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【遅すぎですよ彦星君】第4章 「太陽にも夜はある」

この物語は、5人のヒロインから1人を選ぶ企画恋愛シナリオ

『報われなかった恋を読む場所』 

第4弾 星野 明音(ほしの あかね)の物語です

このシナリオのメインヒロインは、各ヒロインのスキ❤の合計で決定します

では、本編をどうぞ


約束の時間より少し早く着いた私は、いつもの場所で足を止めた
同じ景色のはずなのに、今日は妙に胸が弾む
何か楽しいことが始まる前のような感覚だった

彦星:「……何を期待しているんでしょうね、私は」

約束の時間になっても、明音さんは来ない

彦星:「……今日もですか」

三日続いたことを考えれば、偶然とは思いにくい。だが理由は分からない

彦星:「……まあ、来てから聞けばいいか」

待ちながら記憶を探ると、明るい声が浮かんだ

あの子 :「彦星君!」
幼い彦星:「どうしたの?」
あの子:「今日もいっぱい遊ぼう!」
幼い彦星:「え~疲れない?」
あの子:「うん! でも疲れたら一緒に休めばいいじゃん!」

そこで途切れた
顔も名前も分からない
ただ、聞いているだけで楽しくなる声だった

明音:「彦星君ー! お待たせ!」

遠くから大きく手を振りながら
明音さんが駆けてくる

明音:「ごめん! ちょっと遅れちゃった!」
彦星:「いえ、まあ……」
明音:「でもさ、十五年前はあの子がずっと待ってたんでしょ?」
彦星:「……はい?」
明音:「だったらこれくらい……大丈夫!大丈夫!」
彦星:「……なるほど」
明音:「うんうん!」
彦星:「いえ、やっぱり少しだけ納得できませんね」
明音:「え?」
彦星:「大丈夫かどうかどうかは待たされた私が決める話では?」

明音さんは一瞬きょとんとして、それから楽しそうに笑った

明音:「あはは! 彦星君、ちゃんと言うんだ!」
彦星:「何故そこで嬉しそうなんですか?」
明音:「だって、何でも『はい』って言われるより楽しいじゃん!」
彦星:「そういうものですか……」

話題を変えた方がよさそうだ

彦星:「あっ、そうだ。私と明音さんの思い出の場所に行きましょう。何か思い出すかもしれません」
明音:「思い出の場所?」
彦星:「はい」

明音さんは足元を見て、周囲を見て、最後に私を見た

明音:「ここだよ!」
彦星:「…………」
明音:「…………」
彦星:「本当ですか?」
明音:「あははっ! ごめん、ごめん! 今の彦星君、すっごい顔してた!」
彦星:「明音さん……」

明音:「冗談だって! ほら、行こう!」
彦星:「昨日までとは違う意味で疲れますね……」
明音:「大丈夫、大丈夫!」
彦星:「その言葉で押し切るのはやめませんか?」

明音さんに案内された一帯は、人の往来が多かった

明音:「こんにちはー!」
年配の女性:「あら、明音ちゃん。今日も元気ねえ」
明音:「もちろん! そっちはどう? ちょっと疲れてない?」
年配の女性:「あら、分かる?」
明音:「分かるよー。今日は早く休んでね!」

少し進めば、今度は子ども達が集まってくる

元気な男の子:「明音お姉ちゃん! 遊ぼう!」
明音:「いいよ!ほら彦星君も!」
彦星:「私もですか?」
明音:「一人だけ見てる方が寂しいでしょ!」

気付けば私まで巻き込まれていた

明音:「あー! 失敗した!」
元気な男の子:「明音ちゃん下手!」
明音:「今のは練習! もう一回!」

その輪から少し離れた場所に、一人の子どもが立っていた

明音:「ねえねえ! ちょっとこっち手伝って!」
小さな女の子:「私?」
明音:「うん! お願い!」

女の子が近付くと、明音さんは何事もなかったように遊びを続けた
その瞬間、記憶が弾けた

あの子:「彦星君、早く!」
幼い彦星:「待って……うわっ!」
あの子:「彦星君!」

一瞬だけ、心配そうな気配

あの子:「大丈夫、大丈夫!」
あの子:「休んだら、また行こう!」

彦星:「……っ」
明音:「彦星君?」

顔を上げると、明音さんがすぐ近くにいた

明音:「大丈夫?」
彦星:「……はい」

近い
声も
言葉も

だが、それだけで決めるわけにはいかない

子ども達と別れ、再び歩き始めた

彦星:「さっきの子、自然に輪へ入りましたね」
明音:「うん! 楽しそうだったでしょ?」
彦星:「明音さんは、いつもああなんですか?」
明音:「え? 何が?」
彦星:「いえ……何でもありません」

少し景色へ目を向け、再び隣を見る
明音さんが立ち止まっていた
笑っていない

前髪へ指先を触れ、何かを考えている

彦星:「明音さん?」
明音:「ん? 何!」

一瞬で笑顔に戻った

明音:「ほら、行こう!」
彦星:「……はい」

聞くべきだろうか?
いや、待て。まだ私は、彼女の何を知っている?
無理に踏み込むのは違う

ただ……笑っているから大丈夫だと決めつけるのも違う

明音:「楽しかったね!」
彦星:「そうですね」
明音:「彦星君も、ちょっとは思い出せた?」
彦星:「少しだけ。ただ、まだ何とも言えません」
明音:「そっか!」

彼女は笑った

明音:「でも大丈夫!大丈夫!」
明音:「何とかなるよ!」
彦星:「……そうですね」

待ち合わせ場所でも
子ども達の前でも
そして今も

大丈夫

最初は、ただの口癖だと思っていた
けれど、あの数秒を見た後では、同じ言葉には聞こえない
私は遠ざかる明音さんの背中を見つめた

この人は……誰に向かって「大丈夫」と言っているのだろう?

明音さんと歩いていると、少し先で年配の男性が荷物を前に困った顔をしていた

明音:「あっ、ちょっと待って!」
彦星:「はい」
明音:「どうしました?」
年配の男性:「いや、これを運びたいんだが、思ったより重くてな」

明音:「じゃあ手伝うよ! 大丈夫!大丈夫!」
彦星:「私も持ちます」
明音:「え、いいの?」
彦星:「二人の方が早いでしょう?」
明音:「じゃあお願い! 彦星君、そっち持って!」

荷物を運び終えると、年配の男性はほっとしたように笑った

年配の男性:「助かったよ」
明音:「よかった! でも無理しちゃ駄目だよ?」
年配の男性:「それは明音ちゃんもだろう」
明音:「私は大丈夫!大丈夫!」
彦星:「……」
明音:「彦星君? 何その顔?」
彦星:「いえ……行きましょうか」

歩き出してからも、明音さんは変わらなかった

誰かの表情が曇れば声を掛ける
困っていれば動く
そして相手が笑うと、自分も嬉しそうに笑う

明音:「あ、こんにちはー!」
通りすがりの女性:「あら明音ちゃん、今日も元気ね」
明音:「もちろん! そっちも元気ですか?」
通りすがりの女性:「まあまあね」
明音:「じゃあ今日は、まあまあから元気にしよう!」
彦星:「随分と強引ですね」
明音:「笑ったから成功!」
彦星:「そういう判定なんですか?」
明音:「うん!」

迷いがない
だが……少し進んだところで、明音さんの足が止まった

彦星:「明音さん?」
明音:「ん? どうしたの?」
彦星:「少し休みますか?」
明音:「大丈夫!大丈夫! これくらい全然平気!」

そう言って歩き出そうとする
その言葉に、幼い声が重なった

幼い彦星:「え~疲れない?」
あの子:「うん! でも疲れたら一緒に休めばいいじゃん!」

彦星:「……すみません」
明音:「何?」
彦星:「少し疲れました。休みませんか?」
明音:「彦星君が?」
彦星:「はい」

明音さんは私の顔をじっと見る

明音:「……本当に?」
彦星:「本当です」
明音:「ふ~ん」
彦星:「駄目ですか?」
明音:「駄目じゃないけど……じゃあ、しょうがないなあ!」

並んで腰を下ろすと、明音さんは足を軽く揺らした

明音:「彦星君、意外と体力ないんだね!」
彦星:「そういうことにしておいて下さい」
明音:「やっぱり変なの」
彦星:「明音さんに言われると、少し複雑ですね」
明音:「えー! ひどくない?」

私は少し迷ってから、待っている間に思い出したことを話した

彦星:「十五年前のあの子は、太陽みたいによく笑う子だった気がします」
明音:「へえー! 元気な子だったんだね!」
彦星:「はい。ただ、少し気になるんです」
明音:「何が?」
彦星:「あの子は、本当にずっと元気だったのでしょうか?」

明音さんの笑顔が、僅かに止まった

彦星:「今の私が、そう思い込んでいるだけかもしれない」

明音さんは前髪へ指先を触れた

明音:「考えすぎじゃない?」
彦星:「そうでしょうか?」
明音:「元気そうなら……元気だったんじゃないかな!」
彦星:「その可能性もあります」
明音:「でしょ?」
彦星:「でも、見えている表情だけで決めるのも違う気がします」
明音:「……そっか」

私はそれ以上聞かなかった
しばらくして、明音さんがぽつりと口を開いた

明音:「ねえ、彦星君」
彦星:「はい?」
明音:「笑ってる人ってさ……本当に楽しいから笑ってると思う?」
彦星:「どういう意味ですか?」
明音:「ほら……例えば心配かけたくないから笑う……そんな人もいると思うんだ」

明音さんは軽く笑う

明音:「周りが楽しそうなら、それで安心できる人とかさ」
彦星:「……」
明音:「まあ、私の想像だけどね!」
彦星:「笑っているから大丈夫……とは思わないようにしたいです」
明音:「……うん」
彦星:「本当に大丈夫かどうかは、ちゃんと話を聞かないと分からないでしょうから」

明音:「じゃあ……そんな場面に直面したら聞くの?」
彦星:「そうします……けど、話したくないことまで無理に聞くのも違うとは思いますが」
明音:「……変なの」
彦星:「そうですか?」
明音:「気付いたなら聞けばいいのに」
彦星:「本人が話したくなった時でいいと思います」
明音:「そっか」

再び歩き始めた私は、十五年前の少女について考えていた

明音:「……大丈夫?」

私は顔を上げた
いつもなら、先に大丈夫だと決めていた人が、今は私の答えを待っている

彦星:「分かりません」
明音:「そっか」
彦星:「でも……今はもう少し考えたいです」
明音:「……分かった」

それだけだった
少し先へ進んだ明音さんが、突然振り返る

明音:「彦星君! 早く!」

その姿に、記憶が重なった

あの子:「彦星君! 早く!」

笑っている
楽しそうに手を振っている
けれど次の瞬間、別の光景が浮かんだ

一人でいる少女
笑っていない
ほんの少しだけ寂しそうな顔をしている

けど……誰かの気配に気付いた瞬間、すぐに笑顔になる

そこで途切れた

明音:「彦星君?」
彦星:「……今、行きます」

顔は分からない
明音さんだったのかも分からない
ただ、私は十五年前にも、あの笑顔を見て安心していたのではないか?

その奥を見ようともせずに……

やがて別れの時が来た

明音:「今日はありがと!」
彦星:「こちらこそ」
明音:「結構楽しかった!」
彦星:「結構、なんですね」
明音:「あはは! そこ気にする?」

彼女は笑い、一度だけ言葉を止めた

明音:「またね、彦星君」
彦星:「はい。また」

遠ざかる背中を見送りながら、今日の姿を思い返す

大きく手を振る姿
誰かが困れば真っ先に動く姿
相手が笑えば、自分も笑う姿

そして……一人になった時だけ見せた表情

彦星:「ムードメーカーは、いつも元気で、不安や悩みなんてないと思ってた」
彦星:「けどこの人だけは……その考えを改めた方がよさそうだ」


星野 明音(ほしの あかね)のイメージソング


明音の物語はいかがでしたでしょうか
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