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【色彩に揺れる恋の軌跡】第1章 「黄色いスケッチブックの約束」

第1章テーマは、色プライミングによる情動転移(Affective Transfer via Color Priming)

色プライミングによる情動転移は【色は、人の感情や行動に無意識の影響を与えることが知られています。「プライミング(priming)」とは、先に与えられた刺激が、その後の行動や判断に影響を与える現象】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第1章 「黄色いスケッチブックの約束」をお楽しみ下さい

序章

あの頃のパパは、いつも何かを観察していた
人の表情、声のトーン、空の色の変化とか
私が何を感じているのか、どうしてそんなに知りたかったのか、今でもよくわからない

ある日、放課後の教室で彼は突然言った

「今日の気分を、色で描こう」
「……色で?」
「うん。感情には“色の波長”があるらしい」

パパ――いや、当時の遼介は、真顔でそう言いながら、机の上にスケッチブックを広げた
新品の絵の具と筆。光に反射して、透明な水の粒がきらめく

「君の“今日”を、ここに記録しておきたいんだ」

どうやら、恋よりも研究の方がずっと大事な年頃らしい

「……恥ずかしいよ。みんな見てるし」
「恥ずかしさもデータの一部だよ」

私は半ば呆れながら、筆を取った。黄色いページに、適当に丸を描く

「これでいい?」
「それ、何の気分?」
「お腹すいた」
「なるほど。空腹は明度が高い」

冷静に考えれば、ただの変な観察日記だった
でもその日から、私たちは毎日違う色を塗るようになった

青の日は、言葉が少なかった
赤の日は、なぜか喧嘩した
緑の日は、少しだけ笑えた

彼はスケッチブックの端に、小さな文字で記録をつける

《被験者N:青=沈静、赤=攻撃性、緑=安定》

横で私は、ただの落書き帳だと思っていた
でも彼の筆圧の強さだけは、やけに真剣だった

「ねえ、これ何になるの?」
「まだ途中経過。でもきっと“心の地図”になると思う」
「地図?」
「うん。君の感情の、色の地図」

その言葉の意味は、子どもだった私には少し難しかった
けれど、描き終えたページを閉じるとき――
確かに、自分の中の何かが少し軽くなっていた気がした

放課後の夕日が教室に差し込み、紙の黄色が光を跳ね返す

「ねぇ、神谷君。黄色って、どんな気分の色?」
「笑顔。あと、希望」
「ふぅん……」

私は筆を動かしながら、こっそり自分の頬を触った
少しだけ、温かかった

あの頃の私は、ただの“実験の被験者”だったのかもしれない
でも、笑顔の色を描くたびに、彼の真剣な横顔が思い出に残っていく
恋とは呼べない感情が、絵の具の匂いと混ざって、胸の奥に少しずつ滲んでいった

――理屈では説明できないけれど
私は、あの黄色いスケッチブックを、今も捨てられずにいる

次の日、私は寝坊した

朝から髪がまとまらず、筆箱を忘れ、靴下の片方が違う色。そんな日に限って、遼介はきっと教室でスケッチブックを広げて待っている

急いで校門を駆け抜け、教室の扉を開けた瞬間――息が止まった

そこは、まるごと“黄色”の世界だった

黒板には黄色いチョークで「おはよう」と書かれ、机の上には黄色い折り紙の花。天井から吊られた紙風船まで、すべてが淡い光を反射していた

窓辺には、あのスケッチブックが開かれている。ページの上には、彼の字でこう書かれていた

《被験者N:笑顔の色、実地確認中》

「……なに、これ」

息を切らして呟くと、パパは真顔で立ち上がった

「黄色は、笑顔の色なんだろ?」
「だからって、教室まで染めなくても……」
「環境要因を統一したほうが正確なデータが取れる」
「……データって」

周囲の机を見渡すと、クラスメイトの机にも小さな黄色い付箋が貼られている

そこには「君の笑顔=サンプル2」などと書かれていた

私は呆れながらも、少し笑った
彼の言葉はいつもおかしいのに、なぜか反論する気が失せる

「ねぇ、神谷君。これ、怒られない?」
「先生にも説明した。『環境心理の実験です』って」
「通じたの?」
「うん、たぶん半分くらい」

真剣な顔で言うから、余計におかしい
でも、その真剣さが好きだった
彼の世界では、笑顔も、色も、記録できる現象なのだ
私にとってはただの“気分”なのに、彼にとっては“法則”なのだろう

窓から差し込む光が、黄色い紙を透かして揺れていた
教室の空気まで少し柔らかく見えた
誰かが笑った気がして、私もつられて笑った
理由なんてない。たぶん、彼がそう仕向けたのだ

「なぁ、乃夢」
「なに」
「もし本当に、色で気分が変わるならさ」
「うん」
「君の笑顔が出たときの色を、ちゃんと残しておきたい」
「……また実験?」
「うん。でも、これは“保存用”だから」

彼はそう言って、黄色い紙を一枚、私の机に置いた
そこには「笑顔=観測成功」とだけ書かれていた

私は黙って紙を見つめ、そっと折りたたんだ
なぜだろう、胸の奥が少しだけ明るくなった気がした
それは、日向に置き忘れた絵の具のように、どこか懐かしい温度をしていた

――後にあの紙は、アルバムの中に貼られた
色あせた写真の隅に、小さく挟まれた黄色い付箋
娘がそれを見つけて首をかしげたとき、私は笑って答えた

「それはね、パパが“笑顔の研究”をしてた頃の記録なの」

そして、少し照れながら心の中で付け足す
――あの日、確かに私は、いちばん自然に笑っていた

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↓最後に、第1章のイメージ楽曲をお楽しみ下さい↓

小学校時代の乃夢のイメージソングも同時にお楽しみ下さい


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