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第2章『食路』第5節:迷ったまま辿り着く場所ー ノクティエラ ー【ケンタウルスストーリーイベント】

前回のあらすじ

yummy! mekongを出てしばらく歩いたところで、私は足を止めた
正確には、止めさせられた、に近い

姿勢の正しいケンタウルスが、道の中央に立っていた
背筋は伸び、無駄な動きは一切ない
白衣を思わせる淡い装いは、夜の街の色からわずかに浮いている
周囲を見回す様子もなく、視線は一定の高さで固定されていた

ただ一つ、足元だけが不自然だった
前肢は揃っているのに、後肢の向きが微妙にずれている
進もうとしては止まり、止まったまま判断しているような立ち方だ

「この辺りで、合っていますか?」

彼女はそう言った
疑問ではあるが、問い詰める響きはない
確認というより、仮説の提示に近い

「……合ってます」

私がそう答えると、彼女はほんのわずかに息を整えた

「なら、問題ありません」

即断だった
だが、その言い切りには確信よりも、決断の痕が残っている
迷っていること自体を、すでに処理済みの問題として扱っているようだった

迷子さんが、いつの間にか横に立っている

「今回のゴールは、居酒屋 大関だよ」

春日市日の出町の地域密着型居酒屋
焼きとりや揚げ物を中心に、おつまみ・ご飯ものまで幅広い一品料理を揃えているわ

焼きとりおまかせ5本セットやコラーゲンたっぷりの焼とん足、馬刺しなど
ビール・日本酒・焼酎との相性が良いメニューが人気ね

また、飲み放題付き宴会コース(約3500円〜)や少人数向けの個室もあり
仕事帰りの一杯から宴会利用まで幅広く対応しているわ

夕方〜深夜まで営業し、南福岡駅周辺からのアクセスも良好ね

ノクティエラは、その説明を一言も挟まずに聞いていた
そして、少し考え込む

「……終着点、というより。滞留点ですね」

修正ではなく、再定義だった
目的地を、到達ではなく留まる場所として扱う発想
私は思わず、彼女の足元を見る

「方向は、こちらですか?」

問いかけると、ノクティエラは首を傾ける

「理論上は問題ありません」

そう言って、一歩踏み出す
踏み出した先は、来た道とほぼ同じ角度だった

「理論上……ですが」

その言い方に、迷いはない
迷っている事実だけが、きれいに切り離されている

コースは、緩やかにうねりながら夜の住宅街を抜けていく
本来は大通り一本みたいだが、迷子さんが「こちらの方が面白い」とこのルートになった

直線のようで直線ではなく、下っているのに実感が薄い
判断を先送りにすると、いつの間にか別の道に出てしまいそうな流れだ

私は、無意識に歩幅を揃えていた
まだ走っていないのに、準備だけが進んでいる

ノクティエラは前を見たまま、言う

「走る前に、一つ確認しておきたいのですが……」
「何でしょう?」
「迷った場合、正しさよりも、継続を優先しても構いませんか?」

私は少し考えたあと、頷いた

「……はい」

彼女は静かに息を吸う

「なら、大丈夫です」

どこへ向かうかよりも、止まらないことを選んだ声だった
こうして、迷ったまま辿り着く走行が、始まろうとしていた


後編を第2章『食路』のレースBGMと共にお楽しみ下さい


併走が始まってから、ノクティエラは私の半歩後ろを保っていた

距離は一定
歩調も乱れない
視線は前方に向けられ、判断に迷いがあるようには見えない

それでも、足取りだけがわずかに揺れている
進む速度は正しいのに、踏み出す角度が微妙に定まっていない

最初の分岐点で、ノクティエラは立ち止まらずに言った

「この方向で、論理的には合っています」

断定ではなかった
条件を満たしている……というより報告に近い

私は頷き、何も言わずに進路を合わせる
違和感はあったが、否定する理由もなかった

大通りを外れ、一本内側の住宅道へ入る
舗装は続いている。行き止まりでもない
ただ、建物が近く、視界が急に狭くなった

ノクティエラの歩調が一拍遅れる

数十メートル進んだところで、彼女は止まった
唐突だったが、迷いは感じられない

「距離は縮んでいますが、到達経路としての確証がありません」

感情を含まない声だった
行き止まりではない
だが、説明できない進行を、そのままにしない

「仮説が一つ、崩れました」

そう言って、彼女は自然に方向を変えた
引き返す判断に、ためらいはなかった

戻る途中、ノクティエラの歩調がわずかに落ちる
次の分岐点で、今度は彼女が足を止めた

「直線的には、こちらです」

少し間を置いて

「ただ、先ほどのズレが気になります」

私は彼女の横に並び、前を見た

「一度、大きい道に戻りましょう」

理由は添えなかった
説明も、保証もない

ノクティエラは一瞬だけ視線を落とし
「……助かります」と言った

その言葉は短かったが、重さがあった
判断を委ねる、というより、支えを認めた声音だった

それ以降、進路は私が選んだ
ノクティエラは確認せず、ただ並走する

「論理的には……もっと簡単な構造のはずなのに」

独り言のように呟く
私は答えない
修正理由も語らない

ただ、前に進む

彼女は否定もしなければ、検証もしない
理性よりも、関係性が先に立っていた

再び大通りに戻ると、空気が変わった

人の声
店の灯り
暖簾が、静かに揺れている

ノクティエラの足取りが、ほんの少し早まる

目的の店の前で、彼女は立ち止まった

「……辿り着けましたね」

その言葉のあと、少し間が空く

「このくらいで、ちょうど良かったのかもしれません」

迷ったことを、否定しない言い方だった

正確でなくても、最短でなくても
辿り着くことはできる

暖簾の向こうに、今日の終わりが待っている

私はその横に立ち、歩調を緩めた

迷ったままでも、一緒なら、ちゃんと着ける場所がある

次節へ


*この節の登場ケンタウルスはこちら



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