寄り道の花便り 担当:ペイル・インク・トライフェクタ(Pale Ink Trifecta)
みなさん、ようこそお越しくださいました♪
ペイル・インク・トライフェクタ(Pale Ink Trifecta)サクラミストです
今回のお話は、遠くへ冒険する物語ではありません
家族で、少しだけお散歩に出かけるお話です
歩いて、立ち止まって、笑って、少し迷って
何気ない一日だからこそ見つかる景色って、きっとありますよね
同じ道を歩いていても、見つけるものは人それぞれ
でも、その違いがあるから、一緒に歩く時間はもっと楽しくなるのだと思います♪
さあ今日は、日ノ出家のみなさんと一緒に、夏の町をのんびり歩いてみませんか?

夕方の風は、不思議です
昼の熱を静かに受け止めながら、夜へ渡す準備をしているのでしょう
日ノ出家にも、そんな風が一つ吹きました
影臣:「今日は少し涼しくなりましたね……少し、歩きませんか?」
陽菜乃:「いいじゃん! じゃあアイス買いに行こ!」
影臣:「いえ、散歩のつもりだったのですが……」
陽菜乃:「歩くんだから一緒!一緒!!」
光里:「賛成! 期間限定のアイスあるかもしれないし!」
影臣:「……そうですか」
影乃:「お父さんは、歩くことが目的だったのですよね」
影臣:「ええ……そのつもりでした」
陽菜乃:「目的なんて歩いてから考えればいいじゃん」
光里:「そうそう! アイス食べながら散歩すれば、二つ楽しめるよ!」
影乃:「同じ言葉でも……受け取り方は少しずつ違うようですね」
陽菜乃:「難しく考えなくていいって。楽しかったら勝ち!」
光里:「ほら、早く行こ!」
言葉は一つでも、流れは四つ
それは川が枝分かれする姿にも少し似ています
どちらが正しいかではなく、それぞれが自然と向かった先なのでしょう
影臣:「暑さは残っています。飲み物は持ちましたか?」
陽菜乃:「私は途中で買うから大丈夫!」
光里:「私もあとでジュース買う!」
影臣:「それでも最初の一本は持っていた方が安心ですよ」
影乃:「私は持っていきます」
陽菜乃:「もう……お父さん心配性なんだから」
影臣:「そうですか?でも……何事もないのが一番ですから」
陽菜乃:「はいはい。じゃあ私はお茶一本持ってく!」
光里:「じゃあ私も持っとこ」
玄関の扉が開くと、昼より少し柔らかくなった空気が迎えてくれました
西の空は橙色を残し、その向こうでは夜が静かに近付いています
光里:「見て見て! 夕焼けきれい!」
陽菜乃:「ほんとだ。写真撮ろうかな」
影臣:「今日は雲が少ないですね」
影乃:「昼と夜が、少しだけ隣同士になっています」
光里:「影乃は景色まで文学になるんだね」
影乃:「そう……なのでしょうか?」
陽菜乃:「それが影乃らしいじゃん」
四人は笑いながら歩き始めました
『散歩』
その一言に込めた意味は、誰一人同じではありません
けれど歩幅だけは、不思議と揃っています
月明かりはまだ届いていません
それでも夕暮れは、それぞれ違う思いを連れた四人を、静かに同じ道へ導いているようでした

四人は、夕暮れの道をゆっくり歩いていました
蝉の声は少し遠くなり、風だけが時折、肩を撫でていきます
話し続ける時間もあれば、誰も何も言わない時間もありました
その沈黙は、不思議と気まずくはなかったように思います
光里:「あっ、見て! 猫!」
陽菜乃:「ほんとだ! ちっちゃい!」
二人が駆け寄ると、猫は一度こちらを見て、植え込みの奥へ静かに歩いていきました
光里:「行っちゃった」
陽菜乃:「逃げられたね」
影臣:「驚かせてしまったのでしょう」
影乃:「でも、一度こちらを見てくれました」
少しだけ静かな時間が流れます
追いかける人はいませんでした
猫が安心して去っていける距離を、誰も壊さなかったからかもしれません
陽菜乃:「じゃあ気を取り直してアイス!」
光里:「その前にさ、あのお花きれい!」
道端の小さな花壇に、夏の花が並んでいました
光里はしゃがみ込み、陽菜乃も隣へ座ります
影臣は少し後ろで立ち止まり、その様子を見守っていました
影乃も父の隣で足を止めます
影乃:「待っているのですね」
影臣:「ええ。急ぐ理由はありませんから」
影乃:「お父さんは、よく待ってくださいます」
影臣:「皆さんが楽しそうなら、それで十分ですよ」
影乃は小さく頷きました
その言葉に返事はありません
けれど、少しだけ肩の力が抜けたようでした
光里:「ねえお母さん、この花なんて名前?」
陽菜乃:「知らない!」
光里:「即答なんだ」
陽菜乃:「きれいなら名前知らなくても十分!ほら影乃もおいで!」
影乃:「はい」
影乃が近づくと、陽菜乃は少しだけ横へずれました
何も言わずに空いた、その半歩ぶんの場所
影乃も何も言わず、そこへ立ちます
誰も、そのことには触れません
風だけが静かに通り過ぎていきました
特別な出来事はありません
予定が変わったわけでもありません
それでも、歩き始めたときより、四人の距離は少しだけ近くなっていたように思います
それは言葉ではなく、待つ時間や譲る場所の中で育ったものだったのかもしれません
それだけで、十分だったように思います

四人はコンビニへ入りました
歩いた先に着いた場所です
ここからは、それぞれが自分で選びます
陽菜乃:「着いたー! アイス!アイス!!」
光里:「新作あるかな!」
二人はまっすぐ冷凍ケースへ向かいました
影臣と影乃は、その少し後ろを歩きます
影臣:「転ばないようにしてくださいね」
光里:「子どもじゃないって」
陽菜乃:「でも私は滑りそう!」
影乃:「お母さんは否定できませんね」
陽菜乃:「ひどい!否定してよ」
四人は冷凍ケースの前で立ち止まりました
光里:「これ気になる」
陽菜乃:「私はもう決めた!」
光里:「早っ!」
陽菜乃:「だってパッケージかわいいもん」
光里:「それで決めるの?」
陽菜乃:「最初に食べたいって思ったから!」
影臣:「直感も理由の一つですね」
光里はケースの中を何度も見比べます
右を見て、左を見て、また右を見る
光里:「うーん……」
影乃:「迷っていますね」
光里:「限定にも弱いし、定番にも弱いんだよね」
陽菜乃:「両方買う?」
光里:「それは……お財布が許してくれない」
影臣:「一つに決めるのも楽しみだと思います」
光里:「……よし」
光里は一つを手に取り、もう一つを棚へ戻しました
光里:「今日はこっち!」
陽菜乃:「決断したね!」
影乃もケースを見つめます
影臣:「影乃は、どれにしますか?」
影乃:「今日は暑いですから……溶けにくいものにします」
光里:「そこまで考えるんだ」
影乃:「最後まで、おいしく食べたいので」
影臣は静かに頷き、自分も一本のアイスを手に取りました
光里:「あれ、お父さんいつもの?」
影臣:「はい。食べ慣れていますから」
陽菜乃:「お父さん、毎回ぶれないね」
影臣:「迷わないと決めています」
陽菜乃:「それもお父さんらしいか……よし、レジ行こ!」
光里:「早く食べたい!」
影乃:「少し溶け始めそうですね」
影臣:「それでは行きましょう」
誰も同じ基準では選びませんでした
楽しさ
見た目
食べやすさ
慣れた安心
それぞれ違います
けれど、自分で選ぶことだけは同じでした
正解だったかは分かりません
ですが、その場で考え、自分の理由で決めたことは事実です
四人はアイスを手に、静かに店を出ました

店を出ると、空はもう半分ほど夜へ変わっていました
四人はアイスの袋を提げ、来た道を戻ります
陽菜乃:「帰ったらすぐ食べよ!」
光里:「え、歩きながら食べないの?」
影臣:「暗くなってきました。足元を見た方がよいでしょう」
光里:「お父さん、最初から最後まで安全第一だね」
陽菜乃:「じゃあ光里、転んだらアイス没収ね」
光里:「それは重すぎる罰!」
影乃:「没収したアイスは、お母さんが食べるのですよね」
陽菜乃:「よく分かったね」
光里:「それ安全対策じゃなくて横取りじゃん!」
賑やかな声が、夕暮れの道に重なりました
一人で歩けば、ただの帰り道だったかもしれません
四人で歩くと、短い道にも話が増えていきます
光里:「ねえ、お父さん」
影臣:「どうしましたか?」
光里:「今日の散歩……ちゃんと散歩になった?」
影臣は少し考えました
影臣:「予定より立ち止まることは多かったですね」
陽菜乃:「それ失敗ってこと?」
影臣:「いいえ。歩いたことに変わりはありません」
影乃:「お父さんの思っていた散歩とは、少し違ったのでしょうか?」
影臣:「そうかもしれません」
光里:「じゃあ、次は寄り道なしにする?」
陽菜乃:「えー、それ散歩の楽しさ半分になるよ」
影臣:「次も、そのとき考えましょう」
光里:「お父さん、丸く収めた」
影乃:「受け入れたようにも聞こえます」
影臣:「問題ありません……皆さんと歩けましたから」
陽菜乃:「それ先に言えばいいのに!」
影臣:「聞かれませんでしたので」
光里:「お父さんって……たまに急に強いよね」
少しだけ風が吹きました
陽菜乃が袋を持ち直すと、影臣が何も言わず反対側を支えます
光里はそれを見て、影乃の隣へ歩幅を合わせました
光里:「影乃、疲れた?」
影乃:「少しだけ」
光里:「じゃあ、ゆっくり帰ろ」
影乃:「……ありがとうございます」
陽菜乃:「みんな置いてかないから大丈夫だよ!」
影臣:「ええ。一緒に帰りましょう」
特別な約束ではありません
けれど、誰かが速度を落とせば、ほかの誰かも自然に足を緩めました
それもまた、家族の縁なのでしょうね
陽菜乃:「着いたー!」
光里:「早く開けて! アイス溶ける!」
影臣:「今、開けます」
玄関の扉が開きました
冷房の涼しい空気と、いつもの家の匂いが流れてきます
陽菜乃:「ああー、生き返る!」
光里:「家、最高!」
影乃:「落ち着きますね」
影臣:「では、手を洗ってから食べましょう」
陽菜乃:「今すぐじゃ駄目?」
影臣:「駄目です」
光里:「そこは譲らないんだ」
四人は笑いながら家へ入ります
見ていたものも、歩いた理由も、それぞれ違いました
それでも最後には、同じ涼しさへ帰ってきました
賑やかな散歩でしたね
少し暑くて、少し遠回りで……
また歩く理由としては、それで十分なのかもしれません

物語は以上です
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