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第6章『初陣』第3節:エース【ケンタウルスストーリー】

前節のあらすじ

引き続きこのレースのイメージレースBGMをレースのお供にどうぞ


前は遠かった
ほんの少し前まで視界に収まっていたハクレイナ達は、もう遥か先を走っている

足が……重い

アークシエル
「ランをあそこで止めた時点で、あなた達の負けは決まっていたんですよ」

アークシエルの言葉が何度も頭の中で反響していた

初レースだった
初めてのチーム戦だった
そして、チーム戦の恐ろしさを知った

前を見ても希望は見えない
私は気付かないうちに速度を落としていた

その時だった
後方から二つの足音が近付いてくる

サクラミスト
「ヴァイス!」
ルナヴェイル
「大丈夫ですか」

私は思わず目を見開いた
なぜ二人がここにいる?
前を走っていたはずなのに……

サクラミスト
「急に遅くなったから心配したんだよ!」
ルナヴェイル
「月が雲に隠れてしまったようでしたので」

二人とも本気で心配している
その事実が少しだけ意外だった

私は大丈夫だ
そう言おうとして……言葉が出なかった

自分でも思っていた以上に落ち込んでいるらしい


その頃、後方集団

ラン達は依然として集団の中にいた

クロレイナ
「ラン……新人さんに任せて大丈夫だったんですか?」
ルミネージュ
「初レース……だったよね」
ジュノリハ
「経験差は大きいと思います」

三人の言葉に、ランは静かに微笑む

クロレイナ
「あれ……少なくとも今は崩れているように見えますが」
ルミネージュ
「ランが行った方が良かったと思う」
ジュノリハ
「少し荷が重かったかもしれません」

ラン
「……あなた方は」
ラン
「ヴァイスノヴァを舐めすぎですわ」

三人がランを見る
穏やかな声だった
だが、その瞳には揺るがない確信があった

ラン
「私がまたチームで走ろうと思えたのは……彼女のおかげなんですから」
ラン
「なので……私達のチームのエースをあまり舐めないでもらえますか」

一瞬だけ沈黙が流れる
誰も言葉を返せなかった
ランだけが前方を見ていた
まるでヴァイスノヴァの復活を確信しているかのように……


私は小さく息を吐いた

ヴァイスノヴァ
「大丈夫ですよ」
ヴァイスノヴァ
「それよりレース中です」
ヴァイスノヴァ
「何下がって来てるのですか?」
サクラミスト
「いや……心配で」
ルナヴェイル
「夜空が揺れていましたので」

私は少しだけ笑った
不思議だった
さっきまで何も考えられなかったのに……

二人がいるだけで少しだけ気持ちが軽くなる

ヴァイスノヴァ
「ですが……助かりました」
ヴァイスノヴァ
「お願いがあります」
ルナヴェイル
「……何でしょう?」
ヴァイスノヴァ
「限界まで私を引っ張れますか?」
サクラミスト
「えっ?」
ヴァイスノヴァ
「後は私が何とかします」
サクラミスト
「何とかって」
サクラミスト
「ヴァイスもう限界だよ?」
ヴァイスノヴァ
「……何とかします」
ルナヴェイル
「どうやって勝つのですか?」

私は前を見る

遠くにいるハクレイナ
さらにその先のゴール

ヴァイスノヴァ
「簡単です」
ヴァイスノヴァ
「気合と根性です」

一瞬の沈黙
そして

サクラミスト
「ふふっ!」
ルナヴェイル
「それは……とても原始的ですね」

二人は思わず笑った
だが、その笑顔は安心したようにも見えた
私がまだ諦めていないと分かったからだろう

ヴァイスノヴァ
「話はここまでです」
ヴァイスノヴァ
「時間がありません」
ヴァイスノヴァ
「お願いします」

三人は加速した

先頭はサクラミスト
軽やかに風を切り裂く
その後ろをルナヴェイルが滑らかに繋ぐ
私は最後尾で力を温存する

速度が上がる
さらに上がる
後方に取り残されたアークシエルが、その様子を見ていた

アークシエル
「……何だ」

理屈では説明できない

勝算も
体力も
展開も

何も残っていないはずだった

それなのに……ヴァイスノヴァだけは前だけを見ている

アークシエル
「壊れるまで走る気か?」

やがて三人はアークシエルの横を駆け抜ける

その瞬間
アークシエルは確かに感じた

異様な執念を
新人とは思えない覚悟を

アークシエル
「……本当に新人なのか?」

三人は振り返らない

ただ前へ
先頭だけを目指して走り続ける

その瞳の奥には、静かに燃える炎が宿っていた
そして三人はアークシエルを抜き去った

その頃、先頭集団

先頭を走るのはノクスヴェイル
その後ろにナクティアとハクレイナ

三人による勝負が続いていた

ノクスヴェイル
「……あなた達」
ノクスヴェイル
「最初から私達の大逃げ作戦に気付いていたのでは?」
ナクティア
「ああ」
ナクティア
「だから、勝つために新人を利用した」
ハクレイナ
「一番確実だったからね」
ナクティア
「まず、ランを封じる」
ナクティア
「ヴァイスノヴァを前へ行かせる」
ナクティア
「後は、協調を持ち掛け、ウチのエースを温存させながら消耗させる」
ナクティア
「これで、チーム・ペイル・インク・トライフェクタの勝機を完全に潰せる」
ナクティア
「そして……私達は万全の状態で先頭へ辿り着ける」
ハクレイナ
「さて……二対一だよ」
ハクレイナ
「どうする?ノクスヴェイル」
ノクスヴェイル
「……ひどい人達ね」

その時だった
ノクスヴェイルが後方を見る
そして小さく目を見開いた

ノクスヴェイル
「ナクティア」
ノクスヴェイル
「後ろ……凄い勢いで追って来てるわよ」

振り返る二人
遠く
だが確かに見えた

三つの影が猛然と迫っていた

ヴァイスノヴァ
ルナヴェイル
サクラミスト

ナクティア
「なっ……」
ハクレイナ
「嘘でしょ……」

ノクスヴェイルは笑った
楽しそうに
心の底から

ノクスヴェイル
「ふふ……まさかこの最高のタイミングで来るとは……利用させてもらうわよ」
ノクスヴェイル
「課金の時間よ」

その瞬間
ノクスヴェイルが一気に加速した
残された力を全て使うようなラストスパート

ナクティア
「しまった!」
ナクティア
「ハクレイナ行け!」
ナクティア
「後ろは私が何とかする!」
ハクレイナ
「了解!」


……追いつく
ただそれだけを考えていた
呼吸は苦しい
脚も痛い

だが止まる気はなかった
気付けば先頭集団が目前まで迫っている

そして

ナクティア
「あの状況でここまで来るとはな」
ナクティア
「正直驚いている」
サクラミスト
「ナクティア」
サクラミスト
「それヴァイスに届いてないよ」

確かに届いていなかった
今の私には前しか見えていない
ゴールだけだ

ナクティアが進路を変える

止める気なのだろう

だが

ルナヴェイル
「させません」

静かな声
その直後
ルナヴェイルがナクティアの進路を塞ぐ

ナクティア
「……!」
ルナヴェイル
「月明かりは、まだ消えておりませんので」

二人の攻防

私はそれを横目で見ただけだった

前へ
ただ前へ
気付けばナクティアの横を抜けていた

そして……

サクラミスト
「追いついた!」

ついに先頭集団へ到達する

ヴァイスノヴァ
「ありがとうございます」
ヴァイスノヴァ
「サクラミスト」
サクラミスト
「どういたしまして!」

前を走るハクレイナが振り返った

ハクレイナ
「久しぶりだね……ヴァイスノヴァ」
ヴァイスノヴァ
「そうですね……ハクレイナ先頭に追いつきました」
ヴァイスノヴァ
「協調はここまでですね」
ハクレイナ
「……ええ」

それ以上は言わなかった
言葉より先に勝負が始まる

東京競馬場
最後の直線

残るは三人

ノクスヴェイル
ハクレイナ
そして私

ノクスヴェイル
「すごいですね……ヴァイスノヴァ」
ノクスヴェイル
「まさかあの状況から追いつくなんて……」
ハクレイナ
「ノクスヴェイル」
ハクレイナ
「無駄な口撃はせず……今は走りに集中した方がいいわよ」

視界にあるのはゴールだけ
残り100

そして前を走る二人の背中だけ

ノクスヴェイルが伸びる
ハクレイナが差を詰める
私も追う

追う
追う
追う

もう脚の感覚はない

苦しい
痛い
それでも

前へ
前へ
前へ

そして……ゴール

勝負は決まった

勝者は……ハクレイナ

僅差の勝利
私は……一歩届かなかった

ハクレイナ
「危なかったー!」

ゴール後……私は大きく息を吐いた

ヴァイスノヴァ
「負けました」

 ヴァイスノヴァ
(今回のレースは騙され……そして負けた)
(でも……今度は勝つ)

その時
実況の声が競馬場へ響く

実況
「一着ハクレイナ!」
実況
「僅差の二着ヴァイスノヴァ!」
実況
「三着ノクスヴェイル!」

歓声が上がる


―その頃、後方―

結果を聞いたランは静かに笑った

ラン
「……勝てませんでしたか」

少しだけ残念そうに
だがどこか誇らしそうに

ラン
「でも……あの状況で僅差の二着」
ラン
「さすが私達のエースですわ」


今回のレースの実況です。興味がある方はお聴きください



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