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呉勝浩『爆弾』|思わず笑ってしまうほど面白い|スズキタゴサクから目を逸らさないでいられるか

興行収入30億円も突破し、大ヒットした映画『爆弾』。佐藤二朗が報知映画賞やキネマ旬報ベスト・テンで助演男優賞を受賞したことも話題です。 


色々なところでこちらの映画の高評価を見ては、(子供も小さいのでなかなか1人で映画館には行けないので)「早く配信しないかな〜」と思っていたのですが、文庫本の厚みを見て「これは原作が相当面白いんじゃないか」と興味を持ちました。


原作は呉勝浩(ご・かつひろ)の『爆弾』。
私は呉勝浩さんの本を読んだことがなかったのでとりあえずプロフィールを確認。


・2015年に『道徳の時間』第61回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー
・2018年『白い衝動』で第20回大藪春彦賞受賞
・2020年『スワン』で第41回吉川英治文学新人賞/第73回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)受賞/第162回直木賞候補
・2021年『おれたちの歌をうたえ』で第165回直木賞候補
・22年『爆弾』で第167回直木賞候補。


………めちゃくちゃ賞取ってる人でした。
なんか、わざわざプロフィール確認してしまった自分の無知さが露呈して恥ずかしい。
いや、言い訳させてください。昔はけっこう本読んでたんです。月に20冊くらいは読んでたと思います。でもでも妊娠して(つわりがひどくて本なんて読めず)出産して(読む時間なし)、全然本読まなくなっちゃったんですよ。で、1回読まなくなると離れちゃうというか、最近は月1、2冊くらいしか読まなくなって、こんな受賞歴のある方の名前まで知らない事態になってます。


しかも、なんというかよく知らない賞じゃなくて権威ある賞ばかりで「間違いない感」がすごい。なんとも言えないわくわく感!
『爆弾』というストレートなタイトルは、【この「爆弾」という珍しくもない単語が、この小説を読んだ後には確実に、「爆弾」=呉勝浩の『爆弾』になる】という自信の表れのようにも思えます。


ということで、呉勝浩『爆弾』のあらすじはこちら。

東京、炎上。正義は、守れるのか。
些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。
たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。
直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。
「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。
警察は爆発を止めることができるのか。
爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー。


はははは!

と途中で思わず笑いそうになるくらい面白かったです。全然笑う内容じゃないんですけど、スズキタゴサクと警察とのヒリヒリするような対話にテンションが上がって、謎に笑いそうになりました。


※ここから先は一部内容に触れますので、まだ原作を読んでいない方、映画を見ていない方は是非ご覧になってから戻ってきてください!


とぼけた見た目の中年男・スズキタゴサク。
これがなんとも言えず不気味で、活字からその微かな異臭まで臭ってくるようでした。
底知れない男。
底知れない暗闇がその目にあると思わせられる男。
映画を見ていないのに、佐藤二朗がスズキタゴサクとなって目の前に迫ってくるようでした。


頭がいいのか悪いのかわからない。
過去も今も本当のことが何もわからない。
わかるのは、スズキタゴサクは自分の見知らぬ誰かの命が失われることを何とも思っていないということだけ。


ただの雑談のように見せかけた、ヒリヒリした刑事たちとの謎解き。
次の爆発はいつなのか、次の爆発はどこなのか。どこがヒントだったのか、どこからがヒントだったのか。いや、もしかして全てヒントだったのか。


爆弾がどこに隠されているか知りたい。
スズキタゴサクが何者なのか知りたい。
事件の真相が知りたい。


スズキタゴサクから少しでも爆弾に関することを聞き出そうと焦る刑事たちに気持ちが同化して、早く先を読みたくて、気が逸る。
文字を追うのがもどかしい。
早くページを捲りたいけれど、読み終わらないと進められない焦燥感。
早く爆弾の場所を聞き出したいけれど、一見関係ない話のやり取りでしかヒントをくれないスズキタゴサク。
その焦り、もどかしさ、イライラ、不安、苛立ちが読んでいると増長して、この物語と小説の相性の良さにどっぷりハマります。



心に残ったのは、大勢の子どもたちとホームレスの命を天秤にかけるようなシーンです。
保育園や幼稚園に仕掛けられた爆弾は見つけたものの、ホームレスの方たちが集まる場所に仕掛けられた爆弾は爆発して、死傷者が発生。
「ああ、爆発してしまった。何人か亡くなってしまった……」と残念に思いつつ、何故がざらっとした肌触りのようなものを自分の中で感じた瞬間にスズキタゴサクはこちらを覗き込むのです。




「よかったですね、子どもじゃなくて」


「ほっとしていますか?」








ほっとした。声には出せないけれど、私はたぶん、ほっとした。



昔、大学入試のために通信講座で小論文の添削を受けたことがあります。その初めての課題が
「命の価値は平等か」でした。
そこで私100点満点中98点くらい取れたんですよ。細かくは忘れましたが、「現時点で何も成し遂げていない人でも、未来に何か成し遂げられる可能性がある限り、その人に未来がある限り命の価値は同じ」という感じの内容にしたと思います。
そう、私も偉そうに「命の価値は同じだ」と長々と書いたのに、そう思っているのは本当のはずなのに、それでも私はホームレスの方が集まる場所で爆破があったと知った時「でも子どもたちが助かってよかった」と思ったのです。
これが逆だった時、「でもホームレスの方が助かってよかった」とは、きっと思わなかったはずです。子どもたちの死が重くのしかかって、先を読むのも嫌になってしまったかもしれません。


つまり、スズキタゴサクが言っているのはそういうことです。
どれほど綺麗事を言っても、どれほど命は平等だと言い張っても、そこには必ず優先順位があるし、誰もが命の選択をしている。
私たちが「スズキタゴサク」を「どうでもいい人」だと思っているように、「スズキタゴサク」だって私たちのことを「どうでもいい人」だと考えるのは当然で、それこそが「平等」だと。


スズキタゴサクに心の奥底まで覗き込まれているようで、
自分の奥底にある「悪」を無理やり取り出されそうで、
その目を逸らしたくなります。 


聖人君主じゃない。完全じゃない。
見栄っ張りで、人を羨んで、人の不幸に安心するような、偉くもないくせに人の命に優劣をつけているような「悪」も自分の中に潜んでいるかもしれない。
それでも、もちろんそれだけじゃない。他の人の幸せが自分の幸せのように嬉しくて、幸せになって欲しくて、心からよかったね、と思える自分もいる。そして、そんな自分の方が絶対強いと信じたいし、自分の本質はそちらだと信じたい。



心の中を覗き込んでくるようなスズキタゴサクの目を、逸らしたい衝動を抑えて見つめ返し続けている気持ちになったラストでした。


おしまい。

続編もあるみたいです。
スズキタゴサクの裁判中に武装テロリストが法廷を占拠する、というあらすじ。
うわ、面白そう。

コミカライズもされてました。
最近すぐコミカライズされる気がする……。



どうでもいいですが、先日突然足が痛くなり、1週間くらい本当に大変でした。
足を動かすとビキコーーーーン!!!!って激痛が走るんだよ!
と夫に必死に訴えたら「笑わせないで」言われたんですけど、本当にビキコーーーーン!!!!という痛みだったんです。
よくなってきてよかった……。



【追記】2026.3.8
佐藤二朗さん、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を初受賞されましたね!
山田裕貴の号泣と佐藤二朗のスピーチに感動して、どうしても何か書きたくなったんですけど、書くところがないので原作の感想に追加しました!(映画は配信待ち)

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