見出し画像

白い一口を残して 担当:ペイル・インク・トライフェクタ(Pale Ink Trifecta)【#ケンタウルスお題に参加するってよ】

この物語のイメージテーマです
聴きながらお楽しみ下さい

それでは本編をどうぞ


夏の遠征を終えた五人が、夕暮れの道を並んで歩いていた

サクラミスト:「待って!」
ヴァイスノヴァ:「どうしました、サクラミスト?忘れ物ですか?」
サクラミスト:「違うよ! あそこ!」
ラン:「売店……ですわね?」
サクラミスト:「最後にみんなで何か飲もう!」
ヴァイスノヴァ:「水分補給ですか……賛成です」
サクラミスト:「そういう言い方しないで!」

遠征帰りにまで合理性を持ち込むヴァイスノヴァ
間違ってはいない。間違ってはいないのだが……
青春というものは大抵、正論だけでは味気ない

サクラミスト:「これにしよう! カルピスウォーター!」
ユキハク:「……白くて、涼しそうですね」
ラン:「ではこれにしましょう……五人分ですね。わたしもお持ちしますわ!」
サクラミスト:「ありがと、ランちゃん!」

ルナヴェイル:「夏の終わりに白い飲み物……夕暮れの中では、小さな雲を手にしているようですね」
サクラミスト:「ルナちゃん……飲み物の話だよね?」
ルナヴェイル:「ええ」
ヴァイスノヴァ:「そこは認めるんですね」

五人の手に、冷たいカルピスウォーターが一本ずつ渡る

ラン:「では、遠征お疲れさまでした!」
サクラミスト:「かんぱーい!」
ラン:「かんぱーい、ですわ!」
ユキハク:「……乾杯」
ヴァイスノヴァ:「お疲れさまでした」
ルナヴェイル:「今日という光に、乾杯を」
サクラミスト:「ルナちゃんだけ乾杯が壮大!」

五本のボトルが軽く触れ合う

サクラミスト:「んーっ! おいしい! やっぱり動いた後のカルピスウォーターって最高だね!」
ラン:「甘くて爽やかですわ。疲れた身体に染みますね!」
ユキハク:「……冷たくて、優しいです」
ヴァイスノヴァ:「飲みやすいですね。今の状況には合っていると思います」

サクラミスト:「何で感想が分析なの!」
ルナヴェイル:「夏の光も、少しずつ薄くなっていますね」
サクラミスト:「ルナちゃん、今それ言う!?」
ラン:「ふふっ」
ユキハク:「……ふふ」
ヴァイスノヴァ:「確かに……夏の光も、少しずつ薄くなりますね」
サクラミスト:「ヴァイスちゃんまで乗らないでよー!」

笑い声を連れて、五人は再び歩き始めた

ラン:「そういえば今日、サクラミストさんが勢いよく走り出した直後……」
サクラミスト:「あっ、その話する!?」
ラン:「見事に方向を間違えましたわ!」

サクラミスト:「だってみんなそっちへ行くと思ったんだもん!」
ヴァイスノヴァ:「正確には、全員が止まっていました」
ラン:「そこは雰囲気です!」
ヴァイスノヴァ:「事実関係が変わっています」
ラン:「楽しいお話には勢いも必要ですわ!」

サクラミスト:「そうそう! ランちゃん分かってる!」
ユキハク:「……でも、戻ってくるのは速かったですね」
サクラミスト:「でしょ!?」

ヴァイスノヴァ:「能力を、そこで証明する必要はないと思います」
サクラミスト:「もう、ヴァイスちゃん細かい!」

ルナヴェイル:「寄り道も、戻れたのなら道の一部なのかもしれませんね」
ラン:「素敵ですわ!」
サクラミスト:「じゃあ……あの行動は間違えてないね!」
ヴァイスノヴァ:「いえ、間違えています」

そこだけは譲らなかった
カルピスウォーターを飲みながら、五人は今日の出来事を好き勝手に話した
けれど、駅へ続く道が見えてくるにつれ、サクラミストの声だけが少しずつ小さくなった

サクラミスト:「……ねえ」
ラン:「はい?」
サクラミスト:「もうちょっとだけ、ゆっくり帰らない?」
ユキハク:「……いいと思います」
ルナヴェイル:「夕暮れは、急いでも変わりませんから」
ラン:「では、ゆっくり参りましょう!」

ヴァイスノヴァ:「……」
サクラミスト:「ヴァイスちゃん?」

ヴァイスノヴァは時計を見る

ヴァイスノヴァ:「まあ……数分程度なら問題ありませんか」
サクラミスト:「やった!」

五人の歩調が、ほんの少しだけ遅くなった

サクラミスト:「ねえ、ランちゃん。さっきの話、続きは?」
ラン:「もちろんですわ! 実はその後、わたしも……」
サクラミスト:「えっ、ランちゃんも間違えたの!?」

ラン:「違います! 少しだけ道を確かめただけですわ!」
ヴァイスノヴァ:「それを一般的には迷ったと言います」
ユキハク:「……お揃いですね」
サクラミスト:「あははっ! お揃いだ!」

また笑い声が重なった

ラン:「あら? サクラミストさん、まだ残っていますわよ」
サクラミスト:「ん?」
ラン:「飲まないのですか?」

サクラミストはボトルを夕日に透かした
白い飲み物が、底にほんの一口だけ揺れている

サクラミスト:「うん……もうちょっとだけ」
ユキハク:「……そうですね」
ルナヴェイル:「最後の一滴ほど、ゆっくり揺れるものかもしれませんね」
ヴァイスノヴァ:「急いで飲む理由もありません」
ラン:「では……わたしも取っておきますわ!」
サクラミスト:「ふふっ。みんな一緒だね!」

五人の手には、それぞれ少しだけ残ったカルピスウォーター

サクラミスト:「ね、もうちょっとだけ、このまま歩こう!」

誰も急がなかった
冷たいボトルを手にしたまま、五人は夕暮れの中を歩いていく

最後の一口は、まだ白く揺れていた

いいなと思ったら応援しよう!