【騎士様はウザくて面倒だけど、私の大切な人】第1章 「騎士の初陣、後ろの席から見守る影」
第1章テーマは、単純接触効果(ザイアンス効果)
単純接触効果は【人は「繰り返し会う・接触する」ことで、相手への好意や親しみが自然と増していく心理現象】です
しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります
それでは、第1章 「騎士の初陣、後ろの席から見守る影」をお楽しみ下さい
序章はこちらから
――あの頃の私は、静かな図書室が何より好きだった
けれど、彼、柴崎 悠馬(しばさき ゆうま)はいつも私のそばにいた。まるで影のように
「琴音、今日も異常なしだ!」
「……異常って、何を見て言ってるの?」
「廊下の角、給食室の匂い、そしてあの掃除道具入れの扉の隙間!俺は全部見てるから安心してくれ!」
私は返事をせず、本のページをそっとめくった。だけど、その横で悠馬は小さな椅子を持ってきて、私の後ろに座り込む
「悠馬くん……そこ、邪魔だよ」
「む、俺は後ろにいてこそ騎士だ!前に出るのは敵を挑発するだけだし、それは騎士道に反する!」
「……ふうん」
私が小さくため息をつくと、悠馬は嬉しそうに机をノックした
「よし、もし何かあったら俺に合図してくれ。合図は“せき払い”だ!俺はすぐ飛び出してくる!」
「別に飛び出してほしくないけど……」
次の日の体育でも、彼の過剰な「守り」は止まらなかった
「よーい、スタート!」
笛が鳴ると、私はまっすぐ前を見て走る。振り返ると、悠馬がわざわざ後ろを走りながら叫んでいた
「琴音!何かあったら俺が受け止める!遠慮なく転んでいい!」
「転ばないよ……!」
「えっ?転ぶ予定はないのか!? いや、それでも万が一がある!油断は禁物だ!」
周りの友達が笑いをこらえ、先生が何度も注意するけれど、悠馬は全く動じなかった
「悠馬、座りなさい!」
授業中、先生の怒鳴り声が響く。それでも彼は後ろの席に立ち続け、私の背中をじっと見守っていた
「琴音、黒板が見えにくかったら言えよ!俺が高く持ち上げてやる!」
「……それ、何の意味があるの?」
「守りの角度が変われば視界も変わる!俺が盾になる!」
「……」
彼の行動は、私にとってはただの謎だった
けれど、その真剣な目だけは、ずっと変わらなかった
きっと今思えば、彼は「私のために」そうしていたのだろう。でも、そのときの私は、彼のことを「変な人」としか思えなかった
それでも、あの頃の私にとって、悠馬はいつも「後ろにいる存在」だった
いつの間にか、気づけば、そこにいる。そんな奇妙で、やけに近い距離
――あの小さな背中と、騎士のような大きな声
今なら、少しだけわかる気がするの
――ある日、図書室で読んでいた本に、私は夢中になっていた。けれど、横にいた悠馬の視線は、ページではなく、私にずっと向いていた
「琴音、その本、敵の情報か?」
「え? ただの童話だけど……」
「ふむ、童話にもヒントが隠されてる可能性があるな。油断ならない」
「……何と戦ってるの?」
悠馬は何かを決意したように立ち上がると、本棚を一周見回して戻ってきた
「よし、周囲は異常なし!本棚の影にも誰も隠れていない!」
「誰が隠れるの……?」
「わからない!けど、万一を考えるのが騎士の役目だ!」
私はまたため息をついたけど、その横顔は妙に誇らしげで、まっすぐすぎて困ってしまう
次の日の掃除時間。モップを持った私の後ろで、悠馬は雑巾を盾のように構えていた
「悠馬くん、それ……雑巾だよ?」
「琴音の後ろは俺が守る!もし水が飛んできたら、この盾で防ぐ!」
「いや、水なら濡れても大丈夫だし……」
「違う!雑巾は“守護布”だ!何があっても俺が先に濡れる!」
「……そ、そう……」
廊下の向こうで、友達が笑いをこらえているのが見える。私はそっと視線を落とした
「琴音、廊下を歩くときも油断するなよ!右から来る急カーブには特に注意が必要だ!」
「わかったわ……」
私が気まずそうに返事をすると、悠馬は満足げに頷いて先導する。まるで迷路を進むように、角を曲がるたびに「よし、異常なし!」と叫ぶ姿は、ちょっとした冒険のようだった
放課後、教室を出るときも彼の「警備」は続いた
「琴音、帰り道は俺が後ろにつく。追跡者がいたら俺がすぐ捕まえる!」
「追跡者なんていないよ……」
「そんな保証はない!俺は君を家まで送る!いや、送らせてくれ!」
結局、私は根負けして一緒に歩くことにした。ランドセルを背負った小さな背中が、後ろでパタパタと音を立てる
「お菓子、好き?」
突然、後ろから声が飛んできた。
「え?」
「好きなら、今度一緒に買いに行こう!危険な場所は俺が調査済みだ!」
「……うん、ありがとう」
その「ありがとう」は、半分呆れ、半分嬉しさが混じっていたのかもしれない。悠馬は一瞬だけ、得意げに胸を張った
あの頃の私は、彼を面倒だと思っていた。でも、毎日同じ声を聞いて、同じ景色を見て、ふとした瞬間に「また今日もいるんだな」と思うようになった
――静かにページをめくる私と、後ろで騒がしい彼
それはまるで、白いページに小さなインクのしみが広がっていくように、じわじわと私の世界に入り込んできた
けれど、そのときの私はまだ知らなかった
この「騎士」が、ずっと私の後ろに立ち続けるということを――
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↓最後に、第1章のイメージ楽曲と背景画像のトリックアート解説をお楽しみ下さい↓
