モテない男の読書。 『ノルウェーの森』(村上春樹)を読んで
世の中にはモテる男と、モテない男がいる。そして、モテない男はモテるように多少は努力するのだが、なにぶんモテる男の外見と性格とコミュ力の前に戦意喪失し、その努力もむなしく、モテない男はモテないまま、そっと毎日を生きていく。
『ノルウェーの森』を読むのはこれで、3度目である。村上春樹の代表作と言っても過言ではないと思う。世界的な名作だ。しかし、内容はほとんど覚えてない。覚えていることと言えば、主人公ががやたらSEXをするのと、主人公の彼女が精神病施設に入ることぐらい。
読み返して、思い出した。これは、モテる男の話だ。おしゃれで勉強ができて、いい大学に行ってて、レコード屋でバイトしてて、コミュ力も高い、モテる男の話なのだ。ただ、主人公本人はそれを嫌味っぽくなく、淡々と生きている様がかえって憎らしい。
なぜなら、モテない男にはそんなに出会いが無いからである。大学で女の子に声をかけられないし、同級生の彼女とは付き合えないし、知り合った彼女のルームメイトとも仲良くはなれない。
ただただ、モテる男。にくたらしい主人公にしか見れない。あくまで、モテない男の視点からしたらである。けれど、なぜか、なぜかこの作品を読むのは3度目である。若干嫌味な男の話が、最後まで読めてしまうには、なにかしらの理由がある。
1つは内容が希薄なので、毎回ストーリーを忘れてしまい、新鮮な気持ちで読めるということ。一応、最後はスッキリ、明るい未来を提示してくれているので、それなりに面白い物語の部類に入ると思う。
2つ目は、やっぱり、これが一番なのだが、村上春樹の文章力である。くせのない、たんたんとした感じだけど、まわりくどい描写。そして、その描写の一片一片が、詩的感覚に優れている。さすがに、ノーベル文学賞に推薦されるだけのことはあるなという文章力である。
例えばこんな文章がある。
「蛍が飛びたったのはずっとあとのことだった。蛍は何かを思いついたようにふと羽を拡げ、その次の瞬間には手すりを超えて淡い闇の中に浮かんでいた。それはまるで失われた時間をとり戻そうとするかのように、給水塔のわきですばやく弧を描いた。そしてその光の線が風ににじむのを見届けるべく少しのあいだそこに留まってから、やがて東に向けて飛び去っていった。
蛍が消えてしまったあとでも、その光の奇跡は僕の中に長く留まっていた。目を閉じたぶ厚い闇の中を、そのささやかな淡い光は、まるで行き場を失った魂のように、いつまでもいつまでもさまよいつづけていた。
僕はそんな闇の中に何度も手をのばしてみた。指は何にも触れなかった。その小さな光はいつも僕の指のほんの少し先にあった」
主人公のなんともいえない感情を、蛍の動きと光をとおして見せてくれて、最後に少し希望に満ちた感情を含ませてくれる。なんとも切ない、詩的な感動的な文章で、最初に(正確には3回目だけど)読んだ時に、心を動かされて、ぞくっと来て、つい思わずページに折り目をつけ、何度もこの文章を読んでしまった。
そんな、人の心の琴線に触れる文章の力が、村上春樹にはある。ただ、内容はそこまで面白くはない。かと言って面白くないこともない。それなりのありきたりさはあるけれども、心の回復というか、読む人の琴線を揺さぶる作品なのは間違いない。
ただ、主人公はモテすぎだ。簡単にSEXしすぎだ。モテない男がどれだけここまでいきついてないかを考えると、素直に「面白かった」ではすまない。
多分、またストーリーを忘れた頃に、読み返すのだろうと思う。
『ノルウェーの森』はそんな名作です。
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