橙色の計算違い 担当:レゾナンス・ハーモニクス(Resonance Harmonics)【#ケンタウルスお題に参加するってよ】
この物語のイメージテーマです
聴きながらお楽しみ下さい
それでは本編をどうぞ
夏祭りの灯りが、背中の向こうで少しずつ小さくなっていく
アサガオノワルツ:「良いお祭りでしたね」
クロレイナ:「そうですね……ただ、一番満喫していたのはアサガオさんだったと思います」
アサガオノワルツ:「……否定はいたしません」
彼女の手には、屋台で買った食べ物の袋がまだ二つ残っている
否定できる材料がなかった
ノクターン:「灯りが遠ざかると……不思議ですね。さっきまでの賑わいまで、火と一緒に消えていくようで……」
ミカヅキ:「そうですね……灯りが遠ざかるからこそ、帰る時間が分かるのかもしれませんね……ではみなさん、そろそろ帰りましょうか」
ノクスヴェイル:「待て!!その前に喉が渇いた」
情緒は三秒で終わった
クロレイナ:「そう言えば喉乾きましたね……あ、見て下さい!あそこに自販機がありますよ」
道端の自動販売機が白く光っている。その中で、鮮やかなオレンジ色が五人の目に留まった
ミカヅキ:「バヤリース オレンジ。今日はこれにしましょう」
アサガオノワルツ:「賛成です。お祭りの後ですし、少し甘いものが飲みたいですね」
五人は一本ずつ買った
プシュッ、と缶を開ける音が夜道に重なる
クロレイナ:「あ……美味しいですね。冷たくて、オレンジの甘さがちょうどいいです」
アサガオノワルツ:「屋台の味が残っていましたから、このすっきりした甘さは嬉しいですね」
ノクスヴェイル:「合理的だ。喉の渇きへの対処と満足感を同時に得られる」
クロレイナ:「ノクスさん……飲み物くらい普通に楽しめませんか?」
ノクスヴェイル:「楽しんでいるが?」
ミカヅキ:「ノクスさんなりには、かなり楽しんでいるようですね」
ノクターン:「では、今夜のお祭りも満足だったのでしょうか?」
ノクスヴェイル:「悪くない……だが、問題は支出だ」
アサガオノワルツ:「支出……ですか?」
クロレイナ:「そういえばアサガオさん、結構買っていましたよね」
アサガオノワルツ:「そうですね……みたらし団子、三色団子、草団子、それから……」
クロレイナ:「待ってください。団子だけで三種類あります」
アサガオノワルツ:「それぞれ違うものです」
そこだけは一歩も譲らないらしい
ノクスヴェイル:「問題は支出額ではない」
四人の視線が集まる
ノクスヴェイル:「祭りという限られた時間で満足度を最大化するなら、価格、待ち時間、味、希少性、持ち運びやすさを評価し、最適な順番で屋台を回れなければ」
クロレイナ:「……ただの近所のお祭りですよ?」
ノクスヴェイル:「だからこそだ。時間は有限だ。行列に十分費やすなら、その屋台で得られる満足度が損失を上回る必要がある」
アサガオノワルツ:「ですが、美味しそうだと思った瞬間に買う楽しさもありますよ」
ノクスヴェイル:「衝動購入も満足度に含めればいい」
ミカヅキ:「ずいぶん便利な理論ですね」
ノクスヴェイル:「理論とは現実に勝つためにある」
ノクターン:「では、考えた結果、欲しいものが予算を超えた場合は?」
ノクスヴェイル:「簡単だ」
ノクスヴェイルはバヤリース オレンジを一口飲んだ
ノクスヴェイル:「課金しなさい」
沈黙した
クロレイナ:「…………っ」
クロレイナは口元を押さえた
クロレイナ:「っ、待って……今の流れで……」
ノクスヴェイル:「何だ」
クロレイナ:「あれだけ……費用対効果とか……最適化とか言って……結論が……っ」
笑いを押し込むように、バヤリース オレンジへ口をつける
クロレイナ:「んっ……!」
慌てて離した
クロレイナ:「無理……飲めない……! 課金しなさいが戻ってくる……!」
アサガオノワルツ:「クロレイナさん、落ち着いて……ふふっ」
ミカヅキ:「飲むたびに思い出すのは困りましたね」
その声も少し笑っている
ノクターン:「消そうとすると、かえって残るものもありますから……ふふ」
ノクスヴェイル:「何がおかしい」
クロレイナ:「っ、待って……それ以上……無理……!」
とうとうクロレイナは自動販売機の横で笑い崩れた
祭りの太鼓はもう聞こえない
それでも五人は、冷たいバヤリース オレンジを手にしたまま、しばらくそこを動かなかった
そこは屋台でも
花火会場でもない
ただの帰り道
五人は立ち止まり、同じオレンジを飲んで、くだらない一言で笑った
祭りはもう終わっている
けれど五人の夏は、自動販売機の前でもう少しだけ続いていた
