本である。
『次郎長意外伝 大暴れ次郎長一家』は、「灰神楽の三太郎」シリーズであると同時に、『次郎長三国志』シリーズのもう一つの完結編とも言える作品だ。アチャラカ喜劇という軽妙なタッチでありながら、幻となった『荒神山 後篇』の世界を想像させてくれる。その意味でも、「次郎長ユニバース」を愛するファンにとっては、見逃すことのできない一本なのである。

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