食戟とは全く関係がない『アルジェントソーマ』(2000)を観る
サンライズ『アルジェントソーマ』とは
『アルジェントソーマ』は2000年〜2001年にテレビ東京で放送されたサンライズ制作のSFアニメ(全25話)です。時代設定は2054年、突如地球に飛来した金属生命体「エイリアン」と人類が交戦状態に入った世界の物語です。[sunrise-inc.co](https://www.sunrise-inc.co.jp/work/detail.php)
復讐と葛藤のSFドラマ
物語の中心は大学生のタクトが、恋人マキを巻き込んだエイリアンの復元実験の暴走事故で彼女を失うところから始まります。重傷を負ったタクトの前に謎の男「Mr.X」が現れ、復讐を唆す。タクトは「リウ・ソーマ」という新たな名前・新たな人格で、対エイリアン特殊部隊「フューネラル(葬儀の意味)」に入隊し、実験で生まれたフランケンシュタイン的な存在「フランク」への復讐を誓います。ところが共闘を重ねるうちにフランクへの友情が芽生え始め、さらにエイリアンの謎と真相が明らかになっていく……という愛憎と孤独が渦巻く復讐劇です。 [sunrise-world](https://www.sunrise-world.net/titles/pickup_028.php)
タイトルの「ソーマ」について
タイトルの「ソーマ(Soma)」はラテン語・ギリシャ語で「体・肉体」を意味します。主人公がタクトという自己を捨てて「リウ・ソーマ」という新たな"肉体(身体)"になる、というテーマと呼応しています。また「アルジェント」はイタリア語・ラテン語で「銀」の意味です。……『食戟のソーマ』のSF版ではなく、美食ではなく復讐と哲学のドラマです(笑)。 [sunrise-inc.co](https://www.sunrise-inc.co.jp/work/detail.php)
最初にエイリアンとの「ファーストコンタクト」「フランケンシュタイン」「復讐劇」と聞いていたので、そういう方向に物語が進むのかと思ったら少し違いました。実は、なかなか大人なストーリーで、全体的に血生臭さはなく、静かなトーンの物語に感じました。アルプスの少女みたいなキャラも重要な役割で登場していますが、なぜかシルクハットを被っていたりと趣味が大人です。
大人風味なファーストコンタクト・フランケンシュタイン・復讐劇
ファーストコンタクト物にはいろいろバリエーションがありますから、そこはアイディアの出し合いになります。そこに「フランケンシュタイン」「復讐劇」が絡むとなると大河ロマンな物語かと楽しみになります。でも、人間が搭乗するロボットが出てくると、やはりアニメの世界なんだなぁと思います。
でも、若くしてガンダム・ボトムズなどを観ていたこちらも、2000年ともなるとそれなりにいい歳した年輩になっていて、テレビ東京の深夜枠のアニメなどは、昼間は仕事があるので観られない年齢になっていましたから、放送当時は観ていませんでしたが、いま思えば、自分もサンライズのアニメも大人になっていたのだなぁと思いました。
「フランケンシュタイン」というキーワードが一番最後まで腑に落ちなかったのですが、人類側の生体兵器として働くプロトタイプが、未知のエイリアンが残したパーツの組み合わせがだったということがわかるにつれて見えて来ました。
実は、SF物ではファーストコンタクトした異星人の科学技術を人類が利用するというのはありがちな話なのですが、そうかといって、正義の味方風に颯爽とした装いに変えるというのが従来のアニメなわけですが(スポンサーが玩具メーカーというのもあったわけですが)、この作品はフランケンシュタインですから、そこをあえて否定しているので、アニメとしてはわかりにくくなっていたのだと思います。
謎のエイリアンが醸し出すのは往年のエヴァンゲリオン風味
人間が登場する「ザルク(棺桶という意味)」というメカも、実はエイリアンのテクノロジーを利用した半分謎が多いというのもSF風味です。そのザルクの三角形のフォルムを観てもイデオンのガンガルブ(これは大河原メカですが)を思いだす、なんて自分はそういうアニメ世代だったんだなぁ、と思ったりもしますが、本作はエヴァンゲリオン人気を受けての企画だったとも聞きますから、エヴァの前にエヴァはなし、という当時のアニメの流行から私が一番遠ざかっていた頃だったということも思い出しました。
さて。往年のアニメの影響とその発展形をそこかしこに見られる本作ですが、ともかくにフランケンシュタインですから、派手な戦闘はなく、時には人間側の兵器として動かないで暴走したり。エピソード6ではザルクがエクストラワンの暴走?を止めたりもします。敵といわれるエイリアンもエクストラワンも動きがゆっくりしています。とにかく、このエイリアンがすることといえば、実際にはアメリカ大陸の通称「巡礼ポイント」と呼ばれている地点に歩いて向かうだけ、動かないときは鋼鉄のアルマジロのように装甲するだけ。
文芸的にも大人向けのアニメとして作られているのでしょうけど、これはベターマンにも参加していた脚本の山口宏氏の持ち味なのでしょうか。主題歌がロボット物風でないのは日本ビクターの影響なのでしょう。これらは当時のエヴァンゲリオン人気を、サンライズ的にSF考証したからということなのでしょう。
山口宏氏の脚本と「大人な文学的トーン」
文芸的に大人なのは脚本・山口宏、監督・片山一良だから
『アルジェントソーマ』は登場する組織名や兵器にも「フューネラル(葬儀)」「ザルク(ドイツ語で棺桶)」など死にまつわる命名が徹底されており、心理的・哲学的な色合いの強い大人向けSF作品です。 [sunrise-world](https://www.sunrise-world.net/titles/pickup_028.php)
まさに、深夜の「大人向けサンライズアニメ」といえる作品ですが、この落ち着いたトーン、血生臭さのない静かな復讐劇、そしてどこか文学的なテイストは、チーフライター(シリーズ構成・脚本)を務めた山口宏氏と、片山一良監督の志向が色濃く反映されています。山口氏は『新世紀エヴァンゲリオン』の脚本や『ベターマン』のチーフライターも務めた人物ですが、本作では「SF好きが暴走した」と評されるほどSF的・哲学的なテーマを掘り下げています。[1][2]
また、シルクハットのMr.X(シェイクスピアを引用する)やハティ(アルプスの少女のような純真な存在)の配置など、ゴシック小説や古典文学(特に『フランケンシュタイン』が下敷きになっています)を意識した教養主義的な演出は、この時期の深夜アニメ特有の「大人向けのアプローチ」でした。監督の片山氏も落ち着いた演出を好む傾向があり、両者の持ち味がこの独特の空気感を生んでいます。
山口宏氏が脚本・シリーズ構成などで参加している、他のサンライズ制作アニメーション作品は以下の通りです。
- ベターマン(1999年)
チーフライター(シリーズ構成)および全話の脚本を担当。ご存知の通り、『アルジェントソーマ』の直前に手がけた深夜のSFバイオホラー作品で、片山監督と組んだ『アルジェントソーマ』に続く、大人向けサンライズ路線の代表作です。
- 勇者王ガオガイガー(1997年)
『ベターマン』と同じく米たにヨシトモ監督作品で、山口氏は各話脚本として数多く参加しています(第3話、第9話など)。熱血ロボットアニメでありながら緻密なSF考証がなされた本作で、彼はSF設定の骨格を支える役割を果たしました。
- 星方武侠アウトロースター(1998年)
宇宙を舞台にした痛快なSFアクションで、各話脚本として参加しています。
- 境界のRINNE(第2シリーズ)(2016年)
高橋留美子原作のコメディ作品。サンライズ制作のアニメで、各話脚本を担当しています。
- 装甲騎兵ボトムズ外伝 無防備都市(1989年)
アニメ本編の脚本ではありませんが、サンライズの代表作『装甲騎兵ボトムズ』の世界観を借りた小説作品(未単行本化)のストーリー原案を手がけています。
山口氏はもともとガイナックス作品(『新世紀エヴァンゲリオン』『ふしぎの海のナディア』など)や、ゴンゾ作品で多く活躍している脚本家です。サンライズ作品においては、熱血と綿密なSF設定が両立する『ガオガイガー』から、ダークな深夜枠の『ベターマン』『アルジェントソーマ』へと連なる、1990年代後半から2000年代初頭の濃密なSF作品群に深く関わっているのが特徴です。
ベターマンとの同時代感
両作とも、テレビ東京深夜枠のサンライズSFとして1999〜2001年に制作された"同じ時代の空気"を持つ作品です。ベターマンが「恐怖」をテーマにバイオホラーSFだったのに対し、アルジェントソーマは「復讐と喪失」をテーマにした心理SFで、ともにロボットアニメの外形を借りながら全体のトーンは哲学的・大人向けという共通点があります。[1][2]
実は「エヴァへの発注」から生まれた
面白い制作秘話があって、スポンサーから「エヴァンゲリオンのようなものを作ってほしい」と依頼された片山一良監督が「ならウルトラマンのオマージュにすればいい」と返答してこの作品を作ったそうです(笑)。ちなみに片山監督は、アルジェントソーマの直前に同じくサンライズの深夜ダーク路線『ビッグオー』(1999年)も手がけています。[3][4]
キャラクターデザイン:なぜあんなに描き込まれているのか
キャラクターデザイン担当は村瀬修功
キャラクターデザインを担当したのは村瀬修功氏です。彼は『新機動戦記ガンダムW』や『ガサラキ』のキャラクターデザインで知られ、のちに『エルゴプラクシー』『虐殺器官』の監督も手がける実力派アニメーターです。さらに『ファイナルファンタジーIX』のキャラクターデザインも担当しており、"精緻な線と陰影で魅せる画風"が彼のトレードマークです。つまり、作品のダークで重厚な世界観に、村瀬氏の描き込みの濃いスタイルがぴったりはまった結果です。 [w.atwiki](https://w.atwiki.jp/sakuga/pages/525.html)
「萩尾望都風に」という発注
前回の「なぜ描き込みが濃いのか」という疑問への補足になるのですが、実は片山監督が村瀬修功氏に対して「萩尾望都風にデザインしてほしい」とリクエストしたそうです。SFドラマの巨人・萩尾望都(『トーマの心臓』など)の繊細で文学的な絵柄を意識した結果、あの独特の書き込みの濃さと耽美な雰囲気が生まれたわけです。しかも「死者に似た人物が現れる」という本作のストーリー上のモチーフも、『トーマの心臓』との類似が指摘されています。[3]
ベターマンのバイオホラー余韻そのままに、今度は復讐劇とエイリアンの謎が絡み合う重厚な世界観をぜひ楽しんでください!エンディングで「関係なさそうなおじさん」が毎回映るのですが、それが誰なのか最後まで観るとわかる、というカタルシスも有名な見どころです。[5]
ザルクのデザインと山根公利氏
『伝説巨神イデオン』の「ガンガルブ」(大河原邦夫デザイン)を思わせる三角形のフォルムをしている「ザルク」のメカニックデザインを担当した山根公利氏は、『カウボーイビバップ』のソードフィッシュIIや『無限のリヴァイアス』などを手掛けたデザイナーです。山根氏は往年のサンライズメカや大河原邦夫氏のデザインラインを非常にリスペクトしつつ、そこに「航空機的なリアリティ」や「異形感」を落とし込むのを得意としています。[3]
ザルクの下半身がどっしりした三角錐に近いフォルムになっているのは、エイリアンモーターという未知の動力源を積んでいる「不完全な人類の兵器(棺桶)」という設定と、往年の重機動メカ的な不気味さを意図的にミックスした結果だと言えます。動きがゆっくりで派手な戦闘にならないのも、リアルロボット的な「兵器としての重量感」と、静劇としての作品トーンを崩さないための演出です。[4]
主要キャラクター紹介
主要キャラクターを整理してご紹介します。ネタバレを最小限にしつつ、登場人物の関係性がわかるようにまとめました。
主人公サイド
リウ・ソーマ(本名:タクト・カネシロ)
宇宙飛行士を夢見ていた金属工学科の学生。恋人マキを失い自らも重傷を負った事故後、整形手術で別人の顔を手に入れ「リウ・ソーマ」として対エイリアン部隊フューネラルに入隊。感情を表に出さない仮面の下に、燃え盛る憎しみと葛藤を抱える。
フランク
エイリアンの破片から再生された銀色の巨人。右半身が有機的、左半身が無機的という左右非対称の外見を持つ。「アルケミスト・アーム(錬金術師の腕)」でエイリアンの能力を打ち返す。リウの復讐の標的でありながら、物語を通じて二人の関係は変化していく。
ハリエット・バーソロミュー(ハティ)
フランクと唯一意思疎通できる少女。過去の戦闘でエイリアンの破片が脳に入り込んだことがその理由とされる。家族を失い居場所を求めており、リウはハティに亡き恋人マキの面影を重ねて複雑な感情を抱く。
Mr.X(ロレンス将軍)
タクトに「忘却か復讐か」を迫った謎の男。シェイクスピアを諳んじながら神出鬼没に現れ、リウの行動の裏で糸を引く。その正体は……終盤の重要な伏線となっている。
フューネラル部隊
ラナ・イネス(司令官)
フューネラルの指揮官。女性であることにコンプレックスを持ち、当初は軍人らしく振舞おうとするあまり部下の信頼を得られないでいる。ハティやフランクとの交流を通じて次第に変化していく。
ダン・シモンズ
熱血気質でプライドが高いパイロット。着任早々のリウと衝突を繰り返すが、任務を通じ次第に認め合う。スーとのコンビが多く、後にスーと結ばれる。
スー・ハリス
射撃の名手で、暴走しがちなダンの抑え役。幼少期の宇宙事故が原因で難病を抱え、余命を宣告されている。それゆえ「まだ死ねない」という生への強い執着を持つ。
マイケル・ハートランド
一匹狼的な性格で協調性に欠け、様々な部隊を渡り歩いてきた。フューネラルでは徐々に仲間と打ち解けていく。
主要キャラクターはほぼ全員が「喪失」や「秘密」を抱えており、単純な善悪では割り切れない人物造形が本作の大きな魅力です。エンディングに毎回映る「謎のおじさん」の正体も見どころです。
主題歌とビクター(フライングドッグ)の影響
ロボットアニメらしからぬ主題歌(菅井えりさんの『Silent Wind』)については、ご推察の通り**ビクターエンタテインメント(後のフライングドッグ)**の影響が絶大です。[2][5]
当時のビクター(音楽プロデューサー:佐々木史朗氏ら)は、サンライズのアニメ音楽において「菅野よう子(マクロスプラス、カウボーイビバップ)」などを起用し、「アニメソングの常識を覆す、大人向けで無国籍な音楽」を意図的に仕掛けていました。本作の音楽を担当した**服部克久氏**(日本のイージーリスニング・オーケストラ界の巨匠)の起用もその一環です。[2]
ロボットアニメ特有の熱血ソングではなく、ケルティックで透明感のあるコーラスや、フルオーケストラによる静謐な音楽を発注できたのは、ビクターというレコード会社が「映像作品と音楽を大人の鑑賞に耐えうるパッケージにする」という明確なブランド戦略を持っていたからです。
情報源
[1] アルジェントソーマ Phase:01(25分) - バンダイチャンネル https://www.b-ch.com/titles/156/001
[2] 【Phase:01】アルジェントソーマ https://www.youtube.com/watch?v=_MWNz3zrn30
[3] 山根公利 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E6%A0%B9%E5%85%AC%E5%88%A9
[4] アルジェントソーマ https://www.sunrise-world.net/titles/pickup_028.php
[5] 「アルジェントソーマ」オープニング・テーマ~Silent Wind 中古CD https://shopping.bookoff.co.jp/used/0000934338
[6] 山口宏 (脚本家) - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E5%8F%A3%E5%AE%8F_(%E8%84%9A%E6%9C%AC%E5%AE%B6)
[7] 萌え萌えアニメ日記(2001/01) http://home.b00.itscom.net/rinamo/NIKKI/2001/200101.html
[8] DOMMUNE https://www.dommune.com
[9] アルジェントソーマ | サンライズ Wiki | Fandom https://sunrise.fandom.com/ja/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%88%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%83%9E
[10] Song Catalog管理楽曲 - Victor Music Arts https://www.victormusicarts.jp/songcatalog
[11] アルジェントソーマ - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%88%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%83%9E
[12] 「アルジェントソーマ」オープニングテーマ Silent Wind https://www.jvcmusic.co.jp/-/Discography/A015308/VEATP-30416.html
[13] 山口宏 (脚本家)とは? わかりやすく解説 - Weblio辞書 https://www.weblio.jp/content/%E5%B1%B1%E5%8F%A3%E5%AE%8F+(%E8%84%9A%E6%9C%AC%E5%AE%B6)
[14] 「ジャミラ」と「アルジェントソーマ」で考える物語作り https://monogatari.movie/2019/07/29/%E3%80%8C%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%9F%E3%83%A9%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%80%8C%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%88%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%80%8D%E3%81%A7%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%8B/
[15] Silent Wind (Full Version) https://www.youtube.com/watch?v=6NRlXhNb9PY
